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明日は何者になる?

-高校生活全てを新型コロナウイルスの暗い影と共に歩んできた今年の3年生、それでも先に光があることを信じて進み続け、日本一を決めるこの夢舞台にまで辿り着きました-

実況のアナウンサーの方のそんな言葉もあった今年の「"春の高校バレー" 第75回全日本バレーボール高等学校選手権大会」
毎年の年明けに最も楽しみにしているもののひとつだ。「高校バレー」といって侮ることなかれと言わんばかりに、高校生たちの作るバレーはとても見応えがある。準々決勝までは無観客開催だったため、配信で気になる試合はチェックし、会場の雰囲気を味わってみたい思いから、準決勝と決勝の観戦チケットを購入して、すっかり春高バレーおじさんになっていた。

今年の高校3年生の代は入学とコロナの流行がバッティング、大会も中止となり、初年度から思うような活動がなかなかできなかった代だろう。
自分の学生生活を思い出しても、大学院に上がったタイミングで3ヶ月間研究室に行くことすらできず、その後も1日の実験時間が限られていて、歯痒い思いをしていたので、それが高校生の部活ともなれば、気持ちの複雑さは想像を遥かに超えていたのではないかと思う。
しかし、そのような真っ暗な状況の中でも栄光を掴むために、ひたむきにただただバレーに打ち込んできた少年少女たちの、東京体育館のオレンジコートで強烈な光を放ってひたすらに上を目指す姿に胸を打たれた人も多いのでは。自分もその一人である。年々涙腺が緩んでいるので、赤の他人の高校生たちが真剣に日本一を目指しているところを見るだけでもグッとくるものがあるし、少年少女たちの人徳の高さに、自分も意志を持って生きていかねばと、年頭から毎年思わされる。毎年思わされる度に、去年もそう思ってた…の繰り返しである、しっかりしてください。

今回つらつらと書くのは、個人的に大会前から注目していた京都府代表・東山高校、そして大会中に試合を見て気になった和歌山県代表・開智高校についてそれぞれしたためていく。

まず、東山高校についてから。
2020春高バレーでの失セット0での完全優勝劇と変幻自在の高速バレーに度肝を抜かれたであろう方も多く、それが故に常に注目の的になっている東山高校。
翌年の2021年大会では、連覇に期待がかかりながらも、チーム内で発熱者が発生した影響で、大会規定により、まさかの3回戦棄権。王者なき春高と呼ぶ人もいた。
この当時の主将の吉村選手(現・日体大2年:この選手については2年前のnotehttps://note.com/msmn_tos1872/n/n2f85dafa3133に人徳レベルの高さを綴っている。今や彼は小さな上背ながら大学バレーの世界でも活躍している) は、卒業前に「3年生の悔しい思いとか、春高での思いを知っているメンバーがたくさんいると思うので、今年の3年生のためにも日本一になろうと思ってくれたら、ちょっとでも何かを残せたんじゃないかと思っています」と下級生たちの前で語っていたが、その思いをしっかりと受け取っていたであろうこの時の1年生が3年生となり、失セット0の圧倒的強さでインターハイを制し、最後の春高を迎えてもなお、ひとつのセットも落とすことなく準決勝のセンターコートまで駒を進めた。

準決勝の相手は国体王者の熊本県代表・鎮西高校。高校バレーの主要大会は夏の「インターハイ」、秋の「国体」、そして年明けの「春の高校バレー」 (昔は3月開催だった名残で新春でも"春"である) の3つ、つまりこの準決勝のカードは夏と秋の王者の激突であり、頂上決戦のようなものであった。

今年の東山高校には、高校生で唯一のシニア代表選出の麻野選手(3年)、U18日本代表としてアジア選手権で優勝し、MVPも獲得した尾藤選手(2年)に加え、2019年の都道府県対抗中学バレー ベストセッターの當麻選手(3年)、ベストリベロの池田選手(3年)がいてと、戦力的にはもはやバケモノクラス。

東山高校のすごいところはこのバケモノたちをひとつのチームとして成立させているところだと思う。毎年関西地区のバケモノの卵たちが集まってきて、しっかり全国で戦えるチームを作ってくる。選手それぞれの努力と監督らの指導の賜物だろう。

準決勝を会場で見ていたが、東京体育館は超満員で、立ち見も多く、私もコート斜め後方くらいの位置から立って見ていた。
第1セットは東山高校が取り、第2、3セットは鎮西高校、第4セットは東山高校が取り、試合はフルセットにもつれ込む大熱戦となった。
会場でしか感じられないであろう熱気とリアルな緊張感がとても良かった。点が決まれば選手は走って喜び、監督も走って喜ぶ、こんなに走る監督がいるのかと選手と同じくらい目を奪われた。監督のことは存じ上げてはいたが、ここまで動くとは思っていなかったので、試合中に選手たちと一丸となって喜び、誰よりも声を出す監督の姿は、指導者としてあるべき姿のひとつなのかもしれない。

