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【完成度高まる】第40節 東京ヴェルディ戦【雑感】

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①スタメン

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②ヴェルディの可変システムと長崎のブロック

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ヴェルディの可変システムは健在だった。DAZNの予想フォーメーションでは藤田をアンカーに置いた4-1-2-3で表示されたが、実際にボールを握った時の立ち位置は左サイドバック福村がボランチの位置に絞る3-2-5の形を取る事が多かった。端戸は最前線に張り付くというよりは中盤まで降りてきて数的優位を作る方が多く、このゼロトップ的な仕組みも前回対戦時と同じだった。ヴェルディはボールを握って立ち位置を変えながら相手の陣形を動かして縦パスを刺し、最後の局面はウィング(とくに新井)の突破でゴールを奪いたいというのが基本的な狙いだったようだ。

これに対して長崎はあまり前線から奪いに行くプレスはせずに、やや低めにラインを設定して中央を固めるブロック守備を選択する。パスを回されて陣形を動かされてから藤田、佐藤、端戸あたりに通されると厄介な事この上ないため、ヴェルディのパス回しをサイドに誘導するように大外を捨てた守備陣形を敷いた。

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富樫、ルアンの2トップは左右のスライドを怠らずにキーマン藤田へのパスコースを背中で消し続けた。2トップの負担は大きかったが、それ以上に大変だったのは大竹・氣田のサイドハーフだった。ヴェルディの狙いがウィングの突破である以上、サイドバックの毎熊と米田が前に喰いつきすぎるのは良策ではない。例えば右サイドから攻められる時、大竹は①福村を背中で見ながら②平との間合いを詰めつつ③ウィング(森田or新井)にパスが出たらスプリントしてプレスを掛けるという、場合によっては1人で3人を同時に気にしつつ守備をするというハードワークを課されることになった。これは左サイドを攻められる場合は氣田が同じ状況に陥る事になったが、長崎としては狙い通りの守備だったようだ。後半途中で珍しく2トップを丸ごと入れ替え、その後すぐに大竹→加藤大のカードを切ったのもプラン通りの交代だったように思う。

変に喰いついてピンチを招くという事は少なく、ヴェルディの狙い通り新井がボールを持っても必ず毎熊が対応し、一対一の場面でも毎熊の守備が一枚上手で突破を許さなかった。後半はスピードのある山下が投入されて押し込まれる場面こそ増えたが、加藤大の貢献もありクリーンシートを達成できた。

③長崎のボール保持

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この試合はガンガンに攻めまくったわけではないが、長崎が本来やりたい攻撃の型が良く出た90分だったと思う。相手の状況に応じて速攻・遅効をここまで上手く使い分けたられたのは2020年手倉森体制の成果といえそうだ。

Ⅰビルドアップ
まずは後方の4人(二見・角田・秋野・カイオ)でビルドアップを開始する。時には氣田・ルアン・大竹の内1人がカイオと同じ高さまで降りてきてボールを引き出す事もあった。一番の狙いはチームの心臓であるカイオにボールを渡して前を向いてもらう事で、この形が成功すればヴェルディのブロックは中央に絞らざるを得なくなりサイド攻撃が出しやすくなる。

ただカイオを自由にさせてくれるチームなど極少数で、ヴェルディもご多分に漏れず2トップが良く対応していた。カイオへのパスコースが遮断された場合、次に狙うのは二見・角田が相手2トップ脇を持ちあがるドリブルだ。例えば毎熊→角田→秋野→二見とボールが右から左に繋がった時、二見は佐藤の左脇をドリブルで突破できるわずかなスペースと時間ができる。二見の少しのドリブルで右サイドハーフの小池は二見を対応するべきか大外の米田に着くべきかハーフスペースの氣田を見るべきか、対応を迷わせることが出来、長崎としてはこの後の展開を有利に進めることが出来る。

