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性に目覚める -ファーストキス編-

中学校へ入学した。私の中学校は私の住む小さな町の4つの小学校のうち3校の生徒たちが入学してきた。そして、同じ小学校に通っていた同級生のうちの約半数は、別の中学校へと進学した。
幸い私は仲良くしていた同級生と同じ中学校に入学したので心細さはなかった。
当時から好奇心旺盛だった私にとって、いろんな小学校から入学した生徒がいる中学校はワクワクの宝庫だった。他所の学校から来た生徒は、何故か男子も女子も自分より大人に見えた。背が高い男子もたくさんいて、今思えばたいしてカッコよくない男の子でも、背が高いというだけで大人っぽくカッコ良く見えた。私は何の魔法にかかっていたのだろうか。まぁ、その魔法も3ヶ月ほどで見事に解けるのだけれど。

私は女子バレーボール部に入部したが、1年生部員は全員同じ小学校出身の女子だったので、何かにときめくということは特になかった。
女子バレー部は体育館で活動をする。体育館で活動する部活はバレー部の他にバスケットボール部と卓球部。部活初日はカッコいい男子の先輩がゴロゴロいると思うと胸が高鳴ったが、蓋を開けてみるとジャガイモみたいな部員ばかりでたいそう落ち込んだ記憶がある。卓球部はまぁいいとして(完全なる偏見です。ごめんなさい)、バレー部にもバスケ部にもイケメンがいないって一体どういうことだろうか。どうかしている。詐欺に等しい。せっかく背が高いだけでカッコ良く見える魔法にかかっているのに、みんなそんなに高くない…。ハズレを引いてしまった気がした。おみくじで言うところの凶である。
私は少女漫画に狂っていたので、先輩と付き合う事に憧れを抱いていた。漫画に出てくる先輩はみんな背が高く、髪がツンツン立っていて、ちょっとだけ悪ぶった感じの不良タイプ。そもそもこれも誤算だったが、私の通う中学校の校則では男子はみんな丸坊主。大誤算も大誤算。これにはもう本当に参った。私と同じく少女漫画で頭がイカれた同級生女子と一緒に我が校の校則を呪った。
男子バレー部と男子バスケ部(男子卓球部の皆さん、ほんとにごめんね)にときめく先輩がいないこと、男子はみんな丸坊主、入学早々大きなショックを受けた私は、長時間一緒に過ごすクラスメイトの男子へターゲットを絞ることにした。私はどんだけ恋がしたかったのだろうか。何かに取り憑かれたように男子ばかりを目で追っていて、思い返すと本当に色恋バカで気色の悪い女子だった。

入学して1ヶ月ほどが経った頃、クラスメイトのM君の事が気になるようになった。M君は私とは別の小学校から入学してきた背が高くて学年でも中心的で目立つ存在の男子だった。口数が少なく硬派な感じも好印象だった。そのうちお互いに意識するようになり、生まれて初めて告白され付き合う事になった。断る理由など何もなかった。
休み時間に教室の隅っこで二人で話したり、部活のない日の放課後に公園でデートしたり、そんな日々がしばらく続いた。
そしてある休日、M君が私の家に遊びに来ることになった。うちは母子家庭で父親はおらず、その日母は用事があり出掛けていた。何だったか覚えていないが、兄弟も不在だった。
ピンポーンとドアのチャイムが鳴り、M君登場。私は親兄弟が不在な中、M君と秘密のひと時を過ごすことにとても緊張していた。そして期待していた。
二人分のジュースをグラスに注ぎ、私の部屋へと移動した。母からのおさがりのソファに座り、二人とも照れ隠しで学校や部活の事などどうでもいいことをしばらく話した。でも二人とも間違いなく何かに期待していた。
そしてその時がついにやってきた。
少しの沈黙が終わり、突然M君は私の顔を見つめながら、「S子、好きだよ」と言ってキスされ、抱きしめられた。軽いキスだったが、私は体がとても熱くなった事を今でも覚えている。それが私のファーストキスである。


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