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メグレシリーズ中編「メグレの退職旅行」「マドモワゼル・ベルトとその恋人」「メグレのパイプ」 紹介と感想

今回の3話は、事件自体の面白さもありますが、それ以上にメグレというキャラクターを楽しめる中編が揃っていると感じました。


メグレの退職旅行(1938)

あらすじ
退職をしたメグレは、夫人と一緒に新婚旅行以来25年ぶりの旅行を計画し、夫人の希望でイギリスへ行く事にした。
しかし、嵐の為に英仏海峡を渡ることができなくなり、ディエップのペンションで足止めをくっていた。
ある夜、ペンションで女中をしていたジャンヌ・フェナールが、ラ・ディグ通りで銃殺された。
地元の警視はメグレにも捜査に加わって欲しそうにするが、メグレは気のないそぶりをする。
しかし、結局は事件に首を突っ込むことになってしまうのだ。

紹介と感想
中編18編のうち5編でメグレ退職後の事件が扱われています。
今作は、退職直後を扱った事件で、夫人と旅行に出発しようとした矢先に運悪く事件に巻き込まれました。

メグレは、自分は退職した身だからと言い聞かせますが、身体は自然と事件を追いかけ始めてしまいます。
途中までは地元の警視が尋問していたのに、メグレ夫人の閃きを聞いた瞬間から、場の主導権も自然とメグレが取ることになってしまい、最後には満足そうな微笑を浮かべていました。

事件のドラマ性はそこまで強くなく、退職直後のメグレの様子を楽しむ物語になりますが、シリーズファンとしては上手く退職後の生活に馴染めていないメグレを見るのも面白かったです。

メグレ夫人には、なぜ夫がこの事件に無関心なようすをしているのか、あいかわらず理解できないでいた。犯罪事件ひとすじに人生をすごしてきたというのに。

ジョルジュ・シムノン 長島良三訳『メグレ警視の事件簿[3]』偕成社, 1986, p.108

映像化
ジャン・リシャール主演(仏)
 第83話「Tempête sur la manche」(1989) ※日本未紹介


マドモワゼル・ベルトとその恋人(1938)

あらすじ
引退してロワール河畔の別荘で暮らしていたメグレは、リュカの姪の娘であるベルトから助けてほしいと手紙を受け取りパリまで出て来た。
ベルトは、自分の恋人だった男・アルベールに脅迫されていると訴えて来た。
一週間前に四人の若者が起こした強盗事件で、追いかけた巡査を撃ったのがアルベールの銃だったため、アルベールは警察に追われていた。
メグレは、甥のラクロワ刑事に協力を仰ぎ事件を調べることにする。
マドモワゼル・ベルトは正直者なのか、嘘つきなのか。メグレは、彼女のことを考えることで、事件の真相に迫っていく。

紹介と感想
メグレ引退後の事件ですが、舞台はパリになります。
いきなりリュカが殉職しているという情報から始まる今作ですが、定年退職直前に撃たれたという設定だからか、この話以降の現役話ではリュカが生きてます。というか、別の世界線では警察を止めた後も生きているリュカが出てくるので、何となくの設定だと思います。

また、甥のジェローム・ラクロワ刑事が出てくるエピソードでもあります。
中々レアなキャラクターだと思いますが、ジャン・リシャール主演シリーズでは形を変えてドラマにも登場していました。

物語は、警察を引退した後だからこそできる、私立探偵を意識したようなメグレの活躍が描かれます。
タイトル通りベルトと恋人の動きを中心に展開され、最後もそこに集約されていました。

出来としては中編作品の中でも並の方だと思いますが、一連の引退シリーズは退職後のメグレが見れるだけで少し点があがっちゃいます。

 メグレは腹をたてていた。まず、相手に同情をおぼえたときの彼の最初の反応は、いつでも自分にたいして腹をたてるからである。つぎに、これという理由はないのだが、妻にこの手紙のことを話したくなかったし、パリ行きの口実をつくらなければならないのが、すこしばかり恥ずかしかったからだ。

ジョルジュ・シムノン 長島良三訳『メグレ警視の事件簿[3]』偕成社, 1986, p.174

メグレのパイプ(1945)

あらすじ
メグレのお気に入りのパイプが無くなった。
思い返すと、今日の昼に三か月ほど前から家に誰かが侵入していると訴えに来たルロワ婦人と一緒に居た息子のジョゼフが怪しい。
次の日、女の息子が居なくなり、メグレとリュカが調べることになった。
メグレ自身がこの事件に乗り出しているのは、パイプを彼に盗まれたからだ。
果たして、ジョゼフはどこに消えたのか?

