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メグレ警視シリーズについて

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メグレ警視とジョルジュ・シムノンに関する投稿をまとめています
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メグレ長編17『紺碧海岸のメグレ』Liberty Bar(1932)紹介と感想

ジョルジュ・シムノン 佐藤絵里訳『紺碧海岸のメグレ』論創社, 2015 現在、新刊で手に入る珍しいメグレ長編の一つになります。 あらすじ メグレは、「波風を立てるな」という指令を受けて、ウィリアム・ブラウンという戦時中に情報活動に関わった男がナイフで刺されて殺された事件の捜査にアンティーブまで来た。 ブラウンは愛人であるジーナとジーナの母親・マルティニ夫人と一緒に住んでいたが、生活費を手に入れるために時々長期間のあいだ出かけることがあった。 ブラウンがカンヌに出かけてい

メグレシリーズ リンク集

原作 総合 ジャン・ギャバン主演 ブリュノ・クレメール主演 マイケル・ガンボン主演 ローワン・アトキンソン主演 単発作品 ※個人的オススメ作品※ 上記リンク作品から個人的にオススメする作品を記載しています。 ☆=面白いがオススメかどうかは好みが分かれる部分あり ☆☆=誰にでもオススメだが気になる点はあり ☆☆☆=文句なくオススメ 原作 03『サン=フォリアン教会の首吊り男』 ☆☆ 09『男の首』 ☆☆☆ 25『メグレと奇妙な女中の謎』 ☆☆☆ 44『メグレ

2023年はメグレ警視の年だった

前からメグレ警視シリーズは興味があって、原作も何冊か読んでいたが、その当時はあまりハマりませんでした。 翻訳ミステリー大賞シンジケートで2014年から連載が続いている瀬名秀明さんの「シムノンを読む」も楽しんで読ませてもらっていますが、それでも積極的に本を読むまではいきませんでした。 今年になってパトリス・ルコント監督『メグレと若い女の死』が公開され、早川書房から原作の新訳版が発売されたのを機に原作を購入・読了。 映画の原作『メグレと若い女の死』に見事にハマり、4月から少

メグレ警視シリーズ長編03『サン=フォリアン教会の首吊り男』(1931)+江戸川乱歩『幽鬼の塔』+天地茂・主演14『五重塔の美女』 紹介と感想

シムノンの原作、乱歩の翻案、乱歩作品を原作としたドラマと、三者三様の違いを持った作品となります。 ジョルジュ・シムノン『サン=フォリアン教会の首吊り男』(1931)あらすじ メグレはベルギー出張の帰り、身なりに似合わず大金を封筒に入れて持ち歩く男を見つけ、興味本位で後をつける。メグレは隙を見て男が大切そうに持っている鞄を似た鞄とすり替えるが、男の鞄には古着が入っているだけだった。 その後、ホテルで鞄の中身が違う事に気づいた男は、口の中に拳銃を突っ込み自殺した。 メグレは男

メグレ警視シリーズ長編09『男の首』(1931)紹介と感想

ジョルジュ・シムノン/宗左近・訳『男の首』グーテンベルク21, 2004(電子書籍) あらすじ 死刑囚ウルタンは、金持ちの老婦人ヘンダーソンと女中を殺した罪でラ・サンテ監獄に投獄されていた。 刑の執行を待つだけだったある日、脱獄の指示が届いた。 この指示は、自分で逮捕しながら、ウルタンが真犯人とは思えなかったメグレの指示によるものだった。 手筈通り脱獄したウルタン。メグレは、デュフールとジャンヴィエを尾行につけた。 紆余曲折ありながらウルタンを尾けていると、徐々に背後に何

メグレ長編18『第1号水門』L’écluse n°1(1933)紹介と感想

ジョルジュ・シムノン 大久保輝臣訳『第1号水門』グーテンベルク21, 2023 あらすじ 老船頭のガッサンが泥酔し運河に落ちた。そのガッサンが落ちた場所のすぐ側で、エミール・デュクローが刺されて運河を流れていた。 幸い重大な怪我にはつながらなかったが、報告書を読んだメグレが捜査を担当することになった。 退職間際のメグレにとって最後の仕事になるはずの事件は、被害者デュクローとの緊張感溢れる時間となった。 そんな中、デュクローの息子・ジャンが「父を刺したのは自分だ」と遺書を残

メグレ警視シリーズ長編25『メグレと奇妙な女中の謎』(1944)

ジョルジュ・シムノン「メグレと奇妙な女中の謎」『EQ MAY'86 NO.51』光文社, 1986, p213-280 あらすじ パリから数キロ離れたジャンヌヴィル分譲地で、気難し屋の男《義足のラピィー》が銃殺された。 メグレは、ラピィーと一緒に暮らしていた女中のフェリシイに話を聞こうとするが、つっけんどんな態度を崩さない。 あまつさえ、警察の尾行をまいたり、嘘をつき続けたりする。 そんな彼女に苛立ちながらも、拘ることをやめられず付け回すメグレ。 自分の家のように動き回る

