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吉田長崎考察

※この記事は吉田監督が解任された5月4日から書き始めましたが、忙しさにかまけてダラダラ執筆しました。所々表現がおかしい所ありますが、直すのがめんどくさいのでこのまま公開します。

※この記事は吉田監督を糾弾する目的ではなく、組織としての在り方に疑問を投げかける為に執筆しました。

----------------ここから本編------------------

4勝2分6敗 13得点20失点

0-1で敗れた水戸戦の後に解任が発表されたことで、吉田長崎はわずか12試合で幕引きとなった。昨年勝点80を獲得した主力選手のほぼ全員を慰留できたというアドバンテージがありながらスタートダッシュに失敗、リーグは中盤戦に突入しようかというタイミングだがチームが浮上する気配は見られず、解任はやむを得なかったように思う。

正直、ピッチ上で起きた出来事だけを書き残してもあまり意味は見いだせないと思うが、目線を少し広げると教訓にするべき事は多々あったのではないだろうか。松田浩新監督にバトンタッチする前に、軽く備忘録を残しておきたい。

①昇格するための守備力、残留するための攻撃力

少し調べたらイギリスのことわざという話だったが出典は不明だったこの言葉。昇格や優勝は守備の安定無くしてあり得ないという事だが、これはデータ的に見ても正しい。

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2013年以降に自動昇格したチームの得失点数を並べると一目瞭然、昇格するチームは守備が安定している。1試合平均失点が1を切るチームがほとんどで、複数失点の少なさやクリーンシート(無失点試合)の多さに現れるような守備の強さが必要不可欠になる。大量得点は出来なくとも、失点さえ減らせば上位争いは演じる事ができるのは昨シーズンの福岡が証明している。

では吉田長崎の成績はどうだったかというと、クラブワーストタイに並ぶ開幕12試合連続失点という不名誉な記録を達成、1試合平均失点は1.66と昇格を目指すには守備の成績があまりにも悪すぎた。この失点の多さは吉田長崎の致命傷となってしまった。

②寸足らずの毛布問題

サッカーは丈が足りない毛布のようなものだ。足元を温めようとすると頭が寒い、頭からかぶると足先が寒い」という言葉がある。これは元ブラジル代表のジジという選手の言葉だそうで、サッカーにおけるスペースの問題を的確に表している。

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サッカーという競技の難しさは「縦100m×横70mの広大なピッチを」「たったの11人で」「攻守の継ぎ目なく連続して」「45分×2回」行うという特異性にある。要するに11人でやるにはピッチが広すぎるし、攻守の継ぎ目がなく運動量を求めるには90分は長すぎるということだ。この無理難題に応えるには11人が連動する必要があるが、それでもカバーできるスペースは限定的で、せいぜい縦30m×横40m程度になる。

――吉田V・ファーレンの目指すスタイルは?
攻守にアグレッシブに主導権を握る。攻撃ではボールを保持しながら相手のアタッキングサードやペナルティボックスに侵入する回数を増やし、見ている人がワクワクするサッカーをしたい。昨季は守備時に構えることが多かったが、構える時間よりボールを奪いに行く時間を長くしたい。
(吉田孝行監督)

就任当初から吉田監督が強調していたのは前線から積極的にボールを奪いに行くアグレッシブな姿勢だった。失点を防ぐためにリトリート(撤退守備)を志向していた手倉森長崎とは打って変わって、前からプレスに行くことでボールを保持する時間も増えて攻撃回数も増える、というのが新体制発表会で明らかにされた吉田長崎の方向性だった。

開幕から数試合は吉田監督の哲学がある程度表現されていた。前から積極的に奪いに行く姿勢は20シーズンにはなかったが、代わりにピッチ上でのバランスも大きく崩していった。前から奪いに行くという事は寸足らずの毛布を足先に持っていくということだが、それでは頭が寒いので頭にも毛布をかぶりたい。結果として寸足らずの毛布は足先と頭に2分割され、これで温かいかと思いきや一番冷やしてはならないお腹を冷やしてしまった。

