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20日間で画力を上げるチャレンジの振り返り

絵がヘタクソで嫌になる

私は絵が下手くそだ。

2019年ごろに描いたもの

自分の絵を見返して、なんと説得力が無いのだろうと、悲しい気持ちになる。


このまま絵が上手くなることは無いんじゃないか、という不安

表現したいものがあるのに、それをかたちにできないのはとても悲しいことだ。
伝えたいメッセージが、ビジュアルとしての表現力が乏しいせいで伝わらない。
とても悲しい。

世の中には絵の上手い人が山ほどいる。
自分である程度取り組めば、その人たちと自分の実力差が雲泥の差であることが、手に取るようにありありとわかる。

私がもがいている間にも、彼らはどんどん上手くなる。
質の高い表現力が、質の高い仕事を呼んで、指数的に上達の機会が得られる。


ゆっくり取り組む時間は取れない。苛立ちと焦り

私たちは、子供のころや、学生のときのように、無限に時間を使えるわけではない。
人生のほとんどの時間を仕事に費やして、いろいろな誘惑に打ち勝って、得られる時間は、絵を生業としている人の10分の1も無いだろう。

闇雲に取り組んでも、成果は得られない、
成果が得られなければ、モチベーションを失ってしまう。
取り組む範囲を決めよう。


20日間で画力を上げることができた

私は、1ヶ月間で、できるだけ画力を上げようと思い立った。

5月の頭のコミティアの出張マンガ編集部に原稿を持ち込むため、4月いっぱい原稿を描くとして、その前の1ヶ月間で、原稿を描き切ることができるだけの画力を手に入れるのが目的だ。

2023年5月に描いたマンガ原稿

結果的に、34ページの原稿を描き切ることができた。
漫画としての説得力はまだまだ全然足りないと思うが、自分の力で編集さんに見てもらえる原稿を描き切れたのは収穫だった。

「画力を上げる」という漠然とした大きな目標に、どのように取り組んだのかを振り返ってみようと思う。


仮説を立てて、期間を決めて取り組む

画力を3つに分解する

「画力」とはなんだろうか?
漠然とした大きな概念を、取り組むことができる複数の要素に分解して考えたい。

画力は大きく分けて下記の3つの要素から成り立っていると考えた。

  • 対象を正確に見る能力

  • 見たもののイメージを頭の中に再現する能力

  • 頭の中のイメージを描いて再現する能力


コンピューターは、人間を再現した装置だ。
だから、コンピューターから人間の構造を想像することができる。
コンピューターが、外界から情報を取り込んで、処理して、動作する仕組みを、描く力に置き換えて考えてみた。

  • センサーの能力:対象を正確に見る能力

  • 演算料力:見たもののイメージを頭の中に再現する能力

  • 動作制御能力:頭の中のイメージを描いて再現する能力


狙いを定めて取り組む

上記のように考えるなら、まず「対象を正確に見る能力」が十分でなければ、「見たもののイメージを頭の中に再現する能力」、「頭の中のイメージを描いて再現する能力」がどれだけ高くても、出力のクオリティが頭打ちになってしまう。

なので、「対象を正確に見る能力」を鍛えることから逃れることはできない。

そして、後には、1ヶ月で34ページの漫画原稿を描き切らなければならない。
スピードも必要だ。

「見たもののイメージを頭の中に再現する能力」は、長年取り組んできた写真である程度鍛えられていると仮定して、「対象を正確に見る能力」と、「頭の中のイメージを描いて再現する能力」のうち、特に速く描く能力に狙いを定めて取り組むことにした。


実際にやったこと

期間は1ヶ月。
まとまった時間の取れる週末には並行してネームを進めたり、資料を集めたりしているので、実際に取り組めるのは平日の仕事のあとのみ。

しかもこの時期、別のプロジェクトを並行していたので、使える時間は1時間x20日間のみ。
この範囲の中で、最大限の成果を出せるように考えることにした。

少し前に、THE GUILDの深津貴之さんが、「ポーズマニアックス」というサービスをやっていることを知った。

ポーズマニアックスは、ブラウザで表示できる人体の3Dモデルを、ロイヤルティフリーで利用できるサイトだ。
しかも、ドローイングの練習用に、指定した時間で自動的に素材を切り替えて表示してくれる機能もある。

これを活用して、短時間で形をとらえて描画するトレーニングを行うことにした。
画材はiPadとApple Pencil、アプリケーションはAdobe Fresco。


最初の5日間:人物デッサン・ドローイング

最初の5日間は、ポーズマニアックスの「POSE OF THE DAY」でランダムに表示される人体3Dモデルを10分間x3本、「30 SEC DRAWING」の機能で60秒x20本の人物デッサン・ドローイングに取り組んだ。

1日目

人体の立体感を掴むことができず、3Dモデルの筋繊維のテクスチャーをなぞるように描いています。


2日目

モノ感(そこに実在している感じ)を表現しようと、表面のテクスチャーでなく、塊のかたまりとして描こうとしている。

3日目

描いているのは3Dモデルだが、そこには本来重さがあって、重力に従って地面に立っているはず。重心がどこにあるのか、を意識して描いた。

4日目

初日に比べると、ずいぶんカタマリ感が出てきた。

最終的には漫画にするのだから、漫画の線で書くように意識した。

6日目〜10日目:着衣も描く

6日目からは、着衣の人物を描くようにした。
ピンタレストで見つけた写真を題材に、10分間x3本の着衣のデッサンと、5日目までに引き続き、ポーズマニアックスを使って60秒x20本の人体ドローイングを行った。

