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多様な情報提供手段~いざというとき、通信システムを使いこなすために

災害情報は活用してこそ

災害時においては避難勧告などの第一報を一刻も早く住民に伝達することも極めて重要です。しかしながら、避難勧告を出しても、災害の状況を甘く見がちなため実際にはなかなか避難しない住民が多いのが実情です。

それを避難行動に移させるためには、いかに事態が切迫しているかを住民が納得できるように伝える必要があります。さらに、地震や津波が起きた後では、余震などについての誤った噂が広まりパニックが起きないよう、適切な
タイミングで正しい情報提供を行っていくよう留意しなければなりません。

住民への避難情報の伝達

災害の第一報をどうやって住民に伝えれば、効果的なのでしょうか。
例えば北海道南西沖地震の際、熊石町では、ほとんどの人が津波警報を防災行政無線で聞いていました。

一般に、緊急を要する避難情報を提供するために最も望ましい情報提供手段は何でしょうか。

国土交通省の調査によると、トップは職員の巡回(約26%)ですが、2番目が防災行政無線で、テレビ、サイレンや半鐘などを上回っています。一方、ラジオはリスナーが少ないのか、5%を切っています。やはり防災行政無線の整備が最も効果的だということがわかります。

避難情報の最も望ましい伝達方法

(出典: 国土交通省「水害・土砂災害等に関する世論調査」)


防災用無線の整備と保守・訓練の重要性

阪神・淡路大震災の翌日に起こったガスタンクの亀裂によるガス漏れの際、周辺住民8万人に避難勧告が出されましたが、該当地域には同報系の防災行政無線が整備されておらず、全住民への避難勧告が遅れたと指摘されました。また、その後の新潟水害においても、同報系の防災行政無線は整備されていませんでした。

同報系の防災行政無線が整備されていない市町村は、2007年3月末現在、全国でまだ約25%もあり、中には約70%が未整備という県もあります。自治体の財政事情が厳しさを増す中、防災行政無線の新規整備や市町村合併に伴う地域内格差の解消が困難な市町村も多数存在するのが実態です。

また、2004(平成16)年に国民保護法が施行されたことにより、地震・津波やミサイル攻撃などに対処するため、国から住民に数秒で情報を周知する全国瞬時警報システム( J-ALERT)」の整備が進められていますが、これには同報系の市町村防災行政無線の整備が前提となっているため、未整備の地域における早期の整備が一層期待されているのです。

加えて、既設アナログ設備のデジタル化、公共機関や避難場所など防災無線の整備が必要な機関・施設の増大など、自治体における防災対策上、早急に対処すべき課題は山積しています。

消防庁ではこの状況を重く見て、2007年8月、同防災室長が各都道府県の消防防災主管部長にあて、MCA無線などを活用して同報系防災行政無線の整備を促進するよう求める文書を通達しました。

◎財政的理由等により早期整備が困難な場合、MCA陸上移動 通信システムまたは市町村デジタル移動通信システムを活用し、 屋外拡声機能を設けることにより、地域住民に対して情報伝達を行う同報無線の代替として利用することも可能。
「MCA陸上移動通信システム及び市町村デジタル移動通信シ ステムによる地域住民への災害情報等伝達体制の整備について」 (2007年8月17日:消防庁防災情報室)
日本経済新聞2007年8月21日

一方、防災行政無線を整備している自治体でも、整備していれば安心、というわけではありません。釧路沖地震や阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、沖縄の台風14号などでは、自家発電装置が起動しなかったケースや、庁舎の倒壊などで防災行政無線がしばらく使えなかったケースがありました。
また、新潟県中越沖地震では、防災行政無線が数時間使えず、住民への情報提供がストップしてしまった、というケースも発生しています。


いかに災害に強い通信網を整備しても、日頃の点検・保守や訓練が伴わなければ効果が上がりません。技術やシステムは使いこなしてこそ意味があり、いざというときに使えるような準備を日常からしておくことが大前提となるのです。

