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ハンドメイドの価値とプラットフォーム 消費者余剰の観点から

冒頭から自分のルーツを語り始めるスタイルで記事を進めますが、私は高校~大学生時代から服やバッグなどを作り始め、ストリートショップ(原宿の道ばた)でそれらを販売してみるなどしていました。また同じころの90年代後半、目の前に突如登場したインターネットという新たな世界に興奮し、プログラミングにも夢中で手を動かしていました。

大学卒業後は文化服装学院で1年間のコースに通って体系的にものづくりを学び、次に挑戦した「自作」は会社です。さまざまな失敗や試行錯誤、学び・経験を経て、私は現在 minneというサービスで「ものづくり総合プラットフォーム」を目指しています(上記まとめてくわしくは自己紹介へ)。

有形無形問わず「自分の手で作り出す」原体験や、ものづくりのサービス運営に関わり続けてきた中で、「ハンドメイドの価値」という話題は頻繁に耳にしますし、私自身もそこに強い想いがあります。

個々の作品のプライシング(価格づけ)についてはぜひ『ハンドメイド作家のための教科書!! minneが教える売れるきほん帖』 を参照いただくとして、この記事では「消費者余剰」の観点から考えるその価値や、自分の想いを整理します。

消費者余剰とは

ミクロ経済学における「余剰分析」に、消費者余剰という考え方があります。

消費者余剰(しょうひしゃよじょう)とは、消費者の最大留保価格から取引価格を引いたもので、取引から消費者が得る便益を指す。
出典:消費者余剰 - Wikipedia

ものすごく簡単に表現してしまうと「消費者にとってのお買い得度合い」とも言えます。市場価格として一般的に1000円で売ってるものを500円で買えた場合は「得した!」(余剰が大きい)となります。

一方、販売者が「売ってもよい」と考えるラインから上の価格帯が「生産者余剰」で、ハンドメイド作品のプライシングでは最低価格をベースに、利益の余剰を加えて考えているケースも多いのではないでしょうか。

比較できないモノに感じる価値

上記の例は一般的な市場価格が定まっているコモディティ商品の消費者余剰ですが、比較対象のない「一点モノ」や独自サービスの場合は、消費者の考える「いくらまで出せるか」と実価格との差が余剰です。

2018年に東京大学の学生が実施した「いくらもらえたらLINEを1年間やめますか」の調査では、結果は驚きの「1人当たり300万円」(cf. LINEの利用価値300万円? GDPに表れぬ豊かさ: 日本経済新聞)。無料サービスのLINEに対し、学生は「年間 300万円の価値がある」と考えていることになります。

消費者が感じる得は2パターン

このように2種類の消費者余剰がありますが、コモディティ商品に対する得が「安く買えた」であるのに対し、比較できない特別なモノにおける得は「付加価値」です。
また、「安く買えた」から生まれる満足はその瞬間の「買い物」という体験にとどまりますが、付加価値をともなう買い物は、その後の生活における使用など通じ「買えて良かった」と持続するものです。

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ハンドメイド作品だからこその付加価値

消費者余剰の観点からは、消費者は最大のお買い得を求めて当然ですが、ハンドメイド作品の販売者はけして「安く買えた」の満足に合わせてプライシングする必要はありません。
販売者にとっての適正価格(生産者余剰の観点からも合理的な価格)設定をしつつ、ハンドメイド作品だからこその付加価値を加えることで、消費者にとっての「買えて良かった」を最大化できます。

消費者にとっての2つ目

ものづくりに対する文化

以上が消費者余剰観点からの整理ですが、現実はそう簡単ではありません。
フリーマーケット型イベントなどではより顕著なように、日本では残念ながらハンドメイド作品に対しても「安く買えた」の満足を求めて買い物をする消費者も多いのが事実です。

一方で海外には、ハンドメイド・アート作品にしっかりとお金を払う文化が定着している国々はたくさんあります。
英語の "worth it" はまさに「その価値がある」という意味ですが、消費者が主体的に作品の付加価値を認められるからこそ、安売りを求めずとも「お買い得」の余剰が生まれます。

プラットフォームのすべきこと

ではそうした文化はどう作られるのか。

冒頭の自己紹介のように自分自身ものづくりを経験してきたからこそ、作品の付加価値を徹底的に磨く作家・ブランドのみなさんを心より尊敬します。

だからこそ、minneのようなプラットフォームがすべきは、そうした作品の魅力が届いていない購入者層にも発信を続け、「安く買えた」を求める方々にはこれまでのハンドメイドのイメージを覆すような買い物体験を提供すること。そうして、購入者にもより創造的にハンドメイド作品とふれられる文化を作っていくことだと考えています。

変化し続けるからこそ "Handmade is Good"

旧来型の文化・産業ではハンドメイドを単に「趣味のものづくり」と見たり、活動のフィールドをアマチュアとプロとで分断する考えを持つ人々もいました。
しかし多様化された世界では、「ハンドメイド」はけして趣味の領域に限らず、嗜好問わずさまざまなライフスタイルに浸透し、時代とともに意味や価値も更新されています。だからこそ、私は誇りをもって "Handmade is Good" と叫び続けます。

また個人がエンパワーメントされた現在では、アマチュア/プロの自認ではなく、付加価値あるものづくりする方々がボーダーなく活躍されています。合わせて作家・ブランドと購入者も互いにオーバーラップすることで、ますます創造的なマインド広がる未来も描けます。

これからの私のものづくり

「ものづくりの可能性を広げ、誰もが創造的になれる世界をつくる」──。
これは私たちminneチームの掲げているミッションです。

ハンドメイドはじめ、ものづくりに関わる方々はとても創造的です。また、創造的な人は自分にも他人にも良いパワーを与え、世界をワクワクさせることができます。
"Handmade is Good" から広げる文化・世界こそ、私が現在チャレンジしているものづくりです。



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