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ケネス・ブラナー主演 エルキュール・ポアロ 第3作『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』(2023)感想

公開時に映画館で観て、ケネス・ブラナーが製作したポアロシリーズでは一番楽しめた第3作目。今回ブルーレイを購入して再見したので、簡単に感想を残しておきます。


あらすじ

1947年のヴェネツィア。引退したエルキュール・ポアロは悠々自適な生活を送っていたが、旧友オリヴァ夫人の来訪により、謎の渦中に巻き込まれていく。
ポアロはオリヴァ夫人の話に乗り、ロウィーナ・ドレイクの屋敷で行われるハロウィン・パーティ後に行われる降霊会に出席し、霊媒師のトリックを見破ることになる。ロウィーナの娘アリシアは、1年前に屋敷のバルコニーから落下して死亡していた。
霊媒師ジョイス・レイノルズは関係者しか知らないことを次々と口にしていくが、ポアロは霊媒中に人為的な仕掛けを暴いていった。
しかし、その後も不可思議な事態が続き、霊媒中のジョイスの口からアリシアの死は殺人であったと告げられる。
陰鬱な空気の中で降霊会はお開きとなったが、直後に実際に人が亡くなる事件が発生する。
事件は人為的なものなのか、超常的なものなのか。
ポアロは幻覚に悩まされながらも捜査を開始する。


紹介と感想

前2作は、原作とオリジナル部分の食い合わせが悪く、個人的にはミステリーとしてもクリスティー原作の物語としても中途半端な印象がありましたが、今作は要素だけを原作から借りたオリジナルの物語であり、内容としてもコンパクトにまとまっていたため、シリーズ中で最も満足感が高い作品となっていました。

クリスティー的かと言われると違うと思いますが、ミステリー部分の伏線はしっかり映像やセリフとして表現されており、謎があまり複雑ではないこともあって、物語を邪魔しない適度に謎解きも楽しめ、個人的には悪くありませんでした。

別原作に少し触れさせてもらうと、雰囲気は『死の猟犬』所収のオカルト色の強い短編達、犯人の動機などはマープルの後期作品を意識したのかなと感じました。

また、このシリーズは事件自体を描く事よりも、事件と対峙する「エルキュール・ポアロ」という人物を描くということが何よりもメインにある作品だと思います。
そういう視点で視聴すると、前2作の流れを受け継ぐ完結編としての満足感もありました。
カトリーヌなど原作にない要素も多いポアロ像ですが、もっと過去も現在も別人にしか見えないポアロを既に見ているので、個人的には許容範囲内の人物造形です。

役者陣はみんな安定して良く、特にレオポルド役のジュード・ヒルが物語上の扱い的にも印象に残りました。
また、ケネス版ポワロに出るオリヴァ夫人はこんな感じだろうなという納得感を出してくれたティナ・フェイも良かったので、もし続編があるならオリヴァ夫人は続投してくれると嬉しい所です。

ロウィーナ役のケリー・ライリーは、デビッド・スーシェ主演『名探偵ポワロ』の一編「杉の柩」で被害者メアリや、ロバート・ダウニー・Jr主演の『シャーロック・ホームズ』シリーズでメアリーを演じているので、自分の中では馴染みの顔が見れて嬉しかったです。

映像的には、広く明るく映し出されるプロローグとエピローグの街並みの美しさが、事件中の閉ざされた息苦しさとの対比となっており良かったです。
また、個人的にはホラー作品が苦手なため、画的に過剰なものはなく、古典的なホラー演出を適度に使う感じが、映画への集中を削がれない程度で好印象でした。

ブルーレイにはメイキングと未公開シーンが入っていますが、未公開シーンのポアロの朝のルーティーン映像が、そこだけ切り取られて入っているのもあり、ポアロの私生活覗き見感がちょっと面白かったです。

続編があるかは分かりませんが、メイキング内で脚本家のマイケル・グリーンが、「シリーズがどうなるかは分からないけど、続編があればやりたいし、新たに3部作を作っても良いね」的なことを言っていたのを信じて待ちたいと思います。

そして、続編の際には、またファン以外には知名度が低い作品を選んでくれると、新たに新訳が出たりファン以外にも作品が拡がるので嬉しいところです(児童書版として本原作が出版されたのは本当にビックリでした)。
ケネス版ポアロのノリではないかもですが、ケネス・ブラナー的だと思うのは40年代ポアロ作品だと思っているので、そこら辺の原作をぜひ見たいところです。

前2作はポアロにとっては苦い形で終わっていましたが、今回は苦さがありながらも探偵として生きる事を受け入れ、明るい日差しの下で終わるポアロが見られたので嬉しかった。

アガサ・クリスティー原作の物語を楽しむのとは少し違いますが、シリーズとして変に肩肘を張ることなく製作できるようになってきたのかなと感じる作品になっているので、娯楽ミステリー映画が好きで、ケネス演じるポアロのキャラクターが苦手でなければ楽しめる一作になっていました。



最後に、作品内容とは関係ないけど不満に感じたことについて少しだけ愚痴ろうと思うので、ご了承ください。


この規模の映画、値段で発売する作品で、前2作には吹替があったのに、今作はソフト化に際しても吹替が入っていないのは、ディズニーから発売するものとしては残念でした(ディズニーだから入ってないのかもしれませんが)。
また、海外ドラマのソフト化の際に前から感じていましたが、日本では権利の関係かもしれませんが、放送時に吹替があったにも関わらずソフト化の際には収録しないことが未だに多く、自分たちで作品への間口を狭くしている気がしてなりません(今作は公開時の吹替さえありませんでしたが……)。
シリーズでは一番面白かったから、流し見しやすいように吹替が欲しかった~。


映画概要

原作:アガサ・クリスティー『ハロウィーン・パーティ』(1969)
監督:ケネス・ブラナー
脚本:マイケル・グリーン
時間:103分

キャスト
   エルキュール・ポアロ/ケネス・ブラナー

   アリアドニ・オリヴァ/ティナ・フェイ
ヴィターレ・ポルトフォリオ/リッカルド・スカマルチョ

   ジョイス・レイノルズ/ミシェル・ヨー
   ロウィーナ・ドレイク/ケリー・ライリー
    アリシア・ドレイク/ローワン・ロビンソン
   マキシム・ジェラード/カイル・アレン
     オルガ・セミノフ/カミーユ・コッタン
    レスリー・フェリエ/ジェイミー・ドーナン
   レオポルド・フェリエ/ジュード・ヒル
    ニコラス・ホランド/アリ・カーン
  デズデモーナ・ホランド/エマ・レアード

シリーズ一覧
01.オリエント急行殺人事件(2017)
02.ナイル殺人事件(2022)
03.名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊(2023)

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