ポピュラー音楽だって進化しているのでは。
まずは好きなものをテーマにもってきました。
とても好きなんです。ポピュラー音楽。もう小さいころからこれで育ってきちゃったんで。その後から、クラシックとか他のジャンルも知って、良さやきれいさもわかってきたけど、やっぱり音楽を感じる感覚としてはそこからあんまり離れられないねえというのはあります。立場上あまり大きな声では言えませんが。
いつもはクラシック音楽をやっていますが、そこで学んだ分析やら理論やら使って、「他のジャンルともこう繋がってるんだぞー!」みたいなことが言えるようになれればいいなっていうのは、私のやりたいことの一つです。
先におことわりしておきますが、分析や考察などはなんでも、「必ずこれが正解だ!」というのがあるわけではないと思うので、いち個人の意見ととらえていただければ幸いです。
前に「only my railgun」というアニソンの気になった転調について(Twitterで)書いたのですが、どうもそれと同じような転調テクニックが最近他の曲でも使われているのを見つけたので、ちょっとまとめてみました。
取り上げるのは、「only my railgun」などのように
Aメロ(とBメロ)とサビの間で雰囲気が大きく変わる転調 について。
(※Bメロに()をしてあるのは、Aメロの調からサビの調に移り変わる部分であったり、Aメロの調の中心に属していたり、曲によって役割が違うからです。)
○本題に入るまえに
先ほどのテーマをもう少し堅く言うなら「J-POPにおける転調テクニックの変化」みたいな。(「変化」については、あとで比較検討をします)
もちろん、ものによってはワンコーラスの中で転調がほぼない曲もあるかもしれません。(パッとは浮かばないけど)
ですが、多数を占めるのは、平行調関係の調(レラティブ・キー)との間で揺れ動く曲ではないかと思っています。
例えば、
「残酷な天使のテーゼ」/高橋洋子(1998)
コード進行(抜粋)↓
Aメロ:E♭→B♭→Cm→B♭→A♭maj7→
B♭sus4→B♭→E♭sus4→Cm→Dm7→Gsus4→G
(調:E♭ Major/Es-dur→c minor/c-mollへ 最後のGをc-mollのドミナントととらえる)
サビ:Cm→Fm→B♭→E♭(ここまでを3回繰り返す)→
Cm→Fm→B♭→Cm
(調:E♭ Majorとc minorを行き来するが、最後はc minorのⅠ度の和音で終わる)
「前前前世」/RADWIMPS(2016)
コード進行(抜粋)↓
Aメロ:B→E→G#m→F#→E (調→B Major/H-dur)
サビ:G#m→E→B→F#(基本的にこれを繰り返す)
(調:G# minor/gis-mollとB Major/H-durを行ったりきたり)
このように1フレーズの中で揺れ動くパターンが多いですが、全体的な調の中心はだいたいどちらか一つに絞られると思います。(「残酷な天使のテーゼ」→Cm、「前前前世」→B)
では、本題に入る前に一回整理します。
「従来のJ-POPは、主調と平行調の間で揺れ動くパターンが多い。
しかし、調の中心はだいたい主調1つに置かれている。」
この「従来のJ-POP」と「only my railgun」などの曲における、それぞれの転調テクニックなどを比べていきますが、後者についても、先に前提条件を示しておきます。
1 Aメロ(・Bメロ)とサビで調が違う。
2 Aメロ(・Bメロ)とサビそれぞれに調の中心がある。
3 Aメロ(・Bメロ)とサビそれぞれに平行調の関係にある長調もしくは短調がある。
1~3のイメージ図(?)
Aメロ →→転調→→ サビ
長調① ⇔ 短調① 長調②⇔短調➁
(平行調の関係にある) (平行調の関係にある)
一回転調するだけでも大きな展開のように感じるのに、それが二重にあるとは…
これは、従来のJ-POPに使われていたような平行調の関係を2つ用意したということになります。
より複雑な展開をするようになっていますね。
○ではさっそく
以上を踏まえて、今から2曲の転調についてみていきたいと思います。
1曲目は、「only my railgun」(2009)
アニメ「とある科学の超電磁砲」のopとして知られる、音楽ユニットfripSideの楽曲です。
すみません。手書きで汚くて…(汗)転調のようすをざっくりと図にまとめてみました。
コード進行
Aメロ:Fm→E♭→D♭M7→E♭→A♭→Fm→E♭→D♭M7→Cm7→Fsus4→Fm
サビ:G#m→E→F#→B→G#m→E→C#m→D#m(ここまでを2回繰り返す)
→E→F#m→G#sus4→G#
曲調(個人的なイメージ)
(最初はイントロ→サビから始まる)
Aメロ:ピアノの音でしっとりと始まる。
Bメロ:ギターなど楽器が増え、サビに向かって盛り上がりをつくる。
サビ:テンションが高く、疾走感がある。
曲調の変化するポイント:冒頭サビ→Aメロ、Aメロから(Bメロを経て)サビ
この曲の場合は、Aメロの調の中心がf minor/f-moll、サビの調の中心がg# minor/gis-mollになっています。(ここでは、主にそれぞれのフレーズの終わりを調の中心として扱います。ですが、調の判定方法は必ずしもこれだけではありません。)上でのべた曲調の変化に転調のタイミングを合わせていることがわかります。
