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憧れのフランスのピアニストが今もまだ相変わらずカッコイイので紹介する

自動レコメンドが大嫌いだ。
私の好みに合わせて勝手に表示を決めるな!
私の興味範囲を勝手に狭めるな!
世間で人気の情報をトップに載せるな!
(私にとってはそんなのどうでもいい!)
この世は退屈だ。退屈な情報ばかり押し付けてくるサイトばかり。
noteでもYouTubeでもトップページにずらりと並ぶ自動レコメンドは基本的に無視する。

しかし・・・たまに観てしまうこともある。

下の動画は、昨日YouTubeトップページの2列目ぐらいに、控えめに表示された新しい動画である。サムネイルはヴァイオリニストの画像だが、動画タイトルのピアニストの名前に私は反応した。私の憧れのピアニストだ!

彼が演奏する動画など滅多に投稿されない。
たとえ動画が投稿されても、自動レコメンドは教えてくれない。つまり、私の憧れピアニストが出る動画は、あまり世間で話題にされず、私が彼の名で動画を検索するのも数ヶ月に1回ぐらいなので、私の直近の利用歴や世間での人気を参考にして表示する自動レコメンドはまったく役に立たないのだ。

私はSNSを離脱した人間なので、最近のSNS事情は知らないが、SNSにも彼の情報は滅多に出ないと思われる。(共演者のアカウントにたまに顔を出すぐらい?)

ピアニストの名はフランク・ブラレイFrank Braley, 1968 -  )という。
曲はエルネスト・ショーソン作曲のピアノと弦楽四重奏のための協奏曲より「シシリエンヌ」である。

抜群にセンスの良い音選びに惚れ直す。
美しいフレーズは繊細だが甘ったるくない。
盛り上がるところは深く豊かな表現だが、必要以上に目立つわけではなく、絶妙なバランス感覚。

これは一体何の企画だ?このヴァイオリニストは誰?名前は知らないのだが何となく見たことあるような・・・

名前をググってみたら、謎はすぐ解けた。Gabriel Le Magadure は弦楽四重奏団 Quatuor Ébène のメンバーである。

そして、あまり知られていないこのYouTubeチャネル Appassionato は、Quatuor Ébèneのヴィオラ奏者だった Mathieu Herzog が立ち上げたアンサンブル Appassionato のチャネルである。実はMathieu Herzogが好きだったので、ヴィオラ奏者から指揮者に転身した彼を応援するつもりで数年前にチャネル登録をしていたのだが、そんなことはすっかり忘れていた。過去に検索したキーワードの動画が登録チャネルに出ていたので自動レコメンド一覧に加えられたのだろう。

もうすぐこの室内楽CDがリリースされるようだ。楽しみだ。

さて、憧れのピアニストの話に戻ろう。せっかくなので、この機会に懐かしい動画を含め、いくつか気に入っている動画をご紹介する。

2011年の東日本大震災と原発事故を受けて、多くの海外アーティストは来日をキャンセルした。5月連休に東京で開催される音楽祭ラ・フォル・ジュルネも来日キャンセルが相次いだ。そんな中、過去にこの音楽祭の常連だったフランク・ブラレイは自ら望んで来日し、キャンセルしたピアニストたちの穴を埋めた。

クラシック音楽鑑賞歴3年ぐらいだった私にとって、ラ・フォル・ジュルネは自分の鑑賞幅を広げてくれる重要なイベントだった。救済者のように現れたこのピアニストの演奏を聴いてみたい。室内楽の公演を聴いた。直後からじわりじわり気になり始めた。このピアニストについて調べれば調べるほど新しい世界を知る。ワクワクする。

その頃、よく観たのがこちらの動画。ピアニストの指に釘付けになった。こんな指の動きは見たことない。

以下の情報は、その頃、ネット中の日本語・英語・フランス語の情報をかき集めて調べたものであり、事実と違う部分や私の勘違いもあるかもしれないので、あまり参考にしないようにしていただければと思う。ただ、イメージを掴んでいただけたら十分。

