見出し画像

名はウルトラス

恐怖の館にいる。お化けが出そうで怖いのに小さなトイレに閉じ込められている。爪の垢を煎じて飲ませたいほどにつゆだくな牛丼を食べている間に、世の中では紫陽花が咲き乱れ、気付いたら、傷だらけになっていた。薄氷の上を這いつくばり、いっせーのせで人間から魂が抜けていく。山を登ろうにも、平地が続いており、突っ走ろうにも路肩にはウイルスがうようよいる。草むしりをしようにも、二輪ではガソリンが足らず、目の画素数が消耗しているのがよくわかる。後にも先にもないだろう、この点滅の先にいくつかの花。谷があり、滝があり、水をじゃぶじゃぶと受け、訳もなく北海道に行きたくなった夏。転回する季節。混乱するコインランドリー。ショーケースにはニュース速報ばかり。後ろを向きながら、前に進もうとした。思い出が立ち込め、またかと立てこもり事件が起こる。激しいため息は憤りを隠せず、またも新聞紙には穴が空くのだ。腎不全を起こしかけた人々が揃って嘆く。もういいよ、もういいよ。誰も良くないなどとは言っていない。ただ、ひょうきんな顔をした暴走族が房総半島をぐるりと回ってエンジン音をふかしているだけだ。夜更けは耳鳴りのように目の前を過ぎ去っていくのに、ここに立ち尽くしたままの私。硫黄。火山。温泉。寄。青森。雀の鳴き声に朝がやってきて、その横でカラスは鳴く。お前のことが嫌いだと哭く。無惨。無慈悲。気付いたら、そばでは火の手が上がり、夕焼けを背景にして秋口を待っている。コスモスが咲く頃、あの世ではきっとコウモリが泣いているに違いない。

#創作大賞2022

苦しいからこそ、もうちょっと生きてみる。