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埜納タオ『夜明けの図書館』全7巻 紹介と感想

暁月市にある暁月市立図書館の新米司書・葵ひなこ。
様々な利用者の「知りたい」という要望にひなこや同僚が応える、レファレンス・サービスを中心に描かれる人と人の関係性を描いた物語です。

双葉社の雑誌『JOURすてきな主婦たち』2010年12月号から~2020年12月号まで、年に2~3本のペースで連載されました。


全巻を通して「調べる」「分かる」という行為の面白さが描かれていました。
図書館職員には、市役所から出向してきた正規職員の大野さん、頼れる中堅司書の石森さん、元校長先生で自由な轟館長、非正規職員の小桜さん、と様々な顔ぶれが揃っており、それぞれがメインになる回もどれも面白かったです。

また、図書館と協同して活動している郷土史研究家の三島先生や福祉総合支援センターの早乙女さん、学校司書の佐古さん、利用者にも個性的な顔ぶれが揃っています。


レファレンス・サービスに限らず、人から相談を受けると言うことは、解決策を提示する以上に、相手に寄り添い理解する姿勢を示すことなのだと作品を通して感じました。

もちろん、一人一人と丁寧に向き合い、理解を深めることで、時には本人たちすら自覚していない希望を捜し出し、より最適な解答へも近づいていけるのだと思います。


印象に残っている話を各巻から上げていくと、

一巻からは、現在の仕事に満足感を感じていなかった大野さんが、小学生へのレファレンスを通じて面白みを見出していく「虹色のひかり」

二巻からは、料理部中学生男子の青洲ならではの苦悩と成長を描いた「男子の自立」

三巻は、ひなこが子どもの頃に出会った司書のおじさんも良かったのですが、話としては石森さんがメインの「石森さんの腹の内」がお気に入りです。相手の目線に立つことの難しさが描かれており、読みながら自分の気も引き締まる思いがしました。

四巻では、小桜さん視点で展開される非正規職員にまつわる物語「小桜さんの誇り」が、厳しい現実とそれでも希望が存在する日常、小桜さんの努力が染みました。
また、ディスレクシアの少年を描いた「すべての人にすべての本を」も、色々と感じるものが多く、人に自然と寄り添えるような、そんな存在に近づいていきたいと思いました。

五巻は、一冊単位では個人的にベストの巻になります。どの話も、図書館を触媒として自分自身を受け入れていく過程が描かれていました。
特に、シリーズ唯一の前後編で描かれた「みんなのダイバーシティ」は、多様性が自然にある環境の難しさなど考えさせられることも多く、読みながら泣いてしまいました。

六巻では、自分を守るためには難しくて忌避しがちな知識を身につけることも必要だと改めて感じた「ニッコリの印」や、三島先生の若い頃の友情と暁月で一番美しい景色に涙した「暁月で一番美しい場所」が印象に残っています。

最終巻である第七巻は、どの話も生活に関わる題材で良かったですが、中でも最終話「私の夜明け」の漠然とした相談から相手を良く知ろうとする過程が、レファレンスの核を表しているようで良かったです。

「〝知りたい〟って思いは、明日自分がどうなりたいかに繋がってるからな。その手助けをするのが図書館の仕事なんだ」

埜納タオ『夜明けの図書館 3』双葉社, 2014, p.39より

どの相談も一筋縄ではいきませんが、その相談に真摯に向き合う姿勢が、利用者にも届く。
その気持ちが届くことで、また図書館へ足を運んでもらえる、調べる・考える時の選択肢に図書館を入れてもらえるのだと思いました。

そして、それは人と関わる仕事では、共通して言える事なのだと思います。
作品を読んで感じた気持ちを今後の自分に活かして、真摯に寄り添ってもらっていると思ってもらえるように少しずつでもなっていきたいです。

どの話を読んでも満足感を得られ、今後も折に触れて再読したいと思える良い漫画でした。オススメです。

「読書相談の本です。大野さんを想いながら選びました」
 大野は、葵が選んでくれた本にチラッと目を通すと、フッと笑って口を開く。
「俺の事、半分も分かってねーな。
 ただ、何を選んだかってことより、どう選んでくれたかが大事だもんな。レファレンスで本を探す葵サンの事、一番近くで見てきたからわかるよ」

埜納タオ『夜明けの図書館 7』双葉社, 2021, p.173より

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