フランク・ブラレイはピアノ天才少年で早くにパリ国立高等音楽院に入学したのだが、違和感を覚えて一旦は音楽院を去り、物理か何かを勉強するため大学進学したのだが、音楽院に戻ってピアノに再び向き合った。父は映画関係者(ジャン=ピエール・メルヴィルの右腕だったそうで、たまたまコクトー原作の映画「恐るべき子供達」を見ていたらオープニングロールに確かにメルヴィル監督のすぐ下にBraleyという名があった!)、母はピアノ教師?だったはず。数学や天文学も好きだとか、兄たちの影響でロックやジャズ、ポップスにも夢中だったとか、スポーツも好きだったとか・・・

音楽院に戻ったフランク・ブラレイは毎日音楽院に通うことは拒否して、自分で作品を仕上げ、仕上がった段階で先生に見てもらうという方法で学んだ。(これはCDブックレットのインタビューにそう書かれているので、確実な情報だと思う。)ジャック・ルヴィエ先生も寛大だ。自分の時間を十分確保したフランク・ブラレイは文学や映画、美術など幅広く教養を深めていった。

そして、国際コンクール初参加でいきなり優勝してピアニストの道に進んだ。世界三大コンクールの1つであるベルギーのエリザベート王妃国際音楽コンクールである。私はあまりコンクール好きではないのだが、この興味範囲の広いピアニストは、コンクールで優勝しなかったら、結局別の道を選んでいたかもしれないと思うと、コンクールがあって、そこで結果を出して、認められて、良かったなと思う。

デビューCDでシューベルトのD959とD946を録音するという恐るべき若者である。20代の演奏とは思えない表現力。

ところが、フランク・ブラレイはあまりCD録音には熱心ではないように見える。音楽といえばライブでお客さんと一緒に楽しむものであるという考えを持っていると、どこかで読んだような記憶がある。シューベルトのソロCDの後、リヒャルト・シュトラウス1枚、ベートーヴェンソナタ1枚、ガーシュイン1枚をいずれもharumonia mundiから出して、一旦ストップ。

私がまだこのピアニストのことを知らなかった2008年の来日リサイタルに合わせて、おそらくソロCD録音しませんかと日本から提案があったのではと思うのだが、その時のソロCDでドビュッシーとラヴェルを録音している。ソロ CD録音はそれだけ。あとはコンクールでの生演奏が一応CDでも聴ける。

一方で、共演者に誘われて参加した録音は沢山ある。ヴァイオリンとチェロのカピュソン兄弟とのベートーヴェンやシューベルトのCD、エリック・ル・サージュ、ニコラ・アンゲリッシュ、アレクサンドル・タローなどピアニストとの共演。演奏仲間に信頼される人気のピアニストなのだ。

ちょうどフランク・ブラレイを知ったばかりだった頃、彼はパリ国立高等音楽院の教授に就任。日本出身の生徒も受け持っており、熱心に指導していたようだ。今も教授なのだろうか?調べていないのだが。

そして、ベルギーの室内オーケストラの音楽監督にも就任。演奏活動に加えて教授職に音楽監督(指揮)という多忙な時期だった。音楽監督は確かすでに任期を終えたと思う。

私はといえば、このピアニストに心底憧れた。彼の影響で楽譜を買って(弾けもしないのに)挑戦した曲も多い。ピアノや音楽の枠を越えて、人生の先輩として参考にしたいと思った。粋で洗練されたカッコイイ憧れの人である。

こんな人は絶対に日本にはいない。この人を生み育てたフランスというところに行ってみよう。そしてこの人の演奏もそこで聴いてみよう。そう思って、思い切ってパリに飛んだのが翌年2012年。

(この動画の演奏を現地で聴いたのだ!)

ヨーロッパで音楽鑑賞するというライフワークがスタートした。そのきっかけを作ったのはフランク・ブラレイである。

こんなお金と時間と気力を要するライフワークに私を導くとは!なんという罪な人だろう!(おい、スズキ!憧れの人を勝手に罪人にするな!)

