見出し画像

稽古場レポート(再開)2回目

こんにちは。Mr.daydreamerの上野です。

稽古場レポート再開後、2回目の更新になります。私事になりますが、最近は時間と、何より気持ちに余裕がある日々が続いているので、noteを書くことが楽しくなってきました。この調子で、継続的に更新を続けていければと思います。

今回の稽古場レポートは、前回のレポートの続きから始まります。もしまだ読んでいないという方は、ぜひ前回のレポートも読んでみてください。

では、実際に立ち上げていく過程を書いていこうと思います。

前回のワークの結果から、ミニチュアの都市を舞台上に作っていくことは難しいと判断しました。この判断は、2つの要因から下されました。

1つ目は、稽古場にあるモノを使って街を作っていくことはとても興味深かったのですが、私の想定以上に必要とするモノの数が多くなることが問題でした。今回参加する「ロクコレ」という演劇フェスの性質上、舞台にモノを多く配置することができません(これは、フェスやコンペに参加すると必ず直面する壁ではあるのですが、制約が存在する中で、できる限りの演出プランを練ることは演出の技量を試されるようでワクワクします)。こうした制約の中では、舞台上にミニチュアの都市を作ることは物理的に不可能です。

2つ目は、ミニチュアの都市を作ってみて感じたことではあるのですが、ミニチュアで都市を作っても都市とは呼べないものになってしまうということです。視覚的には都市を感じることができますが、役者から共有された「人が集まる場所」という要素が、どうしても抜け落ちてしまうのです。ミニチュアの都市の中からは、人の気配というものが感じられませんでした。これでは、都市を表現することから、本質的に遠ざかってしまいます。

以上2つの観点から、ミニチュアの都市を作ることを断念しました。

しかし、視点を変えてみれば、都市を作ることはできるのではないか?と考えました。ミニチュアでは都市を大きな視点から作っていたと言えます。そのせいで、都市の概観は作ることができても、そこで生活をしている人々までは届かなくなります。また、ミニチュアの俯瞰から想像される都市は、細部への想像力が引き起こす収束的想像力に繋がると考えられます。観客の想像は局部に収束されていき、そこから広がる想像力は都市全体にまで至ることは出来ないだろうと考えられます。

そこで、視点を変えて小さな視点、つまり「都市に生活する1人の人間」をクローズアップすることから、都市を作ってみようと考えました。ミニチュアの都市に囲まれ生活する人間と、それを取り巻く周囲の人間の気配を表現することで、限られた空間の中から膨張していくように都市空間が広がると考えました。この膨張的想像力は、局部から全体へと想像力が展開されていくため、結果として都市全体への想像力に繋がることが出来るだろうと考えられます。

上記のことをもとにして、具体的な都市を想定していきます。今回は、公演の場所が北九州の枝光ということもあり、九州最大の都市である福岡市を選びました。これは、お客さんに対しても、想像しやすい都市であるということはもちろんですが、表現する側についてもなじみ深い都市であり、都市の中の人間を想像しやすいであろうことも関係しています。

では、実際にどのように表現するかを考えていきます。

私はまず、プロジェクションマッピングのように、実際の都市の映像を投影するといった方法を除外しました。これは、実際の都市を目の前に表現することにより、観客の想像を限定することを避けるためです。私は過去に、映像を用いたことが一度だけあります(実際に使用した映像はコチラ)。しかし、今回の作品に関しては、映像は余計な情報となってしまうだろうと考えられます。以前に映像を使った作品では、短い言葉の応酬と音楽による空間変化がベースに置かれていましたが、今回の作品では会話がベースに置かれているため、余分な情報が増えれば増えるほど、会話というベースが失われることになるからです。会話というものは、基本的に「音情報」と「意味情報」の2つの要素から構成されていると考えています。電話を使った会話が成立することからも、この2つが基本要素であると言えるでしょう。したがって、視覚情報は余計なものとなります。

そこで今回は、音の情報をピックアップしました。今回使用する都市の音は、実際の都市で録音したものに限定しました。今の時代、ネットを使えば環境音などいくらでも手に入ります。そうした音を使用すれば、入手も簡単ですし、録音する手間も時間もかからないので便利に活用することもできます。しかし私の場合、ネットで見つけた音と作品のイメージが一致することが少なく、過去にネットで見つけたフリー音源を使った際も、それを加工して利用していました。加工してもイメージに近づくだけで、その音からの説得力に欠ける印象を持っていました。それもあって、DENGEKI_Vol.8に参加させて頂いた『赫銹』と作品では、音響スタッフに実際の環境音を街で録音してもらい、その音を無加工で使用しました。その結果、場の環境づくりに良い効果を与えることが出来ました。

そうした過去の経験から、今回の作品でも実際の都市の音の録音にこだわりました。都市の音を使うシーンは限られますが、実際の都市の音が作品に及ぼす影響は大きいと言えます。録音には、ネットのフリー音源には入らない、風がマイクに当たったノイズなどが入っていたりと面白い音になることが多く、それらの生々しい音が都市への没入感を妨げ、結果的に都市を相対的(客観的)に思い起こすことが出来るようになるという作用があります。

また役者には、シーンの一部において、現実の都市の中に居る身体の状態を提示してもらうことにしました。それは、定番の待ち合わせ場所で人を待っている状態であったり、人が多い交差点で信号を待っている状態です。特に後者の身体の状態では、周囲の人間の多さを表現してもらうために、歩いてくる人を避ける、避けきれずに当たってしまった状態を提示してもらうことにしました。それらの演技から、荒廃した彼女らの住む都市の、かつての姿を想起してもらおうと考えています。

しかし、上記の過去の都市の人々を想起してもらうための身体状態を提示するにあたって、導入が重要であると言えます。唐突に、物語の時系列とは異なる時代を提示されても、お客さんは戸惑ってしまいます。そこで、過去を提示する前に、過去の都市を、現在の彼女たちの身体で歩くという演出を一つ挟みました。この演出だけでカバーできるかどうかは、断定することはできませんが、少なくとも1つの取っ掛かりにはなりえるだろうと考えています。実際の効果は、劇場で確認していただければと思います。

次回は、今回配置している小道具の作用について書いていこうと思います。

本番も近づいてきました。ご予約もお待ちしております。
※ご予約はこちらから↓↓
https://www.quartet-online.net/ticket/roku-colle

宣美画像_201213

宣美画像_201213_0


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?