【オト・コク】大人になってもややこしい敬語の話。
こんばんは、しめじです。
今夜は、タイトルのとおり「敬語」についてお話しします。
古文をきちんと読めるようにするには必須とも言えるのが敬語の知識です。
この知識がないと、主語が書かれないことが多い日本語の文章において、誰が何をいったのか、誰が何をしたのかを把握することが難しくなるからです。あるいは、敬語の知識を持っていれば把握がめちゃくちゃ簡単になるからです。
今の日本語は、性別や年齢などで使う言葉の「相場」のようなステレオタイプが存在しているので、例えば女性上司と男性部下の会話などであれば、「 」が連続していてもどっちがどっちの台詞なのかわかりやすいことが多いですが、古文だとそうは行かないケースが多い。そこで、敬語を使ってどっちの台詞か見分けていく、という場合があります。
さて、とはいえ敬語って大人になっても難しいもの。
こういう仕事をしていると、ついつい他の人の敬語が気になってしまう時があります(職業病というほどではないですが、多分かなり気になってしまう方です。わざわざ指摘したりはしませんが)
というわけで、今夜は、敬語の仕組みについて話をしていきます。
基本的な構造は古文の敬語も現代の敬語も同じです。
敬語は三種類。
敬語と一括りで呼びますが、働きによって三種類に分かれています。
尊敬語
謙譲語
丁寧語
です。
尊敬語
敬いたい相手の動作にもちいる敬語です。
よくあるのは、
〜なさる…書きなさる、話しなさる、など。
〜(さ)れる…書かれる、話される、など。
という、「補助動詞」と呼ばれる言葉を後ろにくっつけるもの。
それ以外には、一個の独立した動詞などとして存在するものもあります。
おっしゃる…「言う」の尊敬語。
いらっしゃる…「いる」「来る」の尊敬語。
などですね。
謙譲語
自分の動作につけて謙る(へりくだる)ことによって、相対的に相手を敬う言葉です。
補助動詞であれば、
〜いたす…お話しいたす、お調べいたす、など。
相手に何かを知らせるようなことであれば、「〜申し上げる」、相手に何か影響を及ぼすようなことであれば、「〜差し上げる」を使うこともあります。
(このあたりは使い方の幅が広いので、わりとアバウトです。例えば「ご連絡いたします」「ご連絡申し上げます」「ご連絡差し上げます」はどれを使っても特に問題ありません。多少文脈に左右されることはありますが、細かく言い出すとキリがないのでここでは省きます)
また、独立した一つの動詞であれば、
申し上げる…「言う」の謙譲語
伺う、参る…「行く」の謙譲語
などがありますね。
丁寧語
とにかく言葉を丁寧にすることで、話を聞いてくれている相手(読んでくれている相手)を敬う言葉です。
代表的なものは「です、ます」。あとは「ございます」。
あとは「お美しい」や「お箸」「御恩」の「御(お、ご、おん)」が該当します。ただしこれは、丁寧語でなく尊敬語を作る場合もありますが、そこの差は別に意識する必要はありません。
敬意の方向について
古典では、「誰に対する敬意か?」という問題が出されることがあります。
(場合によっては、「誰からの敬意か?」という問題もあります)
つまりは、「その敬語は誰を敬っているのか?」ということです。
これは、「誰が」「どの敬語をつかっているのか」で若干変わってきますし、言葉だけで説明するとややこしいので、イラストを使ってお話ししていきます。
1 自分が、相手の動作に尊敬語を使う場合。
例として、「今、先輩はどこにいらっしゃいますか?」の「いらっしゃる」の敬意の方向についてみてみましょう。
こうなります。
「いらっしゃる」という尊敬語が使われた先輩の位置が上がるようなイメージです。
で、自分から、高い位置にいる先輩を敬っている、という考え方になります。
2 自分の動作に謙譲語を使った場合。
例として、先輩に呼ばれて「はい、今すぐ伺います」と言った時のことを考えてみましょう。
「伺う」は「行く」の謙譲語です。
