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研究奨励金、少なすぎる問題

一つ前にあまりにマニアックな記事を書いたので、次はもう少しシンプルな記事にします…。「日本学術振興会特別研究員制度」という日本の研究者養成の中核であるフェローシップ制度について、その金額が少なすぎるという話を考えたいと思います。ちょうど今日、「『ポスドク』支援へ奨学金拡充・採用増 政府が総合対策 」なんて記事が出ていたタイミングでもあります。

特別研究員の研究奨励金とは

特別研究員制度は、博士課程在学者、博士課程修了者を対象に、その研究成果や研究計画を審査した上で、優れた研究能力を有するものに特別研究員として研究奨励金を支給する制度です。博士課程在学者には特別研究員(DC)として月20万円、博士課程修了者には特別研究員(PD)として月36万2千円が支給されるのですが、今回はこの額について考えたいと思います。

「特別研究員」制度は優れた若手研究者に、その研究生活の初期において、自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与えることにより、我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者の養成・確保に資することを目的として、大学院博士課程在学者及び大学院博士課程修了者等で、優れた研究能力を有し、大学その他の研究機関で研究に専念することを希望する者を「特別研究員」に採用し、研究奨励金を支給する制度です。

一つ前の記事では、この制度と博士課程の教育との関係を考えましたが、

もっとも、ここで言っていたのは現行制度の矛盾の指摘であって、その制度自体がこれでいいのか、そもそもの議論が必要な状況でもあります。

特別研究員制度の特に経済的な側面については、mkepaさんが「国への要求第0版」として研究奨励金の金額が極めて少ない点と「雇用なし給与」のために社会保障はないのに給与扱い課税のみされる点を改善すべき課題として指摘しています。

研究奨励金は上がったか

早速結論ですが、研究奨励金は全然上がっていません。1995年度の研究奨励金は、博士課程在学者が月額19万5千円、ポスドクが28万2千円だったそうです。現在はDCが20万円、PDが36万2千円です。消費税が10%になっても変わらず20万円です。

この間、世間の物価や賃金は上がっています。最低賃金を基準にしてよいかは疑問がありますが、mkepaさんに倣ってそれを基準にして計算してみます。1995年当時の最低賃金(全国加重平均)は611円でしたが、2019年度は901円まで上がっています。これを基準に計算すると、DCが28万7千円なら95年度レベルということになります。生活がままならぬことがご理解いただけますでしょうか。

基準を最低賃金ではなく、境遇の近い修士課程卒の初任給の平均を調べてみます。

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調査が始まった2005年の時点で既にDCの20万円を上回っています。これにボーナスや残業代等が加算されれば更に研究奨励金との差は開きます…。

制度の目的は「優れた若手研究者に」「研究に専念する機会を与える」だったはず…。それが「平均」すら軽く下回る状況…。かつグラフは右肩上がりなので差は開く一方です。

しかも研究専念義務があって、アルバイトしちゃいけないんです。2002年の資料にはこんなことが書いてあります。

アルバイト等を行わなくとも済むよう研究奨励金が毎月支給されることなど、本事業では、研究履歴の早い段階から若手研究者が研究に専念できるよう適正な手段が採られている。
文部科学省事業評価書. 平成14年度新規・継続事業

日本の将来のために、「優れた若手研究者に」「研究に専念する機会を与える」に十分な金額の研究奨励金となることを望みます。

余談

冒頭に挙げた日経の記事を読むと、

政府は今後の目標として、修士課程から博士課程に進学した大学院生のうち約5割が、学内奨学金などで月15万~20万円の生活費相当額を受給できる状況の実現を盛り込んだ。

とか書いてあって、うわーっと思いますね。もらえる人が増えるのはいいことですけど、その金額は研究者養成に十分な額じゃないよ、と言わないとやばいです。

余談2

それから、研究奨励金に課税する問題についても、ちょろっとだけ。そもそも国費を原資とする給付金に課税するのは変だし、「生計の維持に必要な経費」に課税するのも変です。少なくとも現状の金額では研究奨励金は「実費弁償的性格」を持ち、また「社会政策的配慮」に基づくものであり、非課税所得とするべきと考えられます。

(研究奨励金の内容)
第2条 研究奨励金は、次に掲げる経費に充てるために支給するものとする。
一 特別研究員の生計の維持に必要な経費
二 特別研究員の研究の遂行に関連する経費

余談3

2008年6月の「独立行政法人日本学術振興会 第1期中期目標期間 事業報告書」には、特別研究員事業の業務実績として、以下のような記載があるが、「第2期中期目標期間 事業報告書」ではなくなっている。

DCについて大学院修士課程修了者の助教採用相当、PDについて大学院博士課程修了者の助教採用相当、SPDについて大学院博士課程修了者の准教授採用相当の研究奨励金を支給している。

これを一つの基準として金額を検討することは妥当なことのように思える。現状はどうなっているのか検証が必要。

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