でも、私の世界を広げてくれてありがとうと心から思う。退屈な社会に生きる私の世界を広げてくれる人など、私の周囲にはいないのだから、あなたの存在がかけがえのないきっかけとなった。

憧れのミュージシャンがいると、通常はその人にだけ夢中になるのかもしれないが、私はそこをきっかけに広く広く興味範囲を広げていった。結局、ヨーロッパ音楽旅でフランク・ブラレイの演奏を聴いたのは2回だけだった。しかし、彼の演奏を知ることで室内楽をよく聴くようになった。一時期はフランスのピアニストを集中的に聴いたり、harumonia mundi を愛聴したり。それからもっと幅広く聴くようになった。ヨーロッパ各地に行くことで新たに歌曲やオペラを知る機会も増えた。(むしろ近年はピアノソロをあまり聴かなくなったかも・・・)


おすすめ動画


かなり古い(2005年)演奏なので3人とも若い!
シューベルトのピアノ三重奏曲。こんな演奏を音楽祭で野外で聴けるヨーロッパが羨ましい。


ブラレイさんはシューベルト弾きなのだが、シューベルトを弾きながらガーシュインも得意という、奇妙な人でもある。私が特に気に入っているのは、ガーシュインCDの最初の1曲目。ブラレイさんは和音のバランスがいつも最高なのだ。ガーシュインでもシューベルトでも。ベートーヴェンでもドビュッシーでも。


下はバッハの2台ピアノを一昨年急逝したニコラ・アンゲリッシュと弾いている動画。これもよく観た。以前はこの演奏のフルバージョンがあったと思うのだが、もうないのだろうか。ブラレイさんのバッハは滅多に聴けない。2008年の来日では私の好きなパルティータ2番を弾いたらしいが、ブラレイさんの存在を知らなかったので聴けていない。上のベートーヴェンのヴァイオリンソナタ動画で指鳴らしに弾いているのが2番だと思う。


ガラリと変わって下の動画は「マンボー!」である(笑)
この動画、なかなか探せず焦ったが、まだあった。2021年コロナ禍の演奏。一緒にピアノを弾いているのはブラレイさんの盟友エリック・ル・サージュ。ル・サージュさんもまた私の憧れの人なのだ。シューベルトが得意な人とシューマンが得意な人が、マンボーでノリノリな動画。これを観た人は、この二人が正真正銘クラシック音楽のピアニストであることに気づかないだろう!


では、ついでなので、とっておきの下の動画もご紹介しよう。
ロック?メタル?私にはよくわからないのだが。
ベルギーの室内オーケストラの音楽監督時代のブラレイさんである。自分のオーケストラを使ってこんなことやっていいのか?!いいのです!カッコいいから!


普段はもちろん音楽監督として真面目にクラシックを演奏していたので、他の動画もご紹介しておかないと。念の為。

メンデルスゾーンのヴァイオリンとピアノと弦楽のための協奏曲。これ気に入ってます。ヴァイオリンはルノー・カピュソン、ピアノと指揮はブラレイさん。


ご紹介したくても紹介できない演奏もある。
ブラレイさんのラヴェル&ドビュッシーCDは、おそらく日本でしかリリースされていない。多分すでに入手困難なのでは?廃盤かも?言うまでもないが、無料ストリーミングにも入っていない。私はもちろん持っている。しかもリサイタルでブラレイさんからサインをもらった。

CD内のどの曲も極めて名演奏なのだが、その中でも何度も何度もまるで中毒になったように繰り返し聴いた曲がある。ラヴェル「鏡」より「道化師の朝の歌」である。他にもエル=バシャさん (Abdel Rahman El Bacha) やシュフさん (Herbert Schuch) の録音を持っており、それぞれ好きなピアニストなのだが、この曲に関しては圧倒的にブラレイさんが凄すぎるのだ。特に最後の二重グリッサンドの異様な力強さ、ギラギラ感に圧倒されてしまう。あんな音を出そうと思ったら、指から出血しそうなのだが、怪我せずに音を出せる技を編み出したのだろう。気になるなら、どこかで頑張ってそのCDを探して聴いてみてね。

その他、日本で聴いたブラレイさんの演奏やCDなど、話はいくらでもあるのだが、長くなりすぎるのでこの辺で終わりにしておく。

読んでいただきありがとうございました!



【おまけ】

ええ!
今、2024年ですって?!

憧れのピアニストのような洗練された大人でありたいと思ってから、とっくに10年以上経ってしまった!

私は成長できたのか?
いや、できていない。
身も心もダサいオバサンになってしまった。
反省しろ自分!
はい、反省します。

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