「通貨」を公共財にする

「通貨」は現在の社会システムを支えるインフラであり、公共の便益に資するものと一般にはとらえられている。
では、「通貨」は公共財と言える存在なのか。

公共財は、非排他性と非競合性の特徴を持つ財貨である、と定義される。
非排他性とは、一人が利用しても他の人の利用を制限することができない性質を指す。例えば、空気は誰もが自由に呼吸できるため、個々の利用に制限を設けることは難しい。
また、非競合性とは、一人の利用が他の人の利用に影響を与えない性質を指す。これも空気の場合で言えば、利用において一人が呼吸しても他の人の呼吸に影響を与えることはないという状況。

次に「通貨」の公共財としての適合性について考察してみる。
「通貨」は使用価値を流通させるツールと考えれば、それ自体に価値はなく、あくまで「利便性」の特性だけを考えれば良い。
一般的に通貨の特性として、財産性、利便性があるとされる(スイスFINMA  https://www.finma.ch/en/news/2018/02/20180216-mm-ico-wegleitung/)が、これらは下記のように考察できる。

 ・通貨は広く一般的に受け入れられる、つまり、人々が商品やサービスの取引に使用するために普遍的に受け入れることができるという特性を持つ。
・通貨は他の通貨や財産に交換可能である。つまり、通貨を他の通貨や財産に変換することができることで、異なる国や地域間での財やサービスの取引や交換が可能になる。
・通貨は一定期間保持される前提を有する。通貨が物理的な形態(紙幣や硬貨)を持つ場合、耐久性はその物理的な特性に関係する。また、電子的な形態の場合は、デジタル情報の保全やセキュリティが必要となる。
・通貨は時間の経過に伴って価値を保持することができる。そのため、通貨の管理者(一般的には国家)は、インフレーション(通貨価値の減少)やデフレーション(通貨価値の上昇)のリスクを管理し、価値を安定させようとする。

上記4点のうち、前2者は利便性の特性であり、後2者は財産性の特性である。

財産性の特性については、プロダクトやサービスの供給量が十分にあれば、必然的な特性ではない。むしろ、現在の社会課題を産み出している「貧富の差」を産み出す根源的要因となっている。
一方、利便性の特性については、交換価値を固定化しないのであれば、社会システムとして意味を有する。

「通貨」は、財産性の特性を除き利便性のみを有するツールとすることで、公共財としての性質、つまり、非排他性と非競合性に近づけることができ、社会課題のいくつかを改善する可能性を持つ。

別講で論じた「共感コミュニティ通貨eumo」は、ここで論じた「利便性」に特化した「通貨」と言える。「財産性」を持たない(法定通貨に相当する価値の保存期間が3か月であるため)ことで、公共財の特性としての非排他性・非競合性の条件を満たすことになる。
eumo は、現在は法定通貨システムの基盤上の存在であるが、ブロックチェーントークン化し、発行量制限を無くすことで、公共財としての性質をより強めることになる。
しかし、現在の各国の金融規制動向から法定通貨との交換を前提としたブロックチェーントークンの新設は極めて困難な状況にある。
この規制を乗り越えるには、eumo が直接、プロダクトやサービスを媒介する存在になることが必要である。
現在のeumoコミュニティの構造上は、eumo加盟店がプロダクトやサービスの供給元となっているため、eumo加盟店の広がりがeumoの公共財としての性質を強化することになる。

2023年6月でのeumoの現状は、参加ユーザー数6,361人、加盟店数165店舗、決済総額73,449,822ë であり、コミュニティの規模としては公共財となるためにはとても小さい。「量」として公共財の性質を有するにいたっていないが「質」としての要件は満たすものと考えられる。
「量」の課題はeumo的な性質が現在すでに広範に広がっている決済システムに組み込まれる可能性がある(SDGs等、最適化社会の進展に伴う社会適用のプロセスにおいて)ため、ある意味時間が解決するのかもしれない。

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