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【お気持ち】ダンジョンズ&ドラゴンズ第5版は日本市場を理解しているのか?

「プレイスペース広島」のウェブサイトにて、D&D第5版のサプリメント『Fizban’s Treasury of Dragons』の日本語版『フィズバンと竜の宝物庫』が確認されました。

確かに、新しいサプリが出るのは嬉しいことですが、私には嫌な予感がしています。
そう、日本市場の事を日本支部に任せ、いつどの本を出すか決定しているであろうウィザーズ本部側が日本の事をほとんど気にしていないのではないかということです。

映画の影響で初心者も増えていますし、自分としても表立ってこのような事はあまり言いたくありません。
しかし、普段私の記事を読んでくださっている皆さんにもこの状況を理解してもらうためにこの記事を書きました。

(同様の問い合わせは何度も米公式に送っています。)

ウィザーズはなぜこのスケジュールにしたのか

ここで、日本に先立って展開がウィザーズに移管されたヨーロッパ版の、直近の発売スケジュールを見てみましょう。

Van Richten’s Guide to Ravenloft 2022年6月21日
Tasha’s Cauldron of Everyting 2022年7月12日
Monsters of the Multiverse 2022年9月13日
スターターセット 竜たちの島ストームレック 2022年10月18日
Curse of Strahd 2022年11月25日

ウィッチライトの彼方へ 2023年2月24日
フィズバンと竜の宝物庫 2023年5月12日

上の動画および海外の通販サイトより

そして、日本版は以下の通りです。

スターターセット 竜たちの島ストームレック 2022年12月16日
デラックス・プレイ・ボックス 2022年12月16日

ウィッチライトの彼方へ 2023年3月24日
フィズバンと竜の宝物庫 2023年6月15日(予定)

直近の発売スケジュールが日本版と重なる事にお気づきでしょうか。

もし日本語版がヨーロッパ版と同じ商品を発売し続ける場合、日本語版の始動がワンテンポ遅れてしまったせいで、『Tasha's Cauldron of Everything』の発売タイミングを逃してしまっている事になってしまいます。

私にはまるで特に明確な理由もなくただヨーロッパ圏に合わせるというだけの理由で本を出し続けているように見えます。

『ウィッチライトの彼方へ』では『Tasha's Cauldron of Everything』に『ターシャの無限の大釜』という仮の邦題がついていましたが、だからといって内定という訳にも行かなさそうです。

ターシャとMotMについて

そして、「タイミングを逃した」と思われる本のうち、この二つがなぜ重要なのかという事を説明しておかなければなりません。

『Tasha's Cauldron of Everything』(ターシャ)

『ザナサーの百科全書 / Xanathar’s Guide to Everything』に続く『Everything』シリーズとして

  • 『エベロン 最終戦争を越えて』から追加クラス『アーティフィサー』の再録

  • 20種以上の新規サブクラス、その他キャラクター作成に関する追加ルール

  • 魔法のアイテム、組織の後援を受ける場合のルール

  • セッション・ゼロ(実セッション前に何を説明すべきか)の解説

などといった数多くの情報が収録されています。

『Monsters of the Multiverse』(MotM)

こちらは主に『モルデンカイネンの敵対者大全』『ヴォーロのモンスター見聞録』を最新のルールに合わせた上での再録が中心となっていますが、これまでシナリオ本などに散逸していた追加種族の再録もあります。

総じてモンスターマニュアル2・新装版とも言うべき内容で、最近D&D5版を始めたプレイヤーのステップアップとして『ザナサーの百科全書』や『Tasha's Cauldron of Everything』と並ぶ重要度のサプリメントと言えるでしょう。

これが何を意味するのか

この事に加えて、日本独自の商品対応ができないという事は、文化と言語という二つの壁が生じてしまいます。そしてその差の大きさから、極めて致命的な問題が発生しています。

言語の壁

日本語と英語では構造上大きな隔たりがあり、今なお多くの日本人が頭を悩ませています。00年代に比べれば確かに英語話者は増えましたが、それでも十分な数とは言えず、今なお意識的な壁は残っていると言えるでしょう。特にファンタジーで使われる英語は普段使用しない古語的表現や難しい単語も多く、余計に壁を高くしています。

文化の壁

遊びたいテーマがあってこそのTRPGでありながら、D&Dは長い歴史の中で邦訳されていないメディアも多く、特に若い層にとってはフォーゴトン・レルムなどというものは「知らない世界」というようにしか見えません(一応この前の映画で多少は緩和されましたが、それでもまだまだでしょう)。海外でのデータや世界観を「自作/homebrew」文化も根付いていないため、コミュニティが自力で解決する目途もありません。また、欧米圏のアウトロー的な冒険者観が日本人の共感を得づらいのも確かです。

D&D5版では既に『マジック:ザ・ギャザリング』の世界観で遊ぶためのサプリメントが発売されており、「ラヴニカ」や「テーロス」のような知っている世界観を利用できるというのは、この壁を越えるこの上ない機会でしょう。
マジックは日本でも時折Twitterトレンドを賑わせる程には人気があり、注目は大いに集められるはずです。

また数少ない日本でも比較的有名なD&D関連メディアのひとつとして『ドラゴンランス戦記』があり、こちらも去年英語でドラゴンランスの世界観を舞台とした長編シナリオが発売されています。

日本独自でこういった「これ知ってる」を呼び起こすことのできる商品を展開できなければ、出版する側として最大の商機を逃してしまっていると言っていいでしょう。

第5版改訂版―コードネーム「One D&D」が発売される2024年まであとわずかというのに、その前段階で躓いていては先が思いやられます

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