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V・ファーレン長崎2021シーズンレビュー

2021年も新型コロナウィルスの影響を大いに受けつつ、それでもかつて在った姿を一歩ずつ取り戻しながらJ2リーグは閉幕した。地獄の「降格4枠」という特例に大宮は最終節まで残留を決められないほど苦しみ、相模原・愛媛はレギュレーションの犠牲となった。草刈り場になった北九州が20位、そして松本がまさかの最下位でJ3降格…波乱に満ちた2021シーズンだったが昇格争いは順当に磐田・京都が制してJ1に帰っていった。

長崎も奮闘したものの結果は4位、今年もJ1昇格の目標は達成できなかった。本稿ではシーズンレビューと称して2021シーズンの長崎を振り返っていきたいが、去年のように毎試合レビューを書いたわけではないため、ややざっくりした内容になるのはご了承いただければ。

【追記】ざっくりしてる割に9,000文字もあるのでよほど暇な時に読む事をお勧めします。むしろ休憩しながら読んでください。

①データから見る2021シーズンの長崎

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2021/2020成績比較

2020シーズンは勝点80を獲得しながら3位に終わり昇格を逃した手倉森長崎。2021シーズンは勝点84を目指したが結果は勝点78、目標より6ポイント、昨シーズンより2ポイントマイナスとなった。2位京都は年間でわずか6敗、1位磐田にいたっては5敗しか喫しておらず、長崎の10敗は昇格を目指すには少し多すぎた。結果論だが松田監督が就任した段階で既に6敗しており、ゴールデンウィークの時点で昇格は相当難しい状況になっていた。

得点数は66→69に増加。逆転昇格のためには得失点差を少しでも詰める必要があり、やや攻撃に比重を置いた姿勢がシーズン最高得点に繋がったといえる。75得点の磐田に次いでリーグ2位の成績だった。個人で言えばエジガルジュニオが15点と攻撃を牽引したが、終盤にかけてブレイクした植中が10点と2桁得点が2人出たことも過去最高得点に繋がった

失点数は39→44で悪化。松田監督就任後は30試合24失点とリーグ屈指の堅固さを誇っただけに、吉田前監督時の12試合20失点はあまりにも脆すぎた。44失点はリーグ8位の成績、守備のクオリティは順位に直結するだけに年間通して見るとかなり物足りない数字となった。

②シーズン途中の監督交代

今シーズンの長崎で最大のトピックスといえば、Jリーグに昇格してからは初となるシーズン途中での監督交代だろう。

2020シーズンの昇格失敗の責任を取らせる形で手倉森監督を解任した長崎、後任に選ばれた吉田監督はコーチとして選手からの信頼が篤かったものの監督としての経験不足感は否めなかった。ギリギリで昇格失敗したにものの主力選手の大半を慰留、継続性という面ではライバルチームより大きなアドバンテージがあったはずだが、開幕前から懸念された通り吉田長崎は2020シーズンほど勝点を伸ばせなかった。11節のアウェイ水戸戦では相手の倍近くシュートを打って試合を支配したにもかかわらず0-1で敗戦、11位に沈んだことでフロントは吉田監督の解任を決断した。

白羽の矢がったのはアカデミーダイレクターを務めていた松田浩。連動したゾーンディフェンスを仕込む事に関しては国内で右に出るものはほぼおらず、守備を立て直す事に関してこの上ない人材がクラブに在籍していたのは不幸中の幸いだった

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2017〜2021年監督別1試合平均成績

平均勝点、平均得点、平均失点…どの指標で比較しても松田監督就任以降の30試合は過去最強で、昇格を達成した2017シーズンの高木長崎よりもかなり良い成績を残している。それだけに「最初から松田監督なら…」という声も聞こえて来るが、それは意味のない仮定だろう。

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2021年監督別1試合平均成績

昇格した磐田、京都と比較しても松田長崎の成績は遜色ない。最強の矛を持った鈴木磐田以上に点を取り、最強の盾を持った曺京都と同等の堅牢さを誇った(松田長崎は30試合なのでアンフェアな比較ではあるが…)

絶対昇格を期しながらシーズン途中で監督交代となったのは痛恨事だったが、少なくとも中盤~終盤にかけての戦いぶりは自信の持てる内容となった。

③戦術から見る2021シーズンの長崎

戦術的な振り返りはシーズン中に執筆した『吉田長崎考察』『2021シーズン松田長崎中間報告』に詳細を載せている。松田監督はことあるごとに「良い攻撃は良い守備から」と語っているが、まさにその言葉を体現するためのゾーンディフェンスを落とし込んでいる。