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つまり前から奪いに行きたい攻撃陣と、後ろに人数を揃えておきたい守備陣、中盤にぽっかり空いた穴という現象が多発したのである。割りを食う形になったボランチの秋野はポジショニングに苦心し続けた。攻守のバランスを崩した長崎は前から奪いに行っても奪いきれない、一度攻められればボランチの脇を簡単に使われて前進を許す、連動しない守備ではボールの奪いどころも設定できない…何をやっても上手くいかない状況に陥っていった。あまりに失点が嵩んだ反省からか、最後には3バックにして人海守備に頼った吉田長崎だが問題の本質はそこではなく、最後までピッチ上は連動性に欠けたままだった。

大枠だけ落とし込んで選手の自主性(=ピッチ上での判断)を尊重した手倉森監督と比較すると吉田監督はかなり細かい指導をしていたようで、その違いも選手の判断を遅くした要因と考えられる。これは選手のインタビューでも時折語られたことだった(これは高木監督→手倉森監督就任時も逆のプロセスながら同じ現象が起きたので吉田監督どうこうではない)

攻守に派手さはなくても局面ごとにバランスよく対応できるように設計された手倉森長崎、土台から積み上げるのに丸2年掛かったが最後にはなんとか形にはなった。バランスを取る代わりに自重したプレスだったが、そのプレスに取り組んだ瞬間全てのバランスを失って崩れてしまった吉田長崎。去年の、よく言えば我慢強い、悪く言えば消極的な(見る人が見ればつまらない)サッカーに「あとはプレスだけ足せば最強のチーム!」という算段だったのかは分からないが、残念ながら思い描いた形は実現できなかった。結局は寸足らずの毛布問題に正面から取り組まなければならないのである。足先に毛布を持っていくならそれなりの対策を、前からプレスに行くなら守備のラインを上げるのは必須だし、守備範囲の広いゴールキーパーが1stチョイスになる。

実は攻撃の数値を抽出するとそこまで悪い成績ではなかった吉田長崎。しかしゴール決定率が著しく低下しており、また守備の数値は軒並み悪化していた。「選手を継続、コーチも内部昇格だから継続路線!」というフロントの考えは、まさに机上の空論だったと言わざるを得ないだろう。

③フロントが負った不可解なハイリスク

昨季の主力がほとんどチームに残留したが、誤算だったのはコーチ陣の刷新。手倉森氏の後を追って優秀な人材がチームを去り、コロナ禍でJリーグ全体の動きが少なかったこともあってクラブは後任選びに苦心した。経験の浅いスタッフを重職に充てる形となっていたため、不振の理由を吉田氏だけに背負わせるわけにはいかない。

今年のJ2はオフシーズンが短く、長崎は最後までディビジョンが決まらなかった。つまり21シーズンへの準備は相当バダバタだったはずだ。

その中で監督を交代するという決断は、そもそも相当なハイリスクだった。去年はシーズン中に2度、手倉森監督交代を検討されたと言われており、昇格失敗で即解任は既定路線だったようだ。しかしこの準備期間の短さで新監督を招聘する難しさを考慮すれば手倉森監督続投という選択も当然再検討されるべきだっただろう。

結局、手倉森監督を「サッカーのところでメンバー選考だったり、試合に望むところの整合性が我々と取れなかったといのは事実ありました」(竹元テクニカルダイレクター)という何とも煮え切らない理由で解任、白羽の矢が立ったのは吉田孝行コーチだった。S級ライセンス(Jリーグで監督を務める為の免許)を保有した指導者をコーチとして雇うのは、チームが低空飛行した時のセーフティネット、つまり監督解任という緊急事態に対応する為の一手であり、吉田コーチの緊急登板というのは全く理解できないというわけではない。

しかし、これまでの吉田監督の実績や力量を考えれば相当難しいミッションではあったように思う。そもそも勝点80、後一歩で昇格を逃したチームはリーグ3位の得点力を有していたわけで、どちらかと言うと守備のバランスを整えて昇格を目指すべきだったが、吉田長崎がピッチ上で大きくバランスを崩してしまったのは前述の通りだ。

毎年の健康診断が大事なのは身体の何処が悪いかを明確にして、適切な処置を行えるからである。診断なき処置は、もう運を天に任せるようなものだ。今回の長崎が犯したミスはPDCAで言えばC(Check/評価)の部分であり健康診断の部分、チームの何処が悪くて昇格を逃したのか、その判断を誤ったがために適切な処置もできなかったといえる。その意味で、フロントは今回の失敗を受け止めて次に活かさないといけないだろう。

