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ありあまる富

子どもの頃からイベントが苦手だった。
誕生日とか、クリスマスとか、ハロウィンとかバレンタインとか、花火大会とか夏祭りとか、そういうやつ。

「みんな楽しくてハッピーじゃないといけない」と見えない何かに脅迫されてるような気分になってしまうから。楽しめない側にいる人の気持ちなんてまるで無視するみたいに、ひどく暴力的で怖い。

きっと楽しむ才能が無いんだなと幼心に悲しくて、年齢を重ねる毎にどんどんイベントが苦手になっていった。
誰かと一緒に過ごした思い出なんて、すぐに数えられるくらいしかない。

先週末、夏休みみたいに全力で遊んだ。
雑誌に特集されるような「大人の夏休み」とはかけ離れていたけど、たくさんの初めてに出会えた小学一年生みたいな気持ち。

金曜日、31歳になった。
東京の友人から誕生会を開いてくれると連絡が来て、今までだったら絶対に断っていたけど、厚意に甘えさせてもらうことにした。いつまでも苦手なままにしておくのが悔しいから。

おっさんの誕生日なんて誰も興味ないよなと思いながら、でも自分の中でのちょっとした挑戦だからと、会う人やSNSでもしっかりアピールしてみた。

想像していたよりもずっとたくさんの人にお祝いをしてもらえて、京都からわざわざ東京まで来てくれた友人もいて、とってもとっても嬉しかった。

たくさんの「ありがとう」を返せる一日は、なんて素晴らしいんだろう。


土曜日は浴衣を着て、ドライブをしながらみんなで花火大会に行った。
学生時代に好きだった音楽を流したり、サービスエリアで美味しいものを探したり、会場に着くまで我慢できなくてコンビニで酒を買ってしまったり。

都心じゃ見られないくらい近くで花火が見れて、「綺麗だね」「大きいね」「音がすごいね」なんて簡単な言葉がほろほろこぼれる。

花火大会がこんなに楽しいだなんて、今まで知らなかった。


日曜日は商店街の夏祭りへ。
子どもたちがたくさん笑っていて、平和で優しい雰囲気。ヤンキーがいない夏祭りなんてこの世にあるんだと驚いた。
射的も型抜きも上手くいかないけど、焼きそばも鮎の塩焼きも美味い。

初めてなのに自然とそれなりに踊れてしまうし謎の一体感を生み出す盆踊り、自分は日本人なんだと実感しておもしろい。

自分から楽しもうとすれば、こんなにも楽しさは溢れていたのか。

もしも日本の人口を資産順でランキングしたら、僕はかなり下の順位で自分の名前を見つけるだろう。

こんな状態で「お金より大事なモノがある」なんて言いたくなくて。
そういう素敵な響きの言葉は飽きるほどに金を稼ぎきった人が言わないと説得力がないよな、と思っちゃうから。

でも分かったのは、お金とそれ以外の大事なモノをどっちが上とか比較すること自体がすごくナンセンスだったなということ。

会社名を言えばみんなに伝わったり預金残高に余裕があった頃にしか見えなかったこともある。いろんなものを手放してから気付けたことも、たくさんある。


今日も今日とて、その日暮らしだ。
それでも、ありあまる富がある。
無くすのを想像すると怖くて泣けてきてしまうほどに。

ひとつも無くさないように、少しも粗末にしないように、死ぬまで生きる。









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