東山を応援している自分としては、これまでの試合で要所での決定力が高いように見えたミドルの決定率が、準決勝では低いように見え、逆にサイドの調子が良かったように見えたため、第3セット終了の時点で、何らかの力が働いて調子が良くなって、第4セットを奪取できないかと天に願っていたところ、それが働いたのかフルセットまで持ち堪えた。第4セットの展開・流れからして、第5セットももしかして…決勝にいい流れのままいけるのではと思ったところで、それまで鳴りを潜めていた鎮西高校の世代No.1大エース・舛本選手(3年)が覚醒した。
温存していたかのような怒涛の覚醒っぷりで、サービスエースも決め、アジア大会MVPの尾藤選手の勢いを凌駕し、ひとつ下の世代を代表するエースへ、土壇場でのエースたるものの模範的な姿を示しているかのようだった。松永監督の「まだいける!!!」という声が響き渡った後、フルセットの激闘は国体王者鎮西高校の勝利で終わった。

この試合ついて事細かに書こうとすると原稿用紙20枚くらいは語り倒す自信があるので、やめておく。

春高バレーでは3位決定戦は行わず、準決勝で敗退の場合、そのまま即第3位表彰式が執り行なわれる。選手たちも気持ちの整理がつかないままいつのまにかメダルが首にかれられているのだろうか、先日発売された月刊バレーボール2月号には、涙で目を赤く腫らしながら記念写真に映る選手たちが載っていた。
東山高校が敗退し、第3位で闘いを終えたため、高校生という名前の青春に一区切りがつく瞬間を目の前で見たが、終わりの瞬間というものはいつだって悲しくもあり、新たなスタートをにおわせ、何故かわくわくするものでもある。3年生は次のステージに進むが、1,2年生たちは、また来年オレンジコートにかえってきて、ぜひとも頂点に立ってほしい。
春高のみならず、インターハイや国体も、上の世代がなし得なかった"高校三冠"も期待したい。
そのためにはまず、全国屈指の激戦区である京都府予選を勝ち上がらないといけないわけだが…。
府予選も含めて来年度もまた、楽しみに東山高校を追いたいと思う。先日開催された京都府新人戦で見事優勝を飾った新チームの主将は、花村選手とのことで、前述の無念の棄権により、高校日本一へ挑戦できずに終わった兄の分まで活躍を期待したい。
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続いて和歌山県代表・開智高校について。

例年、派手な攻撃スタイルではなく、世代を代表する大エースがいるというわけでは無いものの、攻撃・守備ともに安定した堅固なチームを作っている印象がある開智高校。今回で28年連続の県代表であり、女子も開智高校が県代表とのことで、バレー県下無双の名門校だ。
それにしても高校名が格好よすぎる、高校名を聞いて、何も知らない状態で開智と帰ってきたら、どうやって漢字で書くか調べると思うし、智を開くで開智は二度見すると思う。ユニフォームも、黒に黄色の字もしくは白に黒字で左胸の位置に漢字で縦に開智と入っている。シンプルだが、なかなか見ない迫力があるもので、印象に残るユニフォームランキングのトップに入る。

堅固なチームを作ってくると書いた開智だが、昨年と一昨年は春高全国の舞台を1勝もせずに後にしていて、今年の3年生の代は春高未勝利でラストイヤーを迎えていた、覚悟は並々ならぬものだっただろう。昨年の試合を振り返ると、身長210cmの高さを誇る牧選手(現・筑波大学1年)を擁した香川県代表の高松工芸にフルセットの末敗退している。この試合の最後、牧選手のスパイクを開智の選手がレシーブしたが、ボールはコート外に飛んでいった。このレシーブをした選手が今年度の主将・古谷選手だった。きっと色々な考えが巡ったんじゃないかと思う。相手のマッチポイント24-23の場面で、いくら相手のスパイクが強かろうが、レシーブでうまくボールをつなげられていたら…?デュースに持ち込んで勝てたかもしれない…?とか、少なくとも私だったらそんなタラレバなことを考えてしまう。

「1、2年生でレギュラーで使ってもらって、良い結果が出せなかった。自分らの代ではチームを高みへ連れて行きたい」と主将に立候補、他にも立候補者はいたそうだが、気持ちが最も強かったらしい。その気迫を感じるように、県予選でも全国でも、攻守でチームを先導していた。

