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接触不良の恋、行方不明の愛。

あ、痛い。胸が痛い。逢いたい。どうしようもなく逢いたい。深呼吸しないと。意識しないと。息をしていることさえ忘れてしまう。明け方は苦手。彼を思い出すから。目を背けたくなる。

帯電する脳はびりびりとひりつく。二度寝しようにも眠れないから、毎朝、ベッドから出るのに決意が要る。照明は付かない。どうでもいい。iPhoneから曲を流せば、問題は解消する。

毛布にくるまれ、甲状腺が疼く。無意識に口ずさんでしまう歌がある。音に秘められたマインドが私を蝕む。窓の奥から、砂嵐のような雨音が聞こえる。落ちやがった、ブレーカー。

カーテンを開くと、申し訳程度の光が射し込む。慰めの束。ため息さえも億劫で、煌めく埃。シワだらけのシーツ。散乱する衣類。ウミガメの通り道みたいで、居場所は落とし穴のよう。

昨夜、濡らしたはずの枕はとっくに乾いている。ここは掃き溜めの箱に違いない。意思とは無関係に、張り巡らされた動線の上を浮遊して。鏡の前に立つ。数センチ、顔がひび割れている。

心のファスナーを開けたら、中にあるのは死体。腫れが引いてほしくて、ブラックコーヒーを飲み干す。ビニール紐で纏められた服は、当然、着古されていて、余計にセンチメンタル。

過去はリサイクルできない。資源なんてない。あるのは骨がきしむほどに抱きしめられた記憶だけ。頬を寄せ合って微笑んだ思い出だけ。遺伝子の渦が暴れた夜、体温を欲しがっただけ。

煙草に火を付け、換気扇に吸い込まれていく涙は、肉の脂身のようにとにかくしつこくて。鉄格子の内側、刹那的な慕情が見える。両手を自分の肩に回す。焼却炉に遺棄したはずの夢。

震える灰にむせ返る。心に焼き付く写真。暗室でも現像できない。上澄みでも、二番煎じでも、出がらしでもいいから。ぶっきらぼうな態度でもいい。これ以上の待ちぼうけは貧血になる。

いっせいのせの合図で帰来してほしい。あたかも、わざとらしく、さも、あたたかく。みじん切りにされてしまった涙腺。微生物を交換してほしい。順番待ちは無視して、慰めてほしい。

撫でて。硬い甲羅を突き破るくらい。チョコレート菓子くらい甘く。あらゆる菌を殺すくらい、アルコールを吹きつけて。悩ましいくらい、くちづけて。死んでしまうくらい、愛してよ。

苦しいからこそ、もうちょっと生きてみる。