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プレスバックで数的優位を作る

詳細は割愛するが11人が正しい位置に立つことでボール保持者に対して常に数的優位で守る事を肝とするゾーンディフェンス、そしてボールを奪って相手の陣形が整わない間にカウンターでゴールを陥れるという一連が松田長崎の戦術的土台となった。

上に挙げた3ゴールは特に良い守備がゴールまで繋がっている、松田長崎らしい攻め筋だった。「堅守速攻」という言葉は少し古く聞こえるかもしれないが、普遍的だからこそ無くならないという側面もある。松田長崎は大枠で捉えれば堅守速攻ということになるが、シーズン終盤にかけてさらなる上積みを試みている。

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4-4-2→4-1-2-3の可変システム

一つ分かりやすく試していたのは4-4-2の基本システムから加藤大が1列降りてカイオセザールが1列上がって鍬先がアンカーに入る4-1-2-3の可変システム。中央をダブルボランチから逆三角形の3センターに増員することで中盤の優勢を高めようとする試みだった。本来であれば両ウィングが高い位置を取って相手のサイドバックを封じたい所だが、特にハットが自由に動くため完成度は今一つだった。それでも来シーズンに向けた布石としては面白い形だったし、カイオがゴール前で決定的な場面に絡むようになったのも可変システムの効用と言える。

④松田長崎の伸びしろ

Ⅰ 扉をこじ開ける

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システム別成績

一方で松田長崎が黒星を喫した相手は磐田、千葉、甲府、岡山の4チーム。磐田・千葉・甲府は5バックで守るときは割り切って陣形を引くという共通点があり、岡山には長崎同様にソリッドで規律の取れた4-4-2で守り切られた。

異様に5バックのチームを苦手としていた手倉森長崎と比較すると松田長崎からはそこまで苦手意識を感じない。それでも4敗のうち3敗が5バック相手となれば、堅く閉ざされた扉をこじ開けるための戦術が必要になる。例えば新里が退場したホーム新潟戦で見せた極端なハイプレス、加藤聖の左足から繰り出されるアーリークロスやセットプレーは解決策の一つになるかもしれない。選手補強、戦術深化の両面で解決する必要がある。

Ⅱ スタメン固定の弊害と恩恵

伸びしろという意味ではスタメンを固定する傾向にある松田監督において、選手層がやや薄かったとも言える。勝っているときはスタメンをほぼいじらない松田監督、これは高木監督も似たようなスタンスだった。さらに松田監督は「結果を出した選手は次節もスタメンに入る権利がある」と公言しており、水曜開催を含む連戦になっても負けなければメンバーを入れ替える事はほとんどない。

スタメンを変えれば勝てるというわけではないが、3連戦の3戦目に足が止まるという場面は目立った。アウェイ千葉戦、アウェイ町田戦は特に顕著だったが、代わりに出せる選手がいたのかといえば手駒は限られていたように思う。磐田、京都は夏の補強を効果的に使ったが、長崎は放出のみで獲得はしなかった。1人でも松田長崎のピースにハマる選手を持ってきていれば勝点が少し変わったかもしれない。

またホーム新潟戦で退場した新里の穴を埋めたのは二見だったが、新里が復帰してからも二見・江川の左利きCBコンビを起用し続けた。一般的に右CBは右利きが、左CBは左利きが務めた方が良いとされるが2人とも左利きというのは相当レアケースで、右サイドからの攻撃は停滞したように見えた。

松田監督が選手を起用する基準は分かりやすく、若手が大きく伸びた要因にもなっているので一概にスタメン固定が悪とは言えない。しかしワールドカップで過密日程になる事が予想される2022シーズンにおいて、選手層と柔軟な起用は今年以上に求められる

Ⅲ 途中出場した選手の仕事

9月頃にふと思った「松田監督になってから途中出場した選手の得点が減った」問題。シーズン終了してあらためて計算してみたら全56得点中、途中出場した選手が決めたのは8得点。割合で言うと14%だった。やっぱり手倉森監督の30%が異様だった気もするが、今年は交代選手の得点や試合終盤の得点が少なかったように思う。