※外からでは分からないが手倉森監督が選手への求心力を失っていたなら今回の判断は支持されるべきかもしれない。ただ、昨シーズンの最終節の様子を見るにそんな事なかったような…

④長崎のアンタッチャブル

監督交代に際して長崎フロントがコメントを出す、というのは実は異例の事だった。過去高木琢也、手倉森誠を解任した時にはフロントのコメントはなく(高木監督の時は謝辞だけ載せられたが)、これまで監督交代の理由などはサポーターには共有されてこなかった。

スタジアム、練習場、アカデミー…クラブのハード面について、親会社であるジャパネットは積極的に投資をしてくれており、都度サポーターにワクワクするプレゼンテーションを提供してくれている。しかしソフト面、特に監督人事については基本的にダンマリなのである。さらに人事決定のプロセスも表には全く見えてこない(そういうクラブの方が多いのかもしれないが)

諸々のインタビューを読めばクラブの人事を最終決定しているのは髙田旭人氏である事が透けて見えてくる。親会社のトップが経営や人事に口を出すのは賛否両論あるだろうが、個人的にはそこまで違和感を感じているわけではない。一度消滅しかけた長崎を救ってくれた恩人であり、今の経営規模を考えればもはやジャパネットなしでは立ち行かない。将来のビジョン、地域への還元、どれをとってもここまでメインスポンサーに恵まれたクラブはないだろう。

しかし、あくまで髙田旭人氏は経営のプロであって、サッカーという競技に精通しているわけではない。一応、強化部長の役職は存在しているが、新体制発表会での歯切れの悪さを見れば、人事について全権を任されているわけではないのは明白だろう。結局、高木監督解任の理由も、手倉森監督解任の理由もついぞ明らかになる事はなかった。地元新聞に至っては解任理由について質問すらしない始末、何とも不思議である。

しかしPDCAを回すにあたって、今回の人事(吉田コーチの昇格)を決定した責任者が誰で、プロセスと結果をどう捉え、どのように今後に活かすのかという事は必ず議論されなければいけない。その議論の内容がサポーター向けに開示される必要はないが、フロント内では大いに反省が必要だろう。ジャパネットホールディングスにはV・ファーレン長崎というクラブの大枠の方向性を示す事は出来ても、ピッチ上の方針(プレーモデル)を描くノウハウは蓄積されていない。ただでさえ個人の正しい評価が難しいプロスポーツの世界で、プレーの方針が曖昧では余計に評価がブレる事になる。

個人的には旭人氏の右腕に競技のプロフェッショナルを置くべきだと思うが、果たして年商2,400億円の企業を率いる社長と対等に会話できる人材が日本サッカー界にいるのか…というのは分からない。

監督人事を失敗したから現場から手を引け、とは口が裂けても言えないし、個人的にも言う気はない。ただ、あまりにアンタッチャブルな存在になっていくのも考え物だな、とは思っている。

⑤おわりに

この5ヶ月は、これまで長崎が経験した事がない急降下だった。主力のほとんどを慰留し、戦力的には昨シーズンとほぼ変わらないはずなのにピッチ上の現象はまるで違う。20シーズン終わりの12試合と21シーズンの12試合を比較すると、平均勝点は2.1→1.1となった。

これまでの長崎の歴史を考えれば、少なくともJ昇格後は出来すぎなくらいの成績だった。2年に1度は昇格争いを演じ、1度はJ1にも昇格できた。しかしサッカーという複雑系において、常に上手くいくというのはあり得ないわけで、長崎も例外ではなかった。しかし今回の監督交代という出来事が全て無駄だったかと言えば当然そんな事はなくて、現場もフロントも経験値を蓄える事は出来た。後はこの経験値からどれだけ教訓を抽出して血肉にするか、まさにPDCAのA(Action/改善・修正)が最重要になる

長崎が真に価値のあるクラブになる為には、まだまだ乗り越えなくてはいけない壁が無限に用意されている。一つ一つハードルを乗り越える様を見られるんだから、サポーター冥利に尽きるなと思う今日この頃です。

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