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後輩以上、恋人未満、カタストロフ寸前

 4月7日、月曜日。
 わたしの人生よりも長い一日は、一通のメールから始まった。

◆◆◆

『入学おめでとう、陽織! ってのも今更か。実は、陽織に伝えたいことがあるんだ。始業式が終わったら、部室棟裏にまで来てくれないかな。待ってます。』

「先輩がわたしにメールをくれるなんて……! よし、このメールを開いた指は一生洗わないぞ。今決めた」

 すぐさま右手の人差し指に包帯を巻く。

「……にしても伝えたいことって、なんだろ。告白、だったりして」

 そんな都合のいい話があるワケない――とは思うけれど、胸のどきどきは増すばかりで、期待せずにはいられない。
 何があってもいいように、歯磨きして、顔を洗って、少しメイクをして、下着ももっといいのを履いて学校へ向かった。

 始業式に遅刻した。

「あっははは! そんなことで始業式サボったの、陽織!」

 私が着いた頃にはもう、体育館では校歌斉唱の真っ最中だった。
 そんな状況で「すいやせーん。遅刻しやしたー」と、ノコノコ入っていく度胸は流石にない。初日からやらかした感がすごいが、先輩が笑ってくれたからまあいいや。

「それで、……あの、伝えたいことって」
「ん、ああ。そうだったね……うん、驚かないで」

 あごをクイと上げられて、無防備な私の唇に先輩の桜色をした唇が重ねられる。それが、私のファーストキスだった。

◆◆◆

 翌朝、制服を着ながら昨日のことを思い出す。忘れようにも忘れられない、あのキスのことを。意識を集中させれば、今でも先輩の柔らかな唇の感触やねっとりとした舌遣いをリアルに感じられそう……なんて考えていたら、リビングに先輩がいた。

「先輩!? なんでここに!」
「可愛い後輩が始業式に遅刻しないように来てやった」
「え? 始業式なら昨日……」
「それが、そうでもないんだな」

 先輩が指差すのは朝のニュース番組。いつものように画面の中でアナウンサーがお辞儀する。

『おはようございます。今日は4月7日、月曜日――』


【続く】

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