特にその役割が期待される都倉はスタメンで出た時と途中出場した時の目立ち方に差があり、札幌在籍時に見せたような勝負強さは影を潜めていた。38節ヴェルディ戦、煮詰まった状態を都倉のヘディングが打破してくれたが、あのシチュエーションあの形でどれだけ点をとれるかというのは来年の順位に大きな影響を与えそう。スーパーサブ的なキャラクターを持つ選手を補強できるとなお良しだろう。

古今東西、昇格するチームは後半ATに劇的なゴールを決めるものだし、負けを引き分け、引き分けを勝ちに持っていける底力は必ず試される。松田監督が切れる手札は多いに越したことはない。

⑤成長と失敗を経験したフロント

前述した通り2021シーズンは激動の一年を過ごした長崎だが、半分はフロントの自作自演的というか、マッチポンプ的な部分があった。ここからはフロントの動向を振り返って行って、シーズンレビューの締めくくりとしたい。

そのために助けになるのは長崎新聞の記事で、今年は見ごたえのあるシーズンレビューやインタビューが掲載された。担当者が変わったのかな?と思うほど今までにないクオリティで、長崎が真にサッカーどころとなるためには非常に意義のある一歩になる。

Ⅰ ハイリスクだった手倉森監督解任と犠牲になった吉田監督

吉田新監督は選手としての実績は十分だが指導者としてはまだまだ歴が浅い。今季のボール保持も実質原崎コーチと吉田コーチが落とし込んだのならば、大枠の戦術は継続になるだろう。しかし、それであればなぜ手倉森監督を解任したのか、ただでさえ準備期間が少ない中でコーチの入れ替えを行う必要があったのか…現段階では正直リスキーな選択をしたなという印象の方が強い
2020シーズンレビューより

1年前に書き残したシーズンレビューで指摘した懸念は残念ながら現実のものとなってしまった。負傷者が続出する厳しい台所事情ながら何度かのモデルチェンジを経て、何とか勝点80を獲得したものの3位に終わった手倉森長崎。4位甲府が勝点65だったことを考えれば昇格プレーオフで最後の切符を勝ち取れた可能性は高かったが、コロナ禍の特例で昇格枠は上位2チームに限定される不運もあった。昇格に値するチームを作りながら解任の憂き目にあった手倉森監督、どうやら高い買い物だったルアンを十分に使わなかったことをフロントが気に入らなかったという話もある。

チャンスの年を逃してしまった発端を探ると、昨年12月18日の手倉森氏解任までさかのぼる。コロナ禍で年末までリーグ戦が組まれ、かつV長崎は最終盤まで昇格争いを繰り広げていたため、解任の判断がどうしても遅れた。舞台裏では、リストアップしていた外国人監督で話がまとまらず、後釜選びに苦心。一度は打診を断った吉田氏も、最後は首を縦に振る以外に道がなかったのが正直なところだ。
長崎新聞より引用

手倉森監督の解任は既定路線だったようで、ホーム最終節には恨み節ともとれる発言を残してチームを去った。どうやらリストアップしていた後任とも話がまとまらず、結局監督経験の浅い吉田コーチに押し付けるような形になった事を長崎新聞が伝えている。

J2屈指の人件費を投入して主力の大半を慰留しておきながら昇格失敗、表に現れる結果だけで判断すれば「吉田このやろう!お前が落とした勝点のせいで!」となるし、そういう声も聞こえてくる。実際にはフロントの見通しの甘さと判断ミスというより他になく、吉田前監督もある意味犠牲になったと言うべきだろう。神戸に続き長崎でも損な役回りを引き受けてしまった形になったが、選手からの人望が相当篤いことから考えても「めっちゃいい人」なんだろうということは想像できる。

漢気を見せてくれた吉田前監督の名誉のためにも、フロントは混乱の経緯を自分たちの口から発信する責任がある。それがせめてもの誠意だろうと、少なくとも自分はそう思う。

過去に何度か指摘しているが、長崎は監督交代に際して余りにも淡白すぎる節がある。現場責任者のクビをすげ替えるなら、それ相応の説明をサポーターにする必要がある。さもなくばフロントとサポーターのストーリーが繋がらず、無用な邪推が生まれてしまうのも自業自得だろう。

Ⅱ ブレる戦術的志向

長崎は本当にこれからのクラブ。「J1に上がれるかも」くらいまでは来たけれど、まだローカル感は否めない。もう一歩サッカーの質を高めればサポーターの目が肥えるし「長崎のサッカー面白いな、見に行こう」ってなる。質の部分を変えていけば見える世界が変わるし、未来につながる。すぐには無理でも、少しずつ土台を築いて「長崎はこれ」という形があれば、いい方向に行くんじゃないかな
玉田圭司 長崎新聞より引用

