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自分の考えを生み出す読書方法

以前「問いかけから自己評価する、読書を通した学習の質」という読書方法を書きました。

今回は自分の考えを生み出すための読書方法を紹介します。

目次
・事実に着目して、意見と説得を取り除く
・事実に着目すると、「で?」が生まれる
・「で?」に耐えてから、自分の考えは始まる
・事実と意見と説得を見極める
・練習方法
・おまけ


事実に着目して、意見と説得を取り除く

文章を大別すると、著者の発見した事実、著者の意見、読者の説得に分けられます。

・事実 事実に関する発生・機能・構造を解説するための文章
・意見 事実を元にした著者の主張するための文章
・説得 読者を納得させ、特定の行動を引き起こさせるための文章

事実 読書は学ぶための方法だ。
意見 読書をすればするほど学びになるだろう。
説得 だから読書をどんどんしよう。

考えるために読む場合、必要なのは事実です。事実を元に自分で考えていきます。

読者を説得するための文章は考えるときにはノイズです。著者の意見は参考にはできますが、鵜呑みにしては自分の考えにはなりません。

ポイント1.
 自分で考えを生み出すなら、説得の文章はノイズでしかない。
 著者の意見も鵜呑みにせず、注意する


事実に着目して読むと「で?」が生まれる

自分で考えることに慣れていない人は、事実に着目すると「で?」という感想になります。

この「で?」という感覚が大切です。事実に着目しているシグナルだからです。

著者が自分自身の商売につなげようとする本は、読者に影響を与えるための意見や説得にまみれています。このような本は読んでいて楽です。著者の言い分を鵜呑みにして納得していれば、次々とページをめくることができます。

一方で、自分で考えるのは面倒なことです。人は面倒なことを避けようとします。

 「自分で考えるのはめんどくさい」

ところが、世の中では、自分で考えるという行為はどんどん重要になってきています。ですから、

 「私はしっかりと考えている(という自己認識を実感したい)

という認識を渇望しやすい時代になっています。

自分で考えるのは面倒だけど、しっかり考えるという自己認識はほしい。そのため、世の中には「自分で考えるのは面倒だけど、考えているつもりになれる」意見や説得にまみれている本が迎合されます。

しかし、実体は自分で考えることを著者に丸投げしてしまっています。

ポイント2.
 著者の意見や説得を鵜呑みにするのは、考えることの丸投げ


考えることを著者に丸投げにするのは、「他人に思考してもらっているけれど自分では考えているつもり」という意味で疑似思考と読んでもいいかもしれません。この疑似思考は大きな市場となっており、いたるところで出くわします。注意しなければなりません。

「この人の言うことさえ聞いていればよさそう」を引き起こす脳死本に注意です。


「で?」に耐えてから、自分の考えは始まる

事実に着目すると「で?」が現れます。この「で?」から、自分で考えることがスタートします。

たとえば以下の事実を知ったとしましょう。

 感情とは主観的な価値付けである

これだけでは「で?」で終わってしまいます。この「で? なんなの? その先をいってよ。私を満足させてよ」という気持ちを抑えて、自分の考えを展開しはじめてみしょう。

以下の文章は、文章の形として読みやすくするため「てにをは」や文の順序は直しましたが、考えを展開してみた例です。

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仕事において感情はタブー視されることもある。感情は距離感をとって扱われている。怒った人からは距離を置くだけの行動をすることもある。しかし感情が一種の評価だと捉えることができれば、組織の中で感情をもっと的確に扱えるかもしれない。

たとえば怒った人は、「自分の意図に反するような出来事が起きたことに対して、ネガティブな評価を行い、語気を強めたり、机を叩いたりして、周りに自分の反応を知らしめる意図をもって表現をした人」と言い表すことができる。

感情という言葉の解像レベルでは、仕事においては触れてはいけないタブーなままだ。けれども、さきほどのように一種の評価と捉えれば、こちらも怒りの感情に巻き込まれずに対処できるのに役立つかもしれない。

BtoCの顧客サポートでは怒りを伴って不満を主張する顧客もいる。その怒りに巻き込まれずに顧客をサポートするのに役立つだろう。とくに感情に当てられてしまう人の助けになるかもしれない。

また他の概念を見直すこともできそうだ。アンガーマネジメントという言葉がある。アンガーマネジメントは主観的な価値付けに対する対処の枠組として捉え直せるかもしれない。

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間違っているか合っているかは後で検証すればいいでしょう。まずは事実から自分の考えを展開することです。起承転結で例えると、次のようになります。

ポイント3.
 考えを生み出すとき、事実とは起承転結の起である。
 承転結を自分で展開するのが、自分で考えを生み出すこと。



事実と意見と説得を見極める

文章から事実と意見と説得は見分けることについて紹介してきました。さきほどの下記文章はどのように見分けたでしょう。

 考えることを著者に丸投げにするのは、「他人に思考してもらっているけれど自分では考えているつもり」という意味で疑似思考と読んでもいいかもしれません。この疑似思考は大きな市場となっており、いたるところで出くわします。注意しなければなりません。