今度はこうなります。
ポイントは、自分がへりくだることによって、相対的に相手を高めているという点です。
あくまで謙譲語は「下げる」ことばなので、間違えて相手に使うと失礼だというのはこういう理由です。
3 丁寧語を使った場合。
例えば先ほどの例文の文末「〜ます」はどうなるのか、というと。
とにかく、相手への敬意です。
上の例であれば、先輩に向かって言っている(聞いているのは先輩)ので、先輩への敬意ということになります。
ですので、例えば、「○○先輩が呼んでるよ」と誰かに言われて、「今すぐ伺います」と答えた場合は、〇〇先輩のところに伺うので、伺うは〇〇先輩への敬意ですが、最後の「ます」はそれを言ってくれた誰かへの敬意と言うことになります。
4 自分の話の中の登場人物の動作に尊敬語を使った場合。
今度は、直接自分が話しているわけではない対象に敬語を使った場合をみてみましょう。
例えば、友達に「〇〇先輩(大先輩)が□□先輩(先輩)に楽しそうに何か話していらっしゃった」と話した場合。
直接の聞き手は友達で、話の中の登場人物が大先輩と先輩、という関係です。
この場合は、こうなります。
あくまで「自分が誰を敬っているか」という問題なので、この場合は「先輩」は関係ありません。
5 自分の話の中の登場人物の動作に謙譲語を使った場合。
例えば、誰かに「□□先輩(先輩)が、〇〇先輩(大先輩)に明日の訪問先の情報を申し上げていた」と説明した場合ですね。
今度はこうなります。
話の中に登場する先輩を下げたので、相対的に大先輩が高くなります。
そして、やはりあくまで敬意の方向は「自分が誰を敬っているか」なので、先輩は関係なくなってしまいます。
6 自分の話の中の登場人物に、尊敬語も謙譲語も使う場合。
例えば、先ほどの例。
「□□先輩(先輩)が、〇〇先輩(大先輩)に明日の訪問先の情報を申し上げなさっていた」
となるとどうなるでしょうか。
「申し上げる」は謙譲語ですが、「なさる」は尊敬語です。
つまり、先輩に、尊敬語も謙譲語も使っています。
その場合は、こうなります。
まず、「申し上げる」という謙譲語があるので、5の通り、まず大先輩への敬意を表します。
そして、「なさる」という尊敬語があるので、4の通り、尊敬語が使われている先輩への敬意も表しています。
つまり、「申し上げなさる」とすることで、話に登場する二人に同時に敬意を表しているんですね。
ちなみに、古文だとこのケースがかなり多いです。
なにしろ、古文の授業で扱う文章の多くが平安時代に書かれた文章。
貴族の世界の話なので、「天皇と大臣がこんな話をしていた」なんて場面がたくさんあります。
すると、筆者(書いた人)から天皇と大臣の両方に敬意を示す必要が出てきますので、大臣の動作に謙譲語と尊敬語が両方使われるということはよくあります。
7 謙譲語と尊敬語と丁寧語をいっぺんに使うとこうなります。
「□□先輩(先輩)が、〇〇先輩(大先輩)に明日の訪問先の情報を申し上げなさっていました」
となると、今度は最後に丁寧語まで入ってきます。
この場合が、一番あっちこっちに敬意を表していることになります。
6の通り、「申し上げ」で大先輩に、「なさる」で先輩に敬意を表しています。
あとは、3の通り、丁寧語は「話を聞いている相手」への敬意ですので、図にするとこうなります。
と言う感じです。
というわけで、いかがだったでしょうか。
ちょっとややこしい感じもしますが、実際は結構シンプルです。
どんな時、どんな相手に、どんな敬語を使えばいいんだ?? となる人は、この仕組みを理解できると間違いが減るのではないかと思います。
また、古文の勉強においては、訳する上でも主語の判別の上でも、この敬語の仕組みはわかっておくとかなり楽になります。
ぜひ、しっかり理解してください。
では、今夜はこのへんで。
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