Ⅱ左サイド攻撃
ビルドアップに成功して相手を押し込めたら次に狙うのは左サイドの突破になる。サイドバックに本職の米田が復帰したことで、左サイドの前進は推進力が増し、前進もスムーズになった。

左サイドで行き詰った時は一度ボールを最終ラインに戻して右サイドに展開、相手のブロックを十分に引き付けてから再び左サイドに大きく展開して再び突破に挑戦する、という形にもスムーズさがあった。

左サイドの奥まで侵入できたら氣田、米田プラス1人(ルアンかカイオ)が寄ってきて連動しながらクロスかカットインを狙うのも再現性があった。

Ⅲカウンター
相手陣地でボールを奪えたり、ヴェルディのビルドアップをピッチ中央で引っ掛けた時はすかさずカウンターを発動。一時期は奪った後もまず秋野に返していたボールだが、氣田やルアンなどドリブルで運べる選手が行けるところまで行く形は完全には定着した。両翼の米田と毎熊、何ならカイオもも縦に運べる選手なので縦への速さはかなり出せるようになった。

Ⅳセットプレー
得点を積み重ねた11月だったが、さっぱり機能しなくなっていたのがセットプレー。特にコーナーキックは失点こそすれ得点の匂いは全くしないという試合が続いていた。

ここへ来て山形戦、ヴェルディ戦と続いてコーナーキックから決勝点を叩き込んだ。過密日程で練習時間が十分に取れない中でセットプレーの練習してないかな?と思っていたが、もしかすると最終盤に差し掛かったタイミングでテコ入れしたのかもしれない(妄想)真相は分からないが、緊迫感のある試合でセットプレーから得点できるのは何より試合を楽にしてくれる。

④柔軟性と割り切り

結局この試合は秋野のコーナーキックを叩き込んだ角田のヘディングで先制し、毎熊が敵陣で奪ったボールを左に展開してカウンターを発動した場面から大竹が技ありシュートを決めて勝点3を獲得した。

手倉森監督が就任から一貫して掲げている「柔軟性と割り切り」というキーワード。仙台で基礎を作り、アギーレ元日本代表監督と関わる中で磨いてきた考えで、“哲学”といっても良いかもしれない。

柔軟性とはつまり相手と戦況を見て最も有効な攻撃を選択する事で、言うは易しだが速攻も遅攻も仕込むのは一朝一夕では不可能だ。19シーズンから味わってきた産みの苦しみが、ようやく形になってきている…今節はそんな事を感じさせてくれる内容だった。

中央を固めてヴェルディのベクトルをサイドに誘導して攻撃力を弱め、縦パスには厳しく当たってチャンスの芽を摘む。良い場所でボールを奪えれば相手の陣形が整う前に速攻を仕掛ける。ボールを握れば後ろ4枚でプレスを交わして左右にボールを振りながら大外の推進力を活かす。2点リードした後はより強固なブロックを敷いて我慢強く守りながら、隙あらば3点目を目指す。

明らかに昨シーズンや今シーズン序盤より戦術的な幅が広がっており、派手さは無かったかもしれないが監督の理想を体現したという意味では「今季ベストゲーム」と言っても過言ではないと個人的には思う。復帰した米田は最後のピースとしてピタリとハマり、得点には絡まなかったが攻守に非常に効いていた。

⑤おわりに

徳島が千葉相手に足踏みした事で、40節終了時点でまだ昇格も優勝も何も決まっていないJ2。もう勝ち続けるしかない長崎にとって故障から復帰する選手が続々と出始めたのは好材料だが、チームとして満身創痍である事に変わりはない。

フィジカル的にもメンタル的にもタフさが求められる最終盤だが、長崎としては1勝もできなかった9月を乗り越えた経験がある。修羅場を潜り抜けてきたベテランもいる。泣いても笑ってもこのメンバーで試合をできるのは2試合だけ。どうしても他力が必要な状況ではあるが、悔いの残らない180分になる事を切に願う。人事を尽くして天命を待つ、まずは難敵甲府を乗り越えてもらいたい。

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