玉田の引退に際して長崎新聞に掲載されたインタビューは示唆に富んだものだった。特に上に引用した一文、裏を返せば「長崎はこれ」という形がないと指摘している部分は長崎が抱える問題を端的に突いている

V長崎は高木琢也監督が植え付けた「堅守速攻」を見直し、19年からの手倉森体制下で「ポゼッション」を掲げて再出発した。今季は攻撃的サッカーをさらに進化させるべく臨んだが、結果が出ずに再度「堅守」へ。つまりV長崎にはまだ確固たるチームスタイルがない。これを機に「V長崎スタイル」を改めて見つめ直し、多少のことでは揺るがないような基盤づくりがクラブにいま求められている
長崎新聞より引用

長崎新聞は「長崎スタイル」という言葉で表現したが、要するにピッチ上における志向がブレているという事になる。

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戦術的志向の変遷

長崎はJリーグに昇格してから4人の監督を経験したことになる。前からガンガンプレス+ショートカウンターで結果を出した高木長崎→J1では通用せずボール保持路線に切り替えた手倉森長崎→ボール保持に即時奪還を加えた吉田長崎→良い守備から良い攻撃を繰り出す松田長崎…極めてデフォルメして表現すれば上図のような変遷を経ている(あくまでイメージ)文字通り、右往左往と言えるだろう。

戦術的な志向が変わるという事は非常に影響が大きく、特に選手編成が大きく変わることになる。戦術的志向というのは例えば料理のジャンルのようなもので「和食でいきます」と宣言して醬油や味噌をそろえていたのに「やっぱり中華にしよう」と急に言われて「いや豆板醤とか用意してないですよ?」という事になる。共通で使えるメイン食材もあるけど味を決める調味料は代用が難しくて、結局使い道のない醤油や味噌は二束三文で売って豆板醤を買いなおす必要に迫られる。この調味料の入れ替えは2018年末に高木監督→手倉森監督に変わったときに一度発生して、そして今年の吉田(手倉森)監督→松田監督のタイミングでもう一度発生することになるだろう。

また育成組織に与える影響も大きい。大前提としてU-12、U-15、U-18、そしてトップチームと戦術的志向が地続きになっていることが好ましいが、トップチームの戦術的志向は監督や時々のトレンドによって変化しやすい。うちは「和食でいきます」と宣言して大規模な醤油工場を自前で作ったのに「やっぱり洋食にしよう」といわれても、すぐにオリーブオイル工場には建て替えられない。

今回のケースでは松田浩アカデミーダイレクターが内部昇格してトップチームの監督に就任したため、逆にアカデミーとトップチームの戦術的志向が合致した。結果オーライではあるが本来は順番が逆である。玉田圭司が残した言葉は重く捉える必要があるだろう。

Ⅲ 長崎スタイルを定義づけるのは誰か?

私自身はサッカーに関する部分はプロに任せて口を出さないと決めている。組織上も髙田旭人が強化部門トップのゼネラルマネジャー的なポジションを兼ねていて、テクニカルダイレクターと監督の意向をベースに最終的な決裁をするという位置付け
髙田春奈 長崎新聞より引用

おそらくサッカークラブの数だけ組織体系や意思決定のあり方は存在するはずで、正解はないのかもしれない。それでも実質的なオーナーである髙田旭人氏がゼネラルマネージャー(GM)的な役割に就いているというのは、少なくとも今年の混乱を招いた原因の一端だったように思う。そもそもクラブがジャパネットの子会社になってからは「誰がゼネラルマネージャーなのか?」を公言しておらず、長崎新聞のインタビューで初めて明かされた事になる(とはいえサポーターには分かり切った話では合ったが)

競技の素人である髙田春奈社長は「サッカーに関する部分はプロに任せて口を出さないと決めている」と答えているが、裏を返せば同じく素人である弟は口を出しているという事になる。当然、本職は大手通販会社のCEOでありクラブに割ける時間がそれほど多いとは思えず、実際には判子を押すだけの役割なのかもしれない。しかし2019年末に退団した長谷川悠の恨み節を見るに、納得感を得られていない選手がいるのも事実だろう。