さまざまな情報手段の特性

災害時には、一つの伝達手段だけですべての住民に情報を伝えるのは難しいものです。同報系の防災行政無線の整備に加えて、マスコミ(テレビ、ラジオ、コミュニティ放送、CATVなど)やインターネットとの連携も含めさまざまな手段を駆使する必要があります。この場合、各システムの問題点も把握しておくことが肝要です。以下に各情報の特徴と留意点を挙げます。

コミュニティ(FM)放送
コミュニティ(FM)放送も、住民に防災情報を伝達する手段として活用できます。しかし、新潟水害の際には聴取者が少なかったため、あまり効果は大きくなかったと言われています。一方、熊本県小国町のように、全世帯に緊急警報放送対応ラジオを配布し、非常時には緊急警報信号によりラジオを起動するシステムを築き、確実な情報伝達を狙っている自治体もあります(聴覚障害者には、文字多重放送により文字表示も)。

ケーブルテレビを活用した情報伝達システム
既存のケーブルテレビを活用して、IP告知放送などにより防災情報を伝達するシステムもあります。ただしこの場合、ケーブルが切れると通信できなくなるため、地震などの際には注意が必要です。また停電時には、テレビが利用できなくなる恐れがあります。

地上デジタル放送
今後は、地上デジタル放送も防災情報の伝達手段としてて大いに期待されています。データ放送の機能を活用して防災関連のさまざまな情報を提供できますし、ワンセグ受信機を強制的に起動させれば、避難勧告などを周知することも可能になると言われています。

インターネット(ホームページ)
関心のある人が必要な情報を探すプル型のメディアとして、インターネット(ホームページ)に災害情報、警報などを掲載することも効果的で、災害時は数倍~数十倍のアクセスがあるとされています。さらに、ウェブカ
メラで堤防などの映像を提供すれば、避難警報への反応が改善されると言われます。ただし、停電時にはパソコンが利用できなくなることにも注意する必要があります。

災害時に住民の求める情報

他方、被災者の立場では、災害時にどんな情報を必要とするのでしょうか。
東京大学社会情報研究所の資料によると、阪神・淡路大震災当日に最も必要とされたのは、今後の余震についての情報でした。「また揺れるのではないか」という不安が大きいのはもっともです。その他求められた情報としては、家族や知人の安否、地震の規模や発生場所、被害状況、電気・ガス・水道などの復旧見通し、自宅の安全性、火災の状況についてなどと続いています。

ただし、住民の求める情報は状況に応じて刻々と変化していくので、行政の提供する情報との間には、得てして乖離が生じやすいと言われています。
2004(平成16)年の新潟県中越地震の際、ある被災者によると、地震直後、ほとんどの住民は家屋の倒壊や余震による二次災害を警戒し、避難場所の情報を求めたそうです。そして数日経過後は、家に入ることができないまま生活用品も不足したため、救援物資情報が最も求められていました。

新潟県中越地震 上空のヘリコプターに訴える「SOS ミルクくすり」などの文字
(2004年10月25日新潟県川口町新潟日報提供)


さらに1週間以上経つと、住民はすでにテレビやラジオなどによって、おおまかな被害状況や救援物資の情報を把握していました。そして今度は交通網やライフラインなどの復旧情報を求め始めていたのです。
また、日本語の不得手な外国人住民には正確な情報が伝わりにくいため、非常に不安な状況に置かれることになります。

このため、例えば福岡国際FMでは、福岡県西方沖地震の際に多国語で災害関連の情報を的確に放送して大きな効果を得ました。また、兵庫県の携帯メール「ひょうご防災ネット」も、中・韓・英・ポルトガル・ベトナム語に対応しているなど、防災分野における情報の多言語化も少しずつ進んでいる状況です。

以上のように、災害時に情報を提供する立場にある者は、各局面で段階的に求められるニーズを的確に把握することが大切だと言えるでしょう。


この記事は『防災・危機管理読本 2008』 に掲載されたものです。
初版 平成19年11月1日
発行 全国移動無線センター協議会
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