昨年度の県代表決定戦決勝では相手校の主将に「あいつのサーブはもう割り切ったらいい、仕方ない」と言わしめるほどのサーブの名手。一体どれだけの練習を積んだのだろうと思わされる強烈な威力を持ち、絶妙なコースをつくジャンプサーブとジャンプフローターサーブのどちらも打つことができ、それは今年もパワーアップして健在、今年度の県代表決定戦決勝の終盤での4連続サービスエースは地力の格の違いを見せつけるようだった。

迎えた全国大会でも、勢いはそのまま、1回戦ではU18日本代表の小野選手擁する聖隷クリストファー(静岡県代表)にフルセットの末勝利。続く2回戦の高岡第一(富山県代表)戦では、第2セット13-12の開智1点リードでラリーが続く中、古谷選手がコート後方でのスーパーレシーブを決め、そこから2年生エースのカズンズ海選手が得点、あの流れはチームの士気を上げるには十分すぎただろう。そんな試合の最後は、古谷選手がレフトから23点目、ライトから24点目、マッチポイントはサービスエースとキレッキレ。サーブを打つ前に浮かべていたニコニコとした笑みからは、心底試合を楽しんでいるような様子が伝わってきた。この様子を見て、お、なんだか今年の開智は強いかもしれない、試合を追っておこうと思った。

この試合での活躍を見ていて感じたことだが、素人目で見て本当にこの選手は巧い。ずば抜けて高い最高到達点を持っているわけではないが、フロントにいてもバックにいてもアタックの決定率は高いし、フェイントがうまい、レシーブも経験値の高さがよく伺えるような位置どりと反応。コート全体を見て点の取り方も熟知している、この安定したプレーからは、バレーに向き合ってきた膨大な時間を感じる。

下記リンクから無料でハイライトは見られるのでぜひ。

魔の3日目、3回戦と準々決勝のダブルヘッダー、ここを勝ち上がった4校のみがセンターコートへ駒を進めるが、1日2試合が行われ、最大で6セットを戦うため、選手の負担が最も大きい日である。

開智の3回戦の対戦相手は一関修紅(岩手県代表)。インターハイでも対戦しており、その時は開智が勝利をおさめていた。因縁の対決だったが、力が拮抗していて今大会でも屈指の名勝負だったと思う。1セット目は33-31で一関修紅が先取。2セット目は開智が抜け出して取り返し、試合はフルセットへ。3セット目は、中盤に5点差をつけられながらも、古谷選手がここでもエースの底力を発揮し、アタックにブロックにと点差を詰めデュースへ持ち込んだ。この試合の最後は何とも目を見張るものだった。サービスエース後のマッチポイントが1年生セッターのツーアタックである。解説の方も「いやいやいや〜?!」と唸ってしまうほど、心臓に5億本毛が生えているのか、サーブで崩れたところにうまく落としていた。非常に今後が楽しみな肝の座り方であった…。怖…。

下記リンクから無料でハイライトは見られるのでぜひ…。なんぼ見てもおそろしいツーアタック…。

1セット目から30点超えの名勝負だった

勝負の準々決勝、相手はブロック力が売りの習志野高校(千葉県代表)。学校史上初の準決勝進出を狙う開智と、6年ぶりの準決勝進出を狙う習志野、どちらも熱のこもりようは半端ではない。

1セット目は26-24で習志野がデュースを制した。2セット目、後が無くなった開智はミドルがノリだし、点数を重ねていく一方、両スパイカーがスパイク、サーブともになかなか決まりにくくなっていた。3回戦では24得点を決め疲労も溜まっていただろう古谷選手はあのキレッキレだったサーブがなかなかネットを越えない。そしてついに17-17同点の場面で、習志野のブロックに捕まってしまい頭を抱えることになった。

22点目のバックアタック、その後も23点目も何度もバックアタックに挑み、膝のサポーターは足首に落ちていた。またもデュースにもつれこみ25-25、相手の繋ぎのミスもあり、返ってきたチャンスボール、この場面で1年生セッターがボールを託したのは、フロントに上がってきていた主将、きっちりレフトから会心の一撃のようなスパイクをねじ込んだ。実況のアナウンサーも「俺が引っ張る!俺に寄越せ!さぁ、吠えて見せた古谷祥!」と熱がこもった熱い展開となった第2セットは、25-27で開智が勝ち取り、フルセットへもつれ込んだ。
(この文章を書くために何回もこの試合の動画を見たが、結末を知っていても必ずこの2セット目の終わりで胸が熱くなってしまう。展開が良すぎて)

