クリスティ書店の事件簿1『雪山書店と嘘つきな死体』Dead and Gondola(2022)紹介と感想
アン・クレア 谷泰子 訳『雪山書店と嘘つきな死体』東京創元社, 2024
あらすじ
故郷のラスト・ワードへ戻り実家の書店ブック・シャレーを継いだエリー・クリスティは、姉のメグや頼れる書店員ミス・リッジと共に書店を切り盛りしていた。
そんなある日、店に『春にして君を離れ』の初版本を忘れて行った謎の男が、ゴンドラで刺殺された事件に巻き込まれる。
そして、同じ日にミス・リッジも姿を消してしまったのだ。
エリーは、メグや祖母のグランマ、姪のロージィなど家族の協力も得ながら二つの事件について考え始める。
紹介と感想
作者のデビュー作にしてシリーズ1作目になります。
暖かい家族に賑やかな住人達、美味しそうなマフィンに大活躍の看板猫と、久しぶりにザ・コージー・ミステリーという雰囲気に浸ることが出来ました。
デビュー作ですが、ラスト・ワードに住む人物達の魅力をしっかり描けており、キャラクター主導のコージーミステリーとして面白く読めました。
主人公一家だけでなく、元大女優のモーガンや地元紙の記者パイパーなど、バランスを間違えればウザさが強くなりそうなキャラも、悪い人ではないけどちょっとめんどくさいと感じながら楽しく読めるバランスになっており、変なストレスなく読み進められます。
また、現代ミステリーらしくサニー署長も有能で良い人だったため、同じコミュニティで暮らす住人の一人なのだとしっかり感じられました。
そんな中、犯人については「悪い人ではないけど違和感が」と感じた所が真相に繋がっていたため性格的に矛盾なく、フェアな謎解きになっていました。
また、忘れてはならない書店猫のアガサ・C・クリスティーも大切な登場猫でした。
猫らしい可愛さで物語にかわいさのアクセントをまぶしつつ、主人公が事件や人物について考える材料の提供もしており良い活躍でした。
クリスティーネタとしては『シタフォードの秘密』と『春にして君を離れ』をメインに、その他のネタも少しだけ扱われていましたが、作品の明確なネタバレにつながる記述はなく、読んでなくても問題なく楽しめる扱い方になっていたと思います。
少し長いかなとは思いますが、章立てが細かいため読みやすく、作者が書きたいものを書いた熱量を感じられるため、コージーミステリー好きなら楽しめると思います。
来年には2作目も翻訳されるようなので楽しみです。
そして、本書を読んだ後は『シタフォードの秘密』を再読したくなります。