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武田綾乃『きみと雨上がりを』(2023)感想

武田綾乃/著、株式会社ポケモン・株式会社ゲームフリーク/監修『きみと雨上がりを』2023


あらすじ

オレンジアカデミーで課外授業の「宝探し」が始まった。
生徒会長でありチャンピオンであるネモも、新しい出会い、新しいポケモン勝負を求めて課外授業を楽しんでいた。
ライバルになるかもれない、新しい友達「アンナ」のことを考えながら。


本編の紹介と感想

本作は、Switch『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』を原案として、『響け!ユーフォニアム』などでお馴染みの武田綾乃さんが描いた、ネモを主人公としたオリジナル短編小説になります。

短編とはいっても、文庫本にして100ページ程度もある連作短編形式の物語になっており、読み応えは十分あります。

物語はゲーム本編における「チャンピオンロード」編の主人公の歩みを、ネモの視点から再構成しています。

ゲーム本編時点でもネモの主人公に向ける感情は大きかったのですが、ネモの視点になり直接描写されるのは破壊力がすごいです。

同時に、ポケモン勝負を心から楽しんでいる様子、他の人から特別にみられることに対する寂しさ、全力を出して勝負できるライバルを求める渇望などが短い中にもしっかりと描かれており、「ネモ」というキャラクターの解像度があがります。

「チャンピオンロード」編とネモがメインであるため、本編中にもポケモン勝負が何度もでてきますが、小説で読むポケモン勝負として面白かったです。
特に好きながら第二章のハッコウシティでネモとアンナが勝負する場面。出会ったことより実力がついてきたアンナと、それを受けて立つネモの戦略、手に汗握る勝負だったと思います。

ネモ以外にも、ゲームにおける主人公ポジションのアンナ、ジェントルさんことクラベル、他にもナンジャモ、アオキ、オモダカと原作キャラも数名登場してます。
特にアオキさんは、さすがの強さを見せてくれていました。素晴らしいサラリーマンです。

また、作中にはメレ、周憂、さとま、げみ、淵゛、さいとうなおき、と6人の絵師による挿絵がフルカラーで挿入されており、物語を彩ってくれています。

ポケモンを全く知らないと馴染みづらいところはあると思いますが、自分の感情が高まる相手、そんな存在を焦がれる若者を描いた爽やかなジュブナイルとしてオススメの作品です。普段小説をあまり読まないゲーム好きの人にも読んでもらえると良いな。

続く形で、ペパーを主人公とした「レジェンドルート」、ボタンを主人公とした「スターダスト★ストリート」の物語が描かれると嬉しいと思います。

まっすぐにアンナを見つめるネモの両目は、涙の膜で静かに揺らめいていた。その頬は赤く、唇がかすかに震えている。 p.109
「それじゃあすぐ戦ろう。いますぐ戦ろう。何度だって戦ろう!」 p.111

『きみと雨上がりを』本文より

冊子版とMVの紹介

「ポケモンセンター」で6,000円以上買い物をすることで『きみと雨上がりを』の冊子版がもらえました。小説の中身はWeb版と同じですが、ジャケットやカバー下のデザインなど、文庫本としてのこだわりがつまっておりとても良いです。

『チップス先生さようなら』や『クリスマス・キャロル』のような薄めの文庫本のような感じで、本棚に入れても違和感なく収納できるのも嬉しいポイントです。

YOASOBI「Biri-Biri」は、『きみと雨上がりを』を原作とする楽曲です。
歌詞はネモの視点で歌われており、MVの内容は小説本編の印象的な場面を物語に沿って描いています(小説と同じではなく、パラレルワールド的な描き方です)。
小説を読んでからMVを見たのですが、小説とMVで相乗効果を上げており、正に本小説のための楽曲でした。

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