第3セットもやはり、ボールが集まるのは主将、序盤、バックアタックが2本アウトになるも、ようやく1本決まった。疲労の色は明らかだが、飛んで打ち続けていた。中盤、開智に繋ぎにミスが出て、クイックも捕まり、試合は習志野のペースで試合が進んでいた。なかなか連続得点ができない。16-11の5点差がついた場面のタイムアウト、2年生MBの選手が「みんなしんどい!最後まで最後まで!全員で全員で!」と檄を飛ばしていた。そのタイムアウト明け、3年生MBが得点を決めているのを見て、後輩の声にプレーで応える先輩の意地を感じた。しかし、その後も習志野ペースは変わらず、あんなに安定していたレセプションも崩れ、脚も動かない、限界はとうの昔に超えていただろう、そんな状況でも、チームが苦しい時こそボールは"頼れる主将"に集まってくるのだ。

24-18習志野マッチポイントの場面、ライトに待機していた古谷選手に飛んできたトス、渾身の力で打たれたスパイクはアウト判定、試合終了のホイッスル、勝利に沸く習志野高校の選手たち。
開智の春高全国への挑戦はベスト8で幕を閉じた。

敗れはしたものの、試合配信ページのコメント欄は、「自分らの代では、チームを高みへ連れて行きたい」を見事に有言実行しきった大黒柱・古谷選手への賞賛と労りの声で溢れていた。

「この晴れ舞台で思いきりプレーすることができた。結果が出れば最高でしたけど、悔いはないです」

月刊バレーボール2月号より抜粋

試合後のインタビューではこう言って、笑顔で春高の舞台に別れを告げたそうだ、とても潔い。
準決勝で見てみたかっただけに、敗退の知らせを見た時には、何も関係無い私ですら悔しくなったくらいだ。それだけ見ていて可能性と意地を感じたチームだった。
今年はベスト8のチームの力は拮抗していたチームが殆どだった気がするので、どこが上がってもおかしくはなかったおもしろさがあったように思う。
来年の各地方の猛者たちのレベルがどうなっているかはわからないところだが、爆発しきれなかった2年生エース、苦しい時でも檄を飛ばせるムードメーカーの2年生ミドル、肝の座り方が異常な1年生セッターがどこまで化けて春高全国の舞台に帰ってくるのかこちらも非常に楽しみである。

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私が好きなマンガの『ハイキュー!!』で印象に残っている台詞のひとつに、
"今日敗者の君たちよ、明日は何者になる?"
というものがある。

主人公らの高校が春高バレー準々決勝で敗退後の368話で、大会を見にきていた全日本バレー男子代表の監督が「挑む者だけに勝敗という導と、その莫大な経験値を得る権利がある」と語り、その後に続くのが上記の台詞だ。

「敗者」という導はあくまで途中経過に過ぎない。その次に何者になれるか、自らの可能性をどのように広げていくかが重要であり、次にまた敗者になるのか、はたまた勝者になるのかは可能性の広げ方によるところがあると思う。

隙あらば自分語りだが、私は高校受験で大敗北者となり、その後の人生は何をしても敗者側で低空飛行なことが多かったが、その中でも自分の可能性をある程度は信じること、信じることができるように可能性を広げることは無意識のうちにやっていたんだと思う。それが働きたいと思った会社で働いている現在に繋がっているのか、今は人生において勝者の導を通過し、日々苦しくなったり悔しくなったりもしながら、楽しく夢を作って、夢を見ている。敗者の導の先に、勝者の導が待っていることなんてざらにあって、自分のやり方次第で何者にもなれることを身を持って経験した。

高校生活というひとつの青春が終わっても、またすぐに次の青春はやってくる。高校卒業以降も競技を続ける選手たちが、この先何者になるのか、更なる飛躍を期待して止まない。

ここまで長々と書いたが、先日大阪出張に行き、初めて乗る電車、駅の名前もよくわからない路線で、京都方面や和歌山方面という表示を見た時に、こんなに知らないところで高校生活を送っている人たちの試合を観戦して一喜一憂できるものなのか、となんだか不思議な気持ちになった。
スポーツに限ったことではないが、自分に馴染みの無い土地で生活を送っている人や、全然年齢の違う人、自分とは属性が全く違う人がつくり出すものに感動することはよくある。普段はそれをTwitterなどで簡単な感想で済ませることも多く、こう長い文章に起こすことは、頻度が高くないが、文字に起こすことで、自分がどうして心が動いたかが可視化できることもあるので、感動を文字に起こす習慣は常に大事にしたい。

文字におこす習慣を大事にはいつも言っている気がする…。今年はパリオリンピック予選も兼ねたワールドカップバレーも日本開催で実施されるので、バレーについて文字に起こす機会が増えたらいいなと希望的観測を記して、春高バレー2023へのクソデカ感情感想文を締めることとする。


長い。

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