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D&D第5版:ウィザーズは確かに日本に耳を傾けている―そして次のステップとは?

本記事は以上の記事の続き兼弁明にあたります。

『フィズバンと竜の宝物庫』発売前日、ウィザーズ日本公式から『ターシャの万物釜』―すなわち前記事で挙げた『Tasha’s Cauldron of Everything』の日本語版の発売が発表されました。

まず、前回の記事で半ばウィザーズの戦略を罵倒するような発言を行った事をお詫び申し上げます。
新日本展開スタートから長らくユーザーから待ち望まれていたターシャ本が半年以上放置されていたため、あのような記事を書くに至ってしまったのです。

しかし、ここで前回挙げた仮説―日本での発売スケジュールはヨーロッパ版と一致している―という事が否定されたことも重要です。すなわち、商品展開上で日本での傾向を意識する事も大いに可能という事です。

しかし、そうなるとウィザーズは次にどのようなアプローチをとるべきでしょうか?

次なるステップは?

以前の記事(↓)と重複する部分も多いですが、現在の傾向とも照らし合わせた上で再考しています。

シナリオ本の拡充

ウィザーズの展開が始まってから現在までに発売されたシナリオ集は新スターターセットやデラックスプレイボックスといった初心者向けの商品と『ウィッチライトの彼方へ』だけです。児童書、おとぎ話風のウィッチライトはD&Dのシナリオとしては変化球で、初心者向けの商品以外として比較的ベーシックなシナリオはあまり広く流通していない事になります。
そのため、ターシャ本の次として、シナリオの拡充は急務と言えるでしょう。

『Dragonlance: Shadow of the Dragon Queen』(以下ドラゴンランス)

新訳のシナリオとして私が筆頭候補に挙げたいのがこの派生メディアの『ドラゴンランス』の世界観を舞台とした長編シナリオです。
ドラゴンランスの世界観で描かれる、ドラゴンに乗る騎士や善悪の真っ向からの対立という古典的なモチーフは日本人のファンタジー観に根強く、本書中の挿絵を軽く紹介するだけでも新規ファンの心を鷲掴みにできるかもしれません。

また、ドラゴンランスは邦訳されていてかつ比較的日本で名の知られている数少ないD&D関係のメディアであり、比較的若い新規プレイヤーでも、もしかしたら聞き覚えがあるかもしれないという話題性も狙えます。

事実、私も小学校の図書室で(おそらく関連のゲームブックを)見た覚えがあり、その当時はD&Dとの関係性など考えもしませんでした。そしてD&Dを始めて『Player's Handbook』でドラゴンランスの名前を見たとき、「あれもD&Dだったのか!」という衝撃を受けました。他の新規層にとっても、同じような体験があるかもしれません。

短編シナリオ集『Candlekeep Mysteries』や『Journeys Through the Radiant Citadel』

どちらも『大口亭奇譚』同様の短編シナリオ集です。
『Candlekeep Mysteries』はソード・コーストに面した図書館城砦キャンドルキープを中心に「謎」をテーマとしたシナリオ17編、『Journeys Through the Radiant Citadel』はヨーロッパ圏以外をモチーフとした世界観の数々を舞台とする13編+ミニ世界観情報2つが収録されています。
比較的手頃なサイズで遊びやすいという点ではうってつけかもしれません。

ホビージャパン時代の本の再販
ウィザーズの展開開始以降、『魂を喰らう墓』や『ドラゴン金貨を追え』といったホビージャパン時代のシナリオ本に対する需要が高まっているという話も散見されています。現状ホビージャパン時代の本の再版の例は基本ルール3冊以外では『ザナサーの百科全書』以外ありませんが、期待がかかる所です。

更なる知名度の向上

ドラゴンランス本の邦訳による話題性ももちろんですが、ウィザーズは日本での更なる人気爆発が期待できる弾を持っています。そう、版元を同じくする『マジック:ザ・ギャザリング』とのコラボ本です。
『フォーゴトン・レルム探訪』のようなMtG側のコラボや、日本支部のD&D部門発足以来、「コマンドフェスト」や「プレイヤーズコンベンション」といったMtGのイベントが行われる度に相乗りする形で体験会が出典しており、日本のMtGプレイヤーにも少しずつ浸透しているようにも感じます。

事実、映画『アウトローたちの誇り』に関して、Twitterでは少なからず「MtGで軽く知ってる程度だけど楽しめますか?」といったような声が散見されています。
そこに「ラヴニカ」や「テーロス」、「ストリクスヘイヴン」といったMtG側には見知った名前が出れば、「始めてみよう」というプレイヤーも増えると思われます。

やや余談ですが、D&D側でもフィズバン本でフォーゴトン・レルム探訪と同じイラストが使用されていたり、公認ショッププログラム「ウィザーズ・プレイ・ネットワーク」を共有しているなど、お互いの存在は意識せざるを得なくなっています。

システムの性質に関する認知

こちらは書籍そのものではありません。
しかし、これからD&Dが展開を続けるにあたって、「レベルアップ」などの要素やシステムの複雑さが中~長期キャンペーンを一番の前提とした設計である事を理解してもらうための施策は必要と感じられます。

国内TRPG大手であるF.E.A.Rが自身のチャンネルでキャンペーンについて紹介する動画を出す程には、日本のTRPGプレイヤーにはキャンペーンを知らない、難しいと感じる層が相当数いるようです。
これはF.E.A.Rから発売されたシステムやそのユーザー層とも関連していると思われるので、D&Dに関して一概にそうとは言えないかもしれませんが、D&Dに対しても一つの警鐘と言えるかもしれません。

日本公式YouTubeは現状ほとんど新商品の告知しかなく、持て余しているように思えるので、その利用法として米公式の『Black Dice Society』などの数々の配信や、第4版・ホビージャパン時代にあった『水曜夜は冒険者!』同様にキャンペーン配信を行うなどといった事を通してキャンペーンに対する理解を深めるきっかけを作ることができるでしょう。

あとがき

フィズバンとターシャ共にMtG同様のWeb広告も出るようになるなど、映画を期に勢いが増している事がわかりますが、この勢いが本当に続くかどうかは未知数です。
ウィザーズは公式Twitterでコミュニティとの関わりを強く意識しており、コミュニティの意見に耳を傾けている事は確かです。
コミュニティは、そしてウィザーズ日本支部はこの勢いを維持することができるのでしょうか?ただ未来は明るいと信じるほかないのでしょうか?


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