メグレ警視シリーズ長編41『メグレとベンチの男』Maigret et l'Homme du banc(1952)紹介と感想

ジョルジュ・シムノン 矢野浩三郎訳『メグレとベンチの男』グーテンベルク21, 2006 あらすじ 10月19日、サン・マルタン通りの路地で刺殺された男の死体が見つかった。 名前はルイ・トゥーレ、彼は茶色の靴と派手なネクタイをしていた。 しかし、妻によると身に付けているものは主人の物ではないし、こんなに金を持っているのもおかしいと言っている。 調べを進めると、彼が務めていたと言う会社は、3年前には無くなっていた。 彼は、妻には会社に出勤しているように見せかけ、毎月の給料も持

メグレ長編42『メグレの途中下車』Maigret a peur(1953)紹介と感想

ジョルジュ・シムノン 榊原晃三訳『メグレの途中下車』グーテンベルク21, 2004 あらすじ ボルドーで開催された国際警察会議の帰り、メグレは列車に揺られていた。 大学時代の学友であり、地元で予審判事をしているシャボに会いにフォントネイ=ル=コントへ行くところだった。 しかし、道中で会う人々から事件の為に街を訪れたと思われるメグレ。 町では、4日前から連続殺人と思われる2件の殺人事件が起きていた。 しかも、メグレがシャボと再会したその時に、3件目の殺人が起きたと連絡が入っ

メグレ長編43『メグレ間違う』Maigret se trompe(1953)紹介と感想

ジョルジュ・シムノン 萩原弘巳訳『メグレ間違う』河出書房新社, 2000 あらすじ 朝のコーヒーを飲んでいるメグレのもとに、エトワール警察署のデュプー警視から殺人を知らせる電話が入った。 富裕層の多いカルノー街のアパルトマンで、ルイーズ・フィロンという若い女性が射殺された。 殺される前に訪ねて来ていた若い恋人に疑いがかかるが、メグレが人々から話を聞いていくと、彼女を囲っている男の存在が浮かび上がる。 メグレは、手順通りの捜査を行いながら、死んだルイーズと彼女を囲っていた著

メグレ警視シリーズ長編44『メグレと田舎教師 Maigret à l'école』(1953)

あらすじ 朝、メグレが出勤すると、司法警察の待合室に使われている、《煉獄》と呼ばれているガラス張りの部屋に一人の男が居た。 メグレは、対して気にも留めずリュカを連れて外に出る。 一仕事終えて帰ると、男はまだ待っていた。どうやら、メグレに個人的に会いたいらしい。 男は、サン・タンドレという小さな村で小学校教師をしているジョゼフ・ガスタン。 彼は、自分がよそ者なので、レオニ・ビラールという元郵便局員の老女を殺した罪を着せられそうになっていると、メグレに助けを求めに来たのだ。

メグレ警視シリーズ長編48『メグレと首なし死体 Maigret et le Corps sans tête』(1955)紹介と感想

ジョルジュ・シムノン/長島良三・訳『メグレと首なし死体』グーテンベルク21, 2006(電子書籍) あらすじ ノオ兄弟の伝馬船のスクリューに男の片腕が引っかかった。 その後の警察の調べで、バラバラにされていた残りの身体も見つかったが、首から上だけが見つからない。 ラポワントを連れて捜査を行っていたメグレは、電話をするためにくすんだビストロに立ち寄った。 そのビストロの女主人は、メグレが何を話しても何の関心も示さず、必要以上の返事もしなかった。 女主人の印象が強く残ったメグ

メグレ長編53『メグレと口の固い証人たち』Maigret et les témoins récalcitrants(1958)紹介と感想

ジョルジュ・シムノン 長島良三訳『メグレと口の固い証人たち』河出書房新社,1983 あらすじ 11月3日の月曜日。定年まであと2年のメグレは不機嫌だった。 司法警察局でラポワントが逮捕した『修道者』グレゴワール・ブローと話していたメグレの元に殺人事件の知らせが入る。 被害者はレオナール・ラショーム。1817年創業の老舗菓子会社ラショーム・ビスケットの中心人物だった。 メグレが現場へ行ってみると、家の前時代的な古臭さと、通常の場合に見られるような反応が家族に見られないのが気

メグレ長編56『メグレと老外交官の死』Maigret et les Vieillards(1960)紹介と感想

ジョルジュ・シムノン 長島良三訳『メグレと老外交官の死』グーテンベルク21, 2004 あらすじ 5月のある日、外務省に呼び出されたメグレは、元大使のサン・ティレール伯爵が銃殺されたことを知らされる。 伯爵は四発の銃弾を撃たれていたが、一発目で死んでいる事は間違いなかった。 現在の伯爵は何十年も付き添っている家政婦と二人暮らしをしながら規則正しい生活をしており、敵はいないとの話だった。 また、伯爵には結婚はできなかったがお互い一途に思い続けている若い頃からの恋人がおり、相