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【レビュー】第1節 藤枝MYFC

前置きなしの時短レビュー。図解は少なめです。

①スタメン

長崎は下平監督が最も愛用する4-1-2-3を選択。新戦力は飯尾、田中の2名のみで大枠は既存戦力となったが、去年はあまり出番に恵まれなかった秋野・加藤・名倉・笠柳が先発したことで鮮度のある顔ぶれとなった。またGKは京都から期限付きで獲得した若原が濃厚かと思いきや原田が抜擢、2022年8月以来の出場となった。

藤枝は昨シーズン同様に3-4-2-1を選択。新戦力は内山と梶川の2名で、去年2種登録されて既にJ2デビューを果たしている浅倉も前評判通りスタメンに名前を連ねた。内山は22シーズンに期限付きで藤枝に在籍しており、こちらもほぼ既存戦力でベースが出来上がっているといっても差支えのない11人が選ばれた。

開幕戦ということもあり、お互いに手堅くいきたい意図があったように思う。

②非保持局面:ミドルブロックを敷く長崎vs位置的優位を活かす藤枝

長崎と藤枝、23シーズンはどちらも「攻撃力に強みあり、守備力に弱みあり」という点で似通っており、今年のテーマはいかに得点力を維持しながら安定感を高めるかという事になる。

長崎のシステムは4-1-2-3が基本になるため通常であれば秋野をアンカーに置く4-1-4-1が守備陣形になるが、下平長崎は名倉を1列前に上げる4-4-2を選択している。キャンプ前にU-18とトレーニングマッチを実施した際に、育成組織で密かに(?)信仰されていた松田式ゾーンディフェンスに感銘を受けた下平監督が導入したと言われている(大袈裟)ピッチの中央付近に凸型陣形を組みんで侵入してくる相手を迎撃するのが守備の大枠となるが、状況に応じてハイプレスも仕掛けたいという意向があるようだ。相手の立ち位置に惑わされることなく、ボールを起点にフィールドプレーヤー10人が連動してスライドするのが特徴になる。

4-1-4-1ではなく4-4-2で守る長崎

お互いにボールを保持して主導権を握りたいチーム同士だが、キックオフからペースを掴んだのは藤枝だった。藤枝のボール保持はGK内山をビルドアップに加える可変システムで、ディフェンスラインから押し出される形で中川創が1列上がるのが特徴になる。内山・川崎・鈴木に対して名倉・ファンマのプレスでは人数が足りず、また藤枝の3人は多少のプレスを物ともせずに顔を上げてプレー出来るため長崎は後手を踏むことになる。

1列上がる中川創への対応に苦心する笠柳

この可変システムで一番困るのは笠柳で、梶川と中川創に背中を取られるため1人で2人をケアする必要に迫られた。シャドーの位置に入る浅倉(中川風)もフォローに来るので多勢に無勢、藤枝はこの位置的優位を活かして序盤は右サイドから簡単に前進を繰り返した。ただしハーフタイムには長崎も修正して中川を笠柳、梶川を秋野が対応して蓋をすることで藤枝ビルドアップの出口を塞ぐことに成功した。

特に立ち上がりの25分は苦しい時間が続いた。もちろん開幕戦特有の緊張感、手堅く行きたいというマインドが選手選考からも感じ取れる中ではあったが、前半のうちに守備を修正できれば理想的だった。後半がそうであったようにSHの片割れを1列上げて藤枝の最後尾3人に同数を当てるやり方は正解の一つだったが、ピッチ上で対応するにはまだ連動性の面で不安があったかもしれない。

③保持局面:藤枝のマンマークハイプレスに苦戦

長崎のボール保持は4-1-2-3の立ち位置と取りながらGK、CB、アンカーの4人で相手プレスを剝がしていくのが基本形となる。安易にSBまでボールを回すと逃げ場がなくなってしまうため、後方でボールを循環させながら相手を左右にスライドさせて陣形をずらして前進できれば理想となる。

華麗な技術とは裏腹に根性のあるハイプレスを披露した藤枝

対する藤枝は3-2-5に近い陣形を取ったハイプレス志向だった。長崎アンカー(秋野)を藤枝CF(矢村)、長崎CB(田中・岡野)に藤枝シャドー(中川風・浅倉)、長崎SB(米田・飯尾)に藤枝WB(久富・榎本)をそれぞれマンマーク気味に当てることで長崎のビルドアップを阻害した。これに対して長崎は藤枝WBが上がった裏、3バックの脇に素早くボールを送ることで対抗を試みた。

このシンプルな守備戦術に前半の長崎はハマってしまう。特に右CBに入った岡野はトラップが足元に付かず、藤枝プレスに対して相当ナイーブになっていた。本来であればGK原田を経由して左右に循環させたいところだが、監督からセーフティに行くよう指示が出ていたのか簡単にボールを失う機会が目立った。またインテリオール(名倉・加藤)も前半はあまりフォローに降りてこなかったため、余計にビルドアップが上手くいかなかったようにも見えた。後半からは藤枝の圧力が弱まった影響もあったが長崎のビルドアップは落ち着きを取り戻し、GKを含めた循環やインテリオールのフォローも見られた。

相手のプレスを剝がしていくことが攻撃の第一歩になる下平長崎にとって、特に前半は今一歩の展開となった。基本的な止める・蹴るの技術を追求することもさることながら、全体のパススピードを上げていく必要もありそうだ(パススピードは上げろと言われて簡単に上げられる代物でもないわけだが)

④崩しのイメージは共有できたか

試合を通してシュート15本を放って何度か決定機を作ることが出来たが終わってみれば枠内シュート3本で無得点。ゴール期待値は1.37を記録したので理論上1点くらいは入っても良さそうだったが、藤枝ゴールを最後まで割ることは出来なかった。

下平長崎の攻撃は基本的にサイドを起点に崩すことになるが、藤枝戦は工夫のないクロスをGK内山にキャッチされる回数が多かった。ボックス内に規格外のフォワードがいることを考えれば単純なクロスでも脅威になるのは事実だが、もう少しポケット(ペナルティエリアの左右)に侵入する形を出したかったのではないだろうか。カットインする笠柳、縦に抜いていく松澤がそれぞれ何度か単騎でポケットに入っていく機会があったが、例えばインテリオールの名倉や加藤が3人目の動きで侵入するアイデアも今後出てくるだろう。

得点は水物なので入ったり入らなかったりするのが世の常だが、前監督が開幕前の準備期間を6週間に設定したせいで時間が足りなかったのか、攻撃局面が少し詰め切れていないの印象を受けた。昨シーズンの長崎を振り返れば守備局面の安定性とビルドアップの再現性が喫緊の課題だったことは明らかで、その成果はしっかり見ることが出来た。次節は最後の崩しのクオリティに期待したい。

⑤さいごに

監督が急遽飛ぶという前代未聞の事態が起きたものの、チームビルディングが上手くいっていることを感じることが出来た開幕戦となった。もちろん勝つに越したことはないが、攻撃面・守備面の数値は昨シーズン平均を軒並み上回っているのもポジティブな結果だ。

3月いっぱいは結果に一喜一憂することなく、課題と正しく向き合えているかを注視していきたい。

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