紹介と感想
メグレはパイプが盗まれたことから、些細な家出ともとれる事件を自ら先頭をきって捜査していきます。

今回の相棒として選ばれたのはリュカで、単独で動いていなかったことで最後は助かりました。
若者の悲哀と虚栄心、しかしそのためにメグレのパイプが利用されたことで、事件は無事に解決を観ることが出来ました。

パイプが無くてイライラするメグレ、パイプが戻って事件も解決したことで機嫌のよいメグレと、メグレを描いたキャラクター小説としても楽しめました。

「気にかかっていることがあるみたいね、メグレ」と、夕食のさいちゅうに夫人がいった。
 気にかかっているのはパイプのことなのだ、とメグレは口にだしていう勇気がなかった。もちろん、これはまだ事件ではないが、そうならないとはかぎらない。

ジョルジュ・シムノン 長島良三訳『メグレ警視の事件簿[3]』偕成社, 1986, p.12

映像化
ジャン・リシャール主演(仏)
 第74話「La pipe de Maigret」(1988) ※日本未紹介


メグレシリーズ 既読作品リスト

現時点での読了リストを自分用のメモとして書いておきます。
☆がお気に入り、〇がお気に入りには後一歩だけど良いと思った作品です。
全て現時点での評価になります。

長編
〇03.サン・フォリアン寺院の首吊人(1930)
 06.黄色い犬(1931)
☆07.メグレと深夜の十字路(1931)
☆09.男の首(1931)
 14.サン・フィアクル殺人事件(1932)

☆21.メグレと超高級ホテルの地階(1942)
☆25.メグレと奇妙な女中の謎(1944)

☆29.メグレと殺人者たち(1947)
☆35.メグレと老婦人(1950)
☆36.モンマルトルのメグレ(1950)
☆38.メグレと消えた死体(1951)
☆39.メグレと生死不明の男(1952)
☆41.メグレとベンチの男(1952)
〇42.メグレの途中下車(1953)
☆44.メグレと田舎教師(1953)
☆45.メグレと若い女の死(1954)
☆46.メグレと政府高官(1954)
☆47.メグレ罠を張る(1955)
〇48.メグレと首なし死体(1955)
☆53.メグレと口の固い証人たち(1958)
 62.メグレと幽霊(1964)
☆63.メグレたてつく(1964)
〇64.メグレと宝石泥棒(1965)
〇72.メグレと老婦人の謎(1970)
 73.メグレとひとりぼっちの男(1971)

中短編
 01.首吊り船(1936)
 02.ポールマルシェ大通りの事件(1936)
 03.開いた窓(1936)
 04.月曜日の男(1936)
 05.停車──五十一分間(1936)
☆06.死刑(1936)
 07.蠟のしずく(1936)
〇08.ピガール通り(1936)
☆09.メグレの失敗(1937)

☆10.メグレ夫人の恋人(1939)
☆11.バイユーの老婦人(1939)
〇12.メグレと溺死人の宿(1938)
☆13.殺し屋スタン(1938)
☆14.ホテル“北極星” (1938)
〇15.メグレの退職旅行(1938)
〇16.マドモアゼル・ベルトとその恋人(1938)
〇17.メグレと消えたミニアチュア(1938)
〇19.メグレとグラン・カフェの常連(1938)

 20.愚かな取引(1939)
☆21.街中の男(1940)

〇23.メグレのパイプ(1945)
☆24.メグレと無愛想な刑事(1946)
☆25.児童聖歌隊員の証言(1946)
〇26.世界一ねばった客(1946)
〇27.誰も哀れな男を殺しはしない(1946)
☆28.メグレ警視のクリスマス(1950)


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