『ラーゲリより愛を込めて』 感想
原作:辺見じゅん 映画脚本:林民夫 ノベライズ:前川奈緒 文集文庫 2022.8.10
195 人間を、「捕虜」という扱いやすく管理しやすいものに変えようという圧倒的な暴力の中で、ずっと人間であり続けた人。
感想
ネタバレあるので映画まだ見てない方は読まない方がいいです!
おととし、たまたま渋谷の蔦屋書店で見つけて買った本📕
映画『ラーゲリより愛を込めて』のノベライズ本です。
1回読んで、ボロクソに泣いて、映画も見て、ボロクソに泣いて、去年末に再読。
ちなみに昨日映画を見直しました。後半ずっと泣いてました。泣き過ぎて頭が痛かった😭
映像も好きだけど、ノベライズは文章で登場人物の気持ちが追えるのでより好きです。
僕は登場人物の中だと相沢さんが一番好きです。松田さんもすごく人間らしくて好きです。
なんか、感想を書こうとしても野暮な言葉になってしまいそうなので是非読んでください、とだけ。
心からおすすめできます。プライムで映画も観れるのでそちらもぜひ。俳優陣の演技が本当に素晴らしいです。
1つだけ。今の社会は非常に豊かで日本はすごく平和な国だと思います。
そのせいか当たり前のハードルがすごく上がってしまっていて、家族の存在とか、平和な社会に対する感謝を抱きづらい環境だなと読んで感じました。
ただ、その平和は時に脅かされる時があります。
コロナ、震災、戦争、突如として日常が奪われてしまうことがあります。
そのことは頭の片隅に置いておいた方がいいのかもしれない、と思いました。
人間は失うことでしか気づけないものだと思います。
当たり前の尊さを、見失わないように日々を過ごしていきたいです。難しいけど。
あと、一度でいいから山本さんにお会いしてみたかったなあと思いました。人生観が変わりそう。
あと、もし死にたい、と思い悩んでいる子がいたらこの本を渡したいです。
印象に残ったところ
38 松田 ダモイかと思った。日本海だと思ったものがバイカル湖だったとわかった時から、松田は帰国のことを考えることをやめていた。それだけ落胆が大きかった。
また無駄に希望を抱いて、叩き落とされることが怖かった。だったら、心を殺して、頭を低くして、一日一日生き延びることを考えた方がいい。そう思っていた。
69 「美しい歌に、アメリカもロシアもありません」
134 …書いたものは新ちゃんの記憶に残ってるだろう。記憶に残っていればそれでいいんだ。頭の中で考えたことは、誰にも奪えないからね。
199 「生きてるだけじゃ駄目なんだ。ただ生きてるだけじゃ。それは生きていないのと同じなんだ。俺は卑怯者をやめる。山本さんのように生きるんだ」
226 理不尽だと思った。子供の大事な場面に立ち会うこともできず、結果すら知ることができない。癌になったことは、仕方のないことだ。どうしようもない。しかし、山本には心配してくれる妻がいて、子供がいて、母がいる。それなのに、彼らと一目会うこともできず、遠い地で死んでいこうとしている。
理不尽だった。
それもこれも、戦争のせいだ。戦争の理不尽のせいだ。
人を殺してはいけない。人の自由を奪ってはいけない。人の尊厳を冒してはならない。国籍や人種が違っても、ある程度、共通の認識を持っている「人間の当たり前」が、戦争となると、まるで通用しなくなる。ぐるんと反転しさえする。
239 「私はね、自殺なんて考えたことありませんよ。こんな楽しい世の中なのに、なんで自分から死ななきゃならんのですか。生きていれば、必ず楽しいことがたくさんあるよ」
自由を奪われ、厳しい労働を強いられ、過酷な懲罰を受けてなお、そんなことを言うのかと、その時はやはり正気ではないと半ば呆れていた。今思えば、あの言葉を山本はその生涯をかけて体現していた。生きることは楽しいのだと身をもって示していた。
240 松田は、シベリアの凍土の下に眠る人たちのことを思い、そして、誰よりもダモイを信じ続けた男のことを思う。
一緒に、この日を迎えたかった。そう心から思った。
245 「海原の沖辺にともし漁る灯は明かしてともせ大和島見む」
中略
実際にこの光景を見たら、山本は何と言ったのだろうと新谷は思う。その隣にいたかった。一緒に、ダモイの日の歌を、口にしたかった。
279 どういう状況におかれてもなお人間らしく生きるとはどういうことか。父は、それを多くの人々の記憶の中に遺した人でした。その生き方こそが、父が私に遺した未来でした