「分断」をどう考えるか

一般的に「分断」はネガティブなものとして理解されている。しかしながら、「分断」は必然的に発生してしまう現象であり、昨今、世界で発生している問題とされる事象に関わっている。「分断」について、経営と社会に観点で考察してみたい。

人が本能的に分断・対立の方向に向かいたがる傾向を表すもので、経営学においては「マトリックス経営」がある。マトリックス経営は、経営の効率性・有効性を高める手法として有効とされ、ビジネスで成功している組織では採用してるケースも多い。

マトリックス経営は、一般的にマトリックス組織と呼ばれる組織形態にによって運営されるが、その特徴としては職能別や製品別、または市場別といった、二重あるいは三重の命令系とが存在することが指摘されている。
マトリックスは組織の情報処理能力を高めるというメリットがあり、また、環境や企業戦略の変化が急であればあるほど、組織構造の適性期間は短いことから、企業環境が激変する中においては、マトリックス組織による対応は有用である。また、マトリックス組織は、事業環境が激変する場合において、急激な配置転換と貴重な人材の共有化にも役立つ利点がある。
このようなメリットを生かしてマトリックス組織の形成を志向するのであるが、克服すべき課題が挙げられる。まずマトリックス組織を作るにはディメンジョンを作るだけでは足りない。もともと、人の本質は「ひとりの従業員にはひとりの上司を」という考えがあり、マトリックス型の組織は従業員にとって心地の良いものではない、また、マトリックス組織は一時的に間接費の増大も招く。
マトリックス経営においては、二元的命令系統という利害が対立する2つの指示系統が存在することによる課題が生じる。縦割り組織と比較して成長への優位性はあるが、個々人の負担は大きくなる。
縦割り組織は利害の発生を少なくする効果があり、これを社会という大きな集合体にあてはめると「分析」を生み出す。個々人の負担軽減のためには「分断」を選択するインセンティブがある。
マトリックス経営を成功させるために利害の対立を最小限に抑える方法論としては、財務的な解決と名誉的評価がある。
資本主義的には「豊かさ」を維持する基盤要素であるが、ウェルビーイング的には短期的効果にとどまるため、これらを維持し続けるためにはそのための努力が必要になり、これも個々人の負担を増加させることになる。

分散した価値観のバランスの見える化、調和をどうやって図るのか。

ところで、世界約40の国と地域の研究機関が、毎年1つのテーマを設定して共通の質問文で調査を行うという調査(国際比較調査グループISSP International Social Survey Programme)があり、長期的に同じ質問をするので人々の意識の変化がつかみやすい。その中で「グループ間の対立意識」という項目がある。1999年から2019年の20年間で「経営者と労働者」「貧しい人と豊かな人」「若者と年配の人」が対立しているかという意識がどう変化したのかを調べたもので、このように結論づけられている。<いずれのグループ間でも、『対立している』が20年前(99年)と比べて減少しており、グループ間の対立意識は弱まる傾向がみられた>(一般社団法人 中央調査社 中央調査報No.751)と分析されているが、さらに分析を進めるとこれは「対立」を感じない傾向にある中高年層が社会全体に占める割合が増加しているため、という理由のようである。

「分断」は現代社会のキーワード、しかし、これを解決するための叡智(それはテクノロジーでもあり、社会システムでもある)の模索が今後10年ほどの期間に求められる。



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