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レデカトロモーフ神話構築考

「ウヌは知ってるか? レデカトロモーフを」

「もちろん」
「知らない人とかいんの?」
「あのユーチューバーの!」
「昔、ニコニコを席巻したボカロPか。懐かしいなあ」
「クイズ番組の常連ですよね」
「フォロワー数がトランプ大統領に並ぶ有名人でしょ?」
「東京オリンピックで彼女が活躍するの、楽しみです!」
「甲子園決勝で異例のコールドゲームを成立させた伝説、ナマで見てたんですけど未だに信じられないなあ……」
「あのナンバーワンホストっすよ? この街で知らねぇやつはいねぇっすよ」
「デビュー作が刊行されると同時にアニメ化されたJKラノベ作家! 仕事量やばいですよね……」
「知らないはずがないじゃないですか。興行収入1兆円の女優ですよ?」
「彼の撮る作品は僕の理想です。ハリウッドに束縛されてるのがもったいない」
「あの、不良どもを熱血指導で更生させた世界一の教師でしょう?」

 ……誰もが自分の望む姿を押し付ける幻想。それがレデカトロモーフの正体だ。
 しかして、世界中の誰一人としてこの事実を認識してはいない。明らかに発生するはずの矛盾が、彼らの認識の中では都合よく改竄され、なかったことになっている。

「――ゆえ、これは何らかの闇の力によるものじゃとワシは考えておる。同胞として、闇の眷属たる貴様らの意見を聞きたい」
 月光色の髪をした女吸血鬼は同じく円卓を囲む者たちを睥睨して告げた。
「かの、アーリマンの仕業とは考えられないか?」
 疑義を発したのは漆黒の鎧に身を包んだ首無しの騎士だ。
「新参の身なれど異議を申し立てる」
 痩せぎすの背の高い男が挙手した。
「わらわも、アーリマンの仕業とは考えられぬと思うぞ? そのようにして人間どもを操り、かの善神になんの益があろうか」
 九尾の狐は扇子で口元を隠しながら、甘ったるい声を出す。
「甚だ遺憾ながら、然り。我も、そこな女狐と同意見だ」
 盃を傾け、巨躯の鬼は地の底から響くような声で追従した。

【続く】


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