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眠れない夜と、その同士たち

(今週のテーマ:眠れない夜)

「いまその商品は売り切れてまして...」

コンビニの店員さんが申し訳なさそうにそう伝える。なんとなくそうだと思っていたが、ここまで安眠グッズが売り切れてるとは思わなかった。どれだけ東京の人は眠れないのだろう。ちょっとした同士がすぐ近くにいると思うと、すこし嬉しくなった。

もう何日も眠れない日が続くと、眠れない自分がおかしいんじゃなくて、夜は眠らないといけない世の中の暗黙の了解的な部分がおかしいんじゃないかと、変な錯覚に陥る。

昔は眠れないといえば、明日にすごくワクワクすることがあるような、修学旅行の前夜みたいなことがほとんどだった。それが今は夜中になると、いろいろ考え事なんかをしてしまうせいか、てんで眠れなくなった。社会人になってすこしは改善されたかと思ったけど、どうやらまた不眠症みたいなものがぶり返したらしかった。

午前2時過ぎ。外へ出た。

夏の深夜は昼間とは打って変わって涼しい。半袖短パンだとすこし肌寒かったから、軽く羽織れるものを羽織って外に出る。とりあえず快適に眠れる安眠グッズを買うために、いくつかのコンビニが集まる大通りを目指した。

東京はどこもかしこもまだ明るく、どこか遠くの方で人の声が聞こえる。そんな人たちに気づかれないように 猫の忍び足のようにそっと東京の街を歩く。お酒で簡単に寝ることができれば、それほど楽なことはなかったが、どうやら一人では眠たくならなかった。数人の居酒屋の席ではまあ簡単に眠りにつけるのに、一人では寝れないなんてこれまたおかしな話だった。

最初のコンビニに着いたが、そこに目当てのものはなく、すぐさま次のコンビニを周る。ところがそこにもない。店員さんに尋ねてみると、どうやら目当てのものは売り切れているらしかった。3店舗目4店舗目と周るが、どのコンビニもきれいさっぱりなかった。

5店舗目で最後にしようと入ったコンビニは、入り口にヤンキーっぽい兄ちゃんたちがたむろし入りにくかったが、こちらももういい年齢だ。そんなのは気にしてられない。店内はさえない男子学生が、レジにぼーっと立っているだけで、とてもじゃないけど聞く気にはなれなかった。

奥の方でその先輩っぽい店員さんが掃除をしていたので、目当ての商品があるかどうか聞く。安眠グッズコーナーがあるとのことで、そちらに案内されて軽く期待したがやっぱりそこにもなく、目当ての商品は見事に完売してしまっていた。

そのコーナーにもう一人、いかにも寝付けてなさそうなお兄さんと目が会い、お互い共通の悩みを抱えてるんだなと思いながら軽く会釈する。人には言えないような悩みを赤の他人に打ち明けられたような気がして、ちょっと嬉しくなった。

「いや、どれだけみんな眠れないんだよ」

ちょっと愚痴っぽく一人で言ってみたが、その声にはほんのすこし嬉しさの成分が含まれていた。それにしてもないもんだなあ、めぐリズム。

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今回のアイキャッチ画像は、kikaraさんの「吸う幻、吐く幻」という記事から使用させていただきました。素敵な写真をありがとうございます。

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