6日目

衣服の中に人体が詰まっていること、その人体が重量感を持って地面に設置していることを意識して描いた。
ハーフトーンのブラシも使ってみている。

7日目

描いているうちに、全体のバランスがおかしくなったり、イメージしているバランスからズレてしまったりする。この癖は結局最後まで修正できず、今に至る。

8日目

目的は漫画を描くことなので、漫画でよく使う、ペン先を取り替えることができるタイプのペンに変えて取り組んでみたが、慣れない画材のためにかなり手こずった。

9日目

引き続き新しいペンの練習も兼ねる。筆圧でペン先の形状が変わるということは、「太さをコントロールするのが難しい」というより、手の延長としてのペン先が馴染んでいないという感覚だということがわかった。

10日目

欲張りをして、人物デッサンの上達と新しいペンの習得を同時にやろうとして、どちらも手に入らなかった感じだった。
一旦人物はここまでにして、次は静物に取り組む。

11日目〜18日目:静物

漫画を描くためには、人物だけ描いているわけにはいかないため、20日間の後半は静物を描くことにした。
自分の撮った写真、ピンタレストで見つけた素材を題材に、10分間x5本のデッサンに取り組んだ。

11日目

人体は、かなり記号化しても見ている人が何か認識できるが、静物は一定の情報量を担保しないと、何かわからなくなってしまう。
短時間でモノ感を伝える絵を描くのは、人物よりずっと難しい。

12日目

人体を描くのに比べて、周波数が高い(いわゆる細かい)対象が多くなり、短い時間の中で、最低限の情報量を担保しつつ、描かなくてよい場所、しっかり描くことで実在感を出したい箇所を考えながら描く必要があるのだと感じた。

13日目

人体と違うことのひとつに、光を透過する素材がある。
じっくりデッサンして陰影を表現できるわけではなく、線と面とハーフトーンだけでこれを表現するのは、とても難しかった。

14日目

規則正しく並んでいる人工物ならまだしも、植物のような不規則な集合体を描くのは恐ろしく難しい。
時間の制限がなかったとしても描けないと思う。短い時間の中で、なんとか誤魔化してでも描こうと四苦八苦した。

15日目

ここまで、毎日何かしら発見があり、コツのようなものを掴めていた感じがあったが、ここにきてただただ苦しいだけになってきた。
しかし、とにかく進むしかない。

16日目

影の部分にしっかり墨ベタを入れることを意識した。
私は元々墨ベタが苦手なので、大胆に入れる練習をしようと考えた。

17日目

残りの期間も少なくなって来たので、実際に漫画に登場するシーンに近いモチーフを描くようにした。
なんとなく知っているというのと、実際に観察して描いてみるのとでは、物に対する解像度は全然変わってくる。

18日目

この日は体調が優れず、筆が止まる時間が多かったために全然描けなかった。
実際に原稿に取り組むときに、こうゆう日ばかりだったとしたらとても困る。体調管理も重要だ。

19日目〜20日目:背景入りの人物画

最後の2日間は、背景的な静物だけでなく、人物が入った素材にも取り組んだ。

19日目

やはり人物が入ると作画が楽しい。
闇雲に描くと、何が主題かわからなくなるため、人物と背景の解像度を調整する必要があると気づいた。

20日目

漫画のテクニックとして、人物と背景の線の太さを変えたり、人物の周りに白い空間を空けるテクニックがあるが、それはそれとして、人物入りの風景を、人もいる、風景もある、と実在感を持たせられるよう意識して取り組んだ。


絵が上手くなった実感が得られた

20日間のチャレンジを終えて、すぐに原稿作りに取り掛かってしまったため、ゆっくり振り返る機会を逸してしまっていたが、今回改めて振り返ってみて、始める前と後で、描くことの負荷が全然変わったことを実感することができた。

絵が上手くなったというより、描くことの苦労が少なくなった、という感じ。

全然描けなかった日もあったし、絵が上手くなっている実感が得られず苦しいこともあったが、価値のある取り組みだったと思う。
始めるときには仮説にしかすぎなかったが、信じて続けることで達成感も得られた。

1日1時間x20日間なら、無理なく取り組めるし、また挑戦しようと思える。


時間を捻出するのが一番難しい

結局、時間を捻出するのが一番難しい。
仕事をしながらでも続けられる、仮説を立てて検証できる、取り組みのパッケージを作ることが大事なのだと実感した。

再現可能な取り組み方が見つかったので、いろいろなトレーニングを組み込むことができる。
いずれまた新しい課題に直面する。
その時には仮説を定めて、取り組めるようにしたい。

限られた時間の中でも、やれることをやっているか。
自問自答しよう。


始めなければいつまでも成果を得られない

仮説は、間違っていることもある。
期間を決めてやることで、できないなら、できないというがわかる。
できないことがわかったら、そのやり方はやめたらいい。

始めなければ何も検証できない。
仮説を立てて、始めることが一番大事。

成果物:描き上げた漫画原稿

このチャレンジの後に描き上げた原稿は下記です。
まだまだ道半ばですが、読んでいただけると嬉しいです。


最後までお読みくださり、ありがとうございます。
何か、楽しめる、参考になる要素があったなら幸いです。

2023年7月17日 公開

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