福島の甲状腺検査の構造的問題・いったん立ち止まって「検討」すべき理由
福島県「県民健康調査」検討委員、そして座長代理も務められた稲葉俊哉先生のインタビュー記事です。
福島県で原発事故後継続されている甲状腺検査の構造的問題についての指摘がされたのは初めてのことだと思います。
(以下序文より引用)
01. 原発事故による福島県民の甲状腺被ばく量は非常に低かった。したがって、原発事故前や他県と比べても、被ばくの影響は見えない、すなわち解析不可能であると予想される。
このことは原爆調査と比較するとわかりやすい。
広島や長崎では、放射線被ばくの健康影響を調べるために、強引とも言える徹底的な調査が行われた。その結果、高線量被ばくによる健康への影響については明確な結果が得られた。
しかしその調査でも、低線量被ばくによる健康への影響は解明できなかった。
まして広島・長崎に比較して調査の条件が格段に悪い原発事故後の福島で、低線量被ばくによる健康への影響を明らかにすることは不可能であろう。
02.調査態勢を構築する際の失敗が、調査の見通しをさらに暗いものにしている。甲状腺検査の主な目的は「見守り」であった。この目的が達成されて、不安が解消されれば、検査希望者は必然的に減る。しかし一方で、県は「放射線被ばくによる甲状腺への影響を調べる」と、疫学調査を検査目的としてつけ加えた。疫学調査を実りあるものにするためには、県および検査実施主体である福島県立医科大学(以下、福島医大)は、受診率を高く保つ必要がある。すなわち、「見守り」と疫学調査は両立しない。
たとえるならば、重装備のサファリラリー仕様車でも走破できなかった悪路に、普通の車で挑み、しかも右足でアクセルを踏みながら、左足でブレーキをかけ続けるようなもの、ということになるだろう。(※重装備のサファリラリー仕様車=強引かつ徹底的な調査、悪路=低線量被ばくによる健康影響の解明、普通の車=任意性のある検査、アクセル=受診率向上、ブレーキ=不安解消による受診率低下)
福島県の甲状腺検査には、成り立ちそのものに欠陥がある――。もしそれだけであれば、成果を望めない公共事業が継続されることに伴う問題を考えればすんだかもしれない。しかし、検査の孕む問題は、残念ながらそれだけではなかった。
稲葉氏は、検査について「過剰診断が起きている」と指摘する。UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)も、2020/2021年報告書で、過剰診断が起きている可能性を指摘している。過剰診断とは、検査で見つかりさえしなければ、生涯にわたって症状を出したり生命に影響したりしなかっただろうがんを見つけてしまうことである。
2022年8月現在、284 人の子どもや若者ががんまたはがんの疑いと診断されている。福島県の甲状腺検査は、検査さえなければ健康に成長し、青春を謳歌できたはずの数百人の子どもたちを、がん患者にしてしまった。
(以上引用おしまい)
疫学調査の側面からみれば、甲状腺検査がかえってリスク評価を攪乱している、という記事は以前祖父江友孝先生のインタビューとして公開しました。
また、「見守り」は、本来、機械をあてておしまい、で済むものであるはずがありません。それでもあまりにも多くのニーズがあれば、事業としては限界がある。原発事故当初の対応としては他に選択肢はなかったでしょう。
しかし、今はどうでしょうか。
加えて、大規模に検査をすることによって、過剰診断が起きていることが国際機関からも指摘されています。
子どもや若者への過剰診断は、本来であれば、健やかに成長し、青春を謳歌できた子どもや若者を、がん患者にしてしまうということです。
県は、現行の検査、あまりにも深く福島の子どもや若者を傷つけることがわかってきた検査をいったん止めるべきでしょう。その上で、検討委員会の先生方に、今後の事業のあり方を「検討」していただきたい。
私は、この事業が、今本当に必要な人にとって、最適な形にかわることを望みます。