この文は主に意見から構成されています。特に最後の「注意しなければならない。」は一種の説得です。

もし「自分も注意しよう」と思っていたら、自分で考えず、私に説得されたということになるかもしれません(考えたうえで同意された場合ももちろんあるでしょう)。

ポイント4.
 読者の行動や考えを誘導する行為は説得である



まとめ

自分の考えを生み出すための読書方法について紹介してきました。

事実に着目して、意見と説得を取り除く
自分で考えを生み出すなら、説得の文章はノイズでしかない。著者の意見も鵜呑みにせず、注意する

事実に着目すると、「で?」が生まれる
著者の意見や説得を鵜呑みにするのは、考えることの丸投げ

「で?」に耐えてから、自分の考えは始まる
考えを生み出すとき、事実とは起承転結の起である。承転結を自分で展開するのが、自分で考えを生み出すこと。

事実と意見と説得を見極める
読者の行動や考えを誘導する行為は説得である。

ぜひ、自分で考えるための読書をしてみてください。



自分で考えを生み出す練習方法

ここでは自分で考えるための読書の練習方法を紹介します。

1.まとめを読まない。自分ならではの問いかけを作る。

だまし討ちのようですが、「まとめ」も自分の考えを生み出す障害になります。

章の終わりにまとめが紹介されている本はたくさんあります。さきほどのまとめも自分で考えるきっかけを奪うことになります。分かった気になってしまうわけです。ひとつの方法は問いかけを作ることです。問いかけについては前回の記事を参照ください。


2.中~大項目主義のハンドブックから自分の考えを展開してみる
辞典や辞書には大項目主義、小項目主義といったフォーマットがあります。

小項目主義とは極端に言えば国語辞典のように、単語の意味が紹介されている辞典です。事実ではありますが、さすがに考えを生み出すのは難しいでしょう。

 じ‐てん 【辞典】 辞書① に同じ。「字典」「事典」と区別して「ことばてん」ともいう。「英和―」
 広辞苑第七版

大項目主義とは、経緯や機能、構造など幅広く紹介する本です。大と小の中巻が中項目とされます。中から大項目の辞書や辞典を読んで、自分の考えを述べてみるのは練習になります。いくつか紹介します。

カタログ本
たとえばPDCAなどのフレームワークを50紹介するようなカタログ本がよくあります。ひとつのフレームワークにつき2-4ページほど使って紹介されます。これは中項目といえます。フレームワークに関して自分の考えを述べるのは良いトレーニングです。


中項目の哲学事典
ストイックかつ、じっくり考えてみたい人には哲学系の辞典もおすすめです。以下は難解なミシェル・フーコーを分かりやすく紹介した中山元氏による辞典で、軽快な文章で綴られる珍しい辞典です。たとえば外部という項目は次のようにはじまります。

外部

 外部? そとってなんのそと? いい疑問だなあ。なぜってそもそも「外部」は比喩だよね。抽象的な概念であると同時に、イメージでたとえている。ぼくたちはあたりまえみたいに、いろんなことを比喩やイメージで考えている。考えやすいし。でも、それが論理の思考をそっとずらしていることもある。そのことには気づいておきたい。だからこの外部という概念も、そういう意味ですごくおもしろいんだ。比喩の持つ自然な印象を示すのと同時に、その自然さを逆手にとって、じつに自然でない思考を要請する。


論文掲載雑誌や研究雑誌
Harvard Business Reviewといった論文掲載雑誌は辞書辞典ではありませんが、他のビジネス雑誌に比べれば比較的説得の割合は少なく、大項目ほどの文量になります。練習になるでしょう。



本当のまとめ

読書の方法を学ぶ人はほとんどいません。子供の頃に染みついた癖のまま本を読んでいると思います。染みついた癖はやっかいなもので、自分ではなかなか気づけません。

これまでのよくない文章表現をつかってきました。文中で表現したことを、直後にひっくり返し、読者を不安にさせる表現です。

 「まとめ」の次に「まとめを読むな」と書く

読書の癖がどれほど染みついているのかを簡単に体験してもらうためでしたが、驚いたり、不快に感じたかもしれません。すみません。


世の中は他人の意見や説得で満ちあふれています。自分の頭で考えさせようとしない快楽的なメッセージで溢れているということです。

自分で考えるのは簡単ではないでしょう。とくにはじめの一歩が難しいでしょう。けれど、一歩踏み出せば次の一歩は簡単になるはずです。

この文章が新しい知識の創造に役立てば幸いです。




注意 鵜呑みにした方がよい場合もある

今回は自分の考えを生み出すための読書の方法を描いてきました。しかし自分で考えるだけが素晴らしいわけではないでしょう。

世の中には素晴らしい意見や主張を掲載する著者もいます。鵜呑みにするだけでも日々の生活が良くなるものもあるわけです。

たとえば健康な生活習慣は栄養管理士といった専門家の言葉を鵜呑みにした方が、手っ取り早く読者は役に立つでしょう。考えてもどうしようもなく、鵜呑みにしなければ見えてこない世界もあります。

ただ、少なくとも自分の専門領域においては、鵜呑みに下他人の言葉を話すのではなく、自分の考えを自分の責任でもって表現できるほうがよいと思います。



おまけ 中身の薄い本を速読する

「中身の薄い本」という表現があります。私は次のように定義しています。

 魅力的な事実がごく僅かにのみ紹介されている本

中身の薄い本を速読する方法を紹介しましょう。日本人の書くA5版のビジネス書、とくに裁断が甘かったり、青白く漂白紙を使っている場合は次の傾向があります。

・事実が2-3つのみ掲載されている
・2-3つの事実を元に意見が展開される
・文章の大半が読者を説得するための文章から構成される
・著者紹介でやたらと実績が羅列している
・本の後半で自分のビジネスの紹介をしている

よく「中身の薄い本」と揶揄されたりしますが、短時間でポイントを抑えれば役に立つこともあります。こういった本は、事実だけに注力すれば5-10分で読むことができます。



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