一応、テクニカルダイレクター(強化部長)という役職を設けてはいたが新体制発表に出席した竹元氏の歯切れの悪さを見れば、その権限は限定的だったのであろう。高木監督解任以降の右往左往は、意思決定の仕組みと評価体制が機能していないことの証左と言える

玉田が言う「長崎は"これ"という形」、長崎新聞が言う「V長崎スタイル」、要するに長期的にどうありたいかというビジョンは誰が作るのか。まずやるべきなのは競技専門家のゼネラルマネージャーを設置することだろう。

こうした問題はクラブも把握し、すでに強化部門のてこ入れに着手。新たな要職の設置も視野にチーム編成の在り方を検討している
長崎新聞より引用
GMについては、本当にいい人がいれば置きたいと思っているが、誰でも置けばいいとは思っていない。適任の人が見つかるまでGMは置かない。新しいテクニカルダイレクターについては既に決まっていて、来月から加入する予定。発表は来月になる。
髙田春奈 長崎新聞より引用

GMの必要性を認識したことが今年のフロントの大成果であり、それでも「適任の人が見つかるまでGMは置かない」という姿勢は信頼できる。実質オーナーは日本で屈指の商売人であるだけに対等に話をできる人材を見つけるのは一筋縄ではいかないだろう。それでもクラブの末長い発展のために何とか折り合いをつけて欲しいところだ。

Ⅳ 九州の強豪になりつつある育成組織と新練習場問題

U-18チームは九州1位という過去最高の成績を収めてくれた。松田監督が今年までの3年間、アカデミーダイレクターとして築いてきたものが花開いたと感じている。プレミアリーグへの昇格戦は相手との力の差を痛感したが、これまで九州内で戦ってきたチームが外の世界を知った点で価値がある。
髙田春奈 長崎新聞より引用

もう一点触れるべきなのは育成組織について。長崎U-18は前橋育英に敗れて惜しくも来年のプレミアリーグ(育成年代最高峰リーグ)参入はならなかったが、九州プリンスリーグで初優勝。安部大晴、七牟禮蒼杜、大澤元栄、宮崎圭伸の4名が世代別代表候補に選出されるなど、チームでも個人でも大きく伸びている。戦術的志向が育成年代からトップチームまで一気通貫した今だからこそ、今後のトップ昇格にも期待が持てる。

育成年代が盛り上がるほど気になるのは、頓挫してしまった新練習拠点。もともとは天然芝のコートを4~5面確保するような計画だったが、いかんせん土地のない長崎。トップチームと育成年代が同じ環境で練習できるというのは相当な魅力だしプロのプレーを間近で見学できる機会は多いほうが良いに決まってる。ただでさえ西の果てにあるクラブ、少しでも練習拠点が充実していれば選手獲得にも有利に働くだろう。

大村案が立ち消えになってからパッタリ話がなくなったが、来年は進展があるだろうか。

Ⅴ それ以外の達成

YouTubeやSNS、ヴィヴィくんを通した広報活動は相当力を入れていた。まだまだクラブが長崎県に根付いているとは言えない現状、単純に知ってもらう活動は何より重要だろう。来年から新設される1500円のC席はとても良い打ち手だと思った。

エリートリーグの盛り上げ方、コンテンツ化は日本一だったかもしれない。準公式戦の扱いながらマッチデイスポンサーがついて、ゲストトーク、解説付きの生配信…全国のクラブにお手本にしてほしいくらい満足度が高かった。

⑥おわりに

長崎市の新スタジアムは2024年完成予定、その開幕をJ1で迎えるためのチャンスはあと2回しかない。できれば2022シーズンで昇格を決めて、2023年に残留してから迎えたいと長崎フロントは考えているだろう。

前述したとおり長崎の戦術的志向は再び大きな転換を迎えることになる。おそらく選手の入れ替えも10人以上は発生するはずだが、ここ数年なかったような"同カテゴリから主力の引き抜き"という事案も期待できる気がする。人件費は減額になると社長は明言しているが、それでもJ2では恵まれた方であることに変わりはない

2022シーズンはJ1から降格してくるチームが4つもあり、一般的には厳しい年になるという見方が強い。しかし逆に考えれば一年でJ1復帰を決めるのは簡単なことではなく、ほとんどのチームが即昇格に失敗している事を考えれば長崎にも十分チャンスはある。まずは松田監督の色に合う選手・コーチ陣の編成に期待したい。



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