この2つのそれぞれの平行調として、A♭ Major/A♭-dur、B Major/H-durが時折あらわれます。ここでおもしろいのが、サビの調の中心のg# minorとAメロの調の平行調のA♭ Majorが異名同音の調になっているということです。(ある意味、互いに同主長/短調であるととらえられます)
サビをあえてG#(A♭と読み替えられる)と長三和音で終わらせることで、A♭ Majorである次のAメロへの移動をしやすくしているのかもしれません。
また、Aメロのf minorとサビの調の平行調であるB Majorが1オクターブを2分割する増4度の間隔になっているのも面白いところです。(増4度→英語で「トライトーン」ともいったりします。もともと不協和音として扱われていた音程です)
2曲目は、藤井風の「優しさ」という楽曲です。
曲調(個人的なイメージ)
(イントロ→サビから始まる)
冒頭サビ:ピアノ伴奏のみで始まり、その上にストリングスが入る編成で歌いあげる。切ない感じ。
Aメロ:リズム隊が入り、ピアノも刻むような伴奏になり、グルーブがより感じられるようになる。
Bメロ:コーラスやストリングスが入り、甘い雰囲気になる。
サビ:冒頭のものにリズム隊が入る。
曲調の変化するポイント:冒頭サビからAメロ、AメロからBメロ、Bメロからサビ
コード進行
Aメロ:E♭M7→F7→Dm7→Gaug→E♭M7→F7→B♭M7
E♭M7→F7→Dm7→Gaug→E♭M7→D7(9)→GM7
Bメロ(2回目):Am7→ConD→D7(9)→GM7→CM7→
Cm7→Dm7→E♭→Em7-5→E♭onF
サビ:Faug→G♭M7→A♭→B♭m7→D♭onF→E♭m7→A♭7→D♭→
Gaug→G♭M7→F7(9)→B♭m7→D♭aug→G♭→B♭onC
(後半は割愛します)
…何なんこのおしゃれコード進行(困惑)(心の声)
聞くとかっこいいけど書くのは大変、でもかっこいい。
コード進行がテーマではないので、先に進みます。
画像を見ていただくとわかりやすいですが、
AメロはB♭ Major/B-durが中心。時折ベースラインなどに平行調のg minor/g-mollの影が見えながら、最終的にG Major/G-durに着地します。
Bメロは主にG Major/G-durが中心に動きます。これは、先ほどのB♭Majorの平行調の同主長調ということができます。
この曲の場合、AメロとBメロがセットになった状態で2回繰り返されるので、A~Bメロの中で、B♭ Major、(g minor)、G Majorの調が移り変わっていると考えてもよいのではないかと思います。
2回目のBメロの後半の「Cm7」から、#系の調であるG Majorだった曲が徐々に♭系のコードに変わり、E♭onFに着地します。(これはB♭ Majorのドミナントととらえられます)
そして、次の「Faug」を足掛かりに、D♭ Major/Des-durに転調してサビに入ります。
サビの中ではD♭ Majorとb♭ minorの間で少し揺れ動きますが、調の中心はほぼD♭ Majorにおかれていると考えられます。
こちらも、曲調の変化に転調のタイミングが合わせられていますね。
また、「only my railgun」と同じように、転調に同主調の関係が使われていたり、調の中心が1オクターブを2分割する「トライトーン」の間隔になっているところも見られます。(BメロのG MajorとサビのD♭ Majorの間隔)
この2曲の他に、米津玄師作詞・作曲の「パプリカ」も同じような転調テクニックが使われています。(力尽きかけてきたので分析はまた機会があれば…)
○ひとまずまとめてみよう
以上2曲を分析する前にあげた、転調における前提条件についておさらいしましょう。
1 Aメロ(・Bメロ)とサビで調が違う。
2 Aメロ(・Bメロ)とサビそれぞれに調の中心がある。
3 Aメロ(・Bメロ)とサビそれぞれに平行調の関係にある長調もしくは短調がある。
この条件を満たす曲で、今回扱った2曲においては、以下のことがわかりました。
4 同主調(異名同音調も含む)の関係を使って転調が行われている。
5 調が揺れ動く際に出てきた関係調(平行調、同主調)なども含めると、1曲の中にトライトーン(増4度/減5度)の間隔にある調があらわれる。
これらのテクニックひとつひとつは、決して既存の理論からかけ離れているわけではありません。
しかし、様々なテクニックを同時に使うことで、曲の展開を豊かにしたりおもしろくしたりすることに成功しています。
これらの曲は、ポピュラー音楽のテクニックの進化の例かもしれません。もしかすると、今後も同じような、またはより発展したテクニックを使う楽曲があらわれるのではないかと思います。それを楽しみに、また音楽を追いかけていきたいと思います。
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ほぼ初めての記事だったので、とても読みづらかったかもしれません。ここまでお読みいただいた方いらっしゃいましたら、お付き合いいただきまことにありがとうございます。もし次書くときは、もうちょっと見やすくレイアウト整えたい…(デザイン弱者)
ということで、Aでした。次があればまたどうぞよしなに。ごきげんよう。
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