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映画「東南角部屋二階の女」(ネタバレあり)


あらすじ

 会社員の野上(西島秀俊)は、死んだ父親が残した借金の保証人になっていたため経済的に苦境に陥っていた。そこで、祖父の持ち物である古びたアパートに二人で住んでいる。同時に、そのアパートを壊して土地を売り借金を完済するように債権者の企業から勧められているのだが、祖父はなぜか首を縦に振らない。

 そんな野上は家つき娘と結婚して会社も辞めて楽になろうと見合いをする。その見合い相手の涼子(竹花梓)も実は愛媛から上京したフリーのフードコーディネータでアパートの更新料にも窮していた。三十路が近い彼女は今いる境遇から抜け出すために嘘をついて見合いをしたのだった。

 野上が会社を辞めることを耳にした三崎(加瀬亮)は会社の方針で取引先を切り捨てることが心苦しくて、同棲していた恋人にも相談しないまま、自分なりのケジメのつけ方だとして、野上と一緒に会社を辞めてしまう。結果として恋人には家を追い出されてしまう。

 そんな三崎と涼子を野上は藤子さん(香川京子)が女将をしている小料理屋に誘うが、野上が住んでいる祖父のボロアパートの大家をしているのが藤子さんだったのだ。内心、明日から住む家にも困っていた涼子と三崎はこれ幸いと藤子さんに頼んで、野上と同じアパートに棲みついてしまった。

 野上と三崎は会社を辞めてフラフラしているが、債権者はたびたび野上の祖父を訪ね、土地の売却を勧める。しかし、依然として祖父はだんまりを決め込む。行き先がない三崎と涼子は土地を売りたがっている野上にお爺さんの気持ちを考えてあげるべきだと、おせっかいなことを口にする。

 祖父がアパートを手放そうとしない理由は謎だったが、藤子が祖父を世話して湯治に連れ出した日のこと、アパートが台風に襲われる。東南角部屋二階の開かずの間になっている部屋に風雨が吹き込むので野上たちは外から梯子をかけて、その部屋に乗り込んだ。

 彼らが見つけたのは祖父の弟から藤子に贈られた嫁入り道具の箪笥と着物だった。藤子は祖父の弟の許嫁(いいなづけ)だったのだ。そして、その東南角部屋二階に住んでいたのは藤子だったのだ。

 野上たち三人は、小料理屋の常連客で畳屋のロクさんから、藤子さんが婚約者だった祖父の弟が死んだ後も、親族として古いアパートを守り、祖母がなくなった後、一人になった祖父の世話をしてきたことを聞かされる。

 温泉旅行から帰った藤子は着物が心配で鍵を使って自分が住んでいた部屋に入るが、三人によって着物が大切に守られたことを見て感涙する。彼女は野上に、これは祖父からもらったものだと告げる。

 野上と祖父が庭に出ていた時に、藤子は二階から着物をまとった姿を見せる。祖父はその姿を見て、無言で感動を露わにする。野上は土地を売却することを諦めて保証人の自分が返済していくことを決める。三崎はロクさんに影響されて心機一転アフリカに行くことにするが、その前に迷惑をかけた取引先に謝りに行こうとする。

 涼子は相変わらずアパートに住み続けるが、就職活動を始めたらしいスーツ姿の野上を呼び止めて、途中まで一緒に行こうと声をかける。彼女は藤子さんが住んでいた部屋に移ったようだが、押し入れの穴から御神籤のように紙がポトリと落ちたことに気づかないまま、荷物を引きずって部屋を出た。

感想


 以下、あくまで一つの見方(私見)である。

 この映画が公開された時の西島秀俊の実年齢は36~37歳だったから、若者と言える年齢ではないと思うが、日本を含めた先進国では人の寿命が伸びたことに伴って人生の中でモラトリアムの期間が伸びたと解釈すればよいだろう。(西島は私生活では、この時、まだ独身だったが)

 西島が演じるところの野上と涼子および三崎はナイーブで心優しい若人である。ついでに言えばお人好しだろう。誰も傷つけたくないので、自分が泥をかぶってしまうところも多々ある。それゆえ、耐えられなくなると、今いるところから逃げてしまう(見合いしたり、退職したり)。

 個人的には、状況によって退却することは差し支えないと思っている。しかし、その先のことを考えて決めた上で退却するのは転進といえるのに対して、先を手当しないで行きあたりばったりに退却するのは逃げるということだろう。

 けれども、戦争に運命を翻弄された野上の祖父や藤子さんたちは、その運命から逃げることなく(逃げることはできなかったから)正面から受け止めて生きてきたのだろう。戦中派ではないが、畳職人として家業を継いだロクさんも運命に従った人生を過ごして来たのだろう。

 そういう生き方をしてきた年寄たちが胸に秘めてきた複雑な思いを垣間見たことによって、三人の若人たちが、もう一度自分を見つめ直そうとしたというところで映画は終わる。

 意図は理解できたつもりだけれど、甘〜いストーリーである。三人の若人たちが耐えきれなくなった困難や、三人の年寄たちの心の内など、描き方が軽くて茫漠としたところがある。かなり、役者たちの演技力に頼った感があった。

 同じ西島秀俊主演作でも、「蛇のひと」は主人公が抱えた心の闇の描き方が深くて、十分にその重さが伝わったものである。それはともかく、西島はじめ若手もベテランも演技はよかった。

 そうした中で涼子を演じた竹花梓さんが、その後若くして亡くなったことは残念。他方で、西島秀俊は主演した「ドライブ・マイ・カー」が2022年に米国アカデミーから国際長編映画賞を受賞するなど、実績を積み重ねている。

【映画情報】

2008年製作/104分/日本
配給:トランスフォーマー、ユーロスペース
監督 池田千尋
脚本 大谷三知子
撮影 たむらまさき

主なキャスト;

西島秀俊(野上孝)
加瀬亮(三崎哲)
竹花梓(豊島涼子)
塩見三省(石山清六)
高橋昌也(野上友次郎)
香川京子(夏見藤子)

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