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【大敗から学ぶ】第10節 徳島ヴォルティス【レビュー】

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1対6、これが何の数字か分かるだろうか?これは長崎と徳島の決定機の数。自滅により結果は大敗となったが、内容は惨敗と言って差し支えのないものになった。仮に開始1分で先制点を取られていなかったとしても、試合は相当難しいものになったはず。なんと長崎のコーナーキックは0回。コーナーキックの数で勝敗が決まるわけではないが、0回というのはあまりにも…アレである。

辛い試合だったけど、見直すと長崎というチームの現在地が分かる試合だった。大敗した原因、それは個人のミスだけではなく、戦術レベルで上回られていたことだった。以下、両チームの局面ごとの違いを中心に振り返ってみた。

スタメン

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長崎は前節からスタメンを2人変更、高木和と吉岡が先発入り。高木和は5節琉球戦で負傷交代して以来、4試合ぶりの出場となった。ヴェルディ戦で15分ほどの出場になったルアン、欠場したイバルボは温存かと思いきや普通にベンチ外。

対する徳島は山形戦と同じ11人をスタメンに選んだ。北九州戦での完敗を受けて山形戦から4バックに変更している。リーグ屈指の攻撃力を誇る徳島はここまで5勝1分3敗、ハマると大勝するチーム。ロドリゲス監督が就任して5年目、スペイン流の今時な戦術が浸透しており、今年こそ昇格を狙う集大成のシーズンになる。

教科書に載せたい徳島のボール保持

上位対決らしく緊張感のある入り、、、になるかと思いきや開始50秒でカイオが渡井に掻っさらわれて、抜け出した垣田に決められる。先制点を取られると厄介極まりないボール保持志向のチームに、早々にプレゼントしてしまった長崎。あまりに早すぎる失点は試合を難しくしてしまった。

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期せずして先制したことで、徳島はかなり余裕で試合を運ぶことができる。山形戦から復帰した上福元を含めて6人でビルドアップをできる徳島に対して、長崎はこの日の前半も2トッププレスで挑む。まさに多勢に無勢、ファーストプレスが何の規制にもならないことで長崎はボールの取どころを設定することができない。サイドハーフ(吉岡or澤田)がプレスに加わる事もあるが、それでも圧倒的に数的不利であることは変わらない。サイドバックの縦スライドが間に合わず浮いたウィングバックに通されるか、懐が深くボールの収まる垣田に万全のタイミングでボールを当てる、急ぐ必要のない徳島は常に確実性の高い攻めを続ける。

相手のビルドアップを規制できずに好き放題やられる、なんかデジャブだなと思うのもそのはず、つい先週もヴェルディに全く同じ方法でやられまくった長崎。3バックビルドアップに対して2トップでプレスを掛け、簡単に交わされて前進を許す、そしてなぜか後半になるとサイドハーフが前に出てプレスに加わるようになる。あえて前半から圧力を掛けないのは体力温存的な意味なのか、真意は図りかねるが正直よく分からない。

教科書に載せたい徳島のプレス

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「長崎くん、前からのプレスはこうやるんだよ」と教えてくれるように、徳島くんは見事な連動で長崎のビルドアップを封殺する。高木和が復帰したことで後ろからショートパスを繋ぐ組み立てを重視した長崎は、いつも通り秋野が1列下がって3バック化して前進を図る。徳島は2トップがボールホルダーを規制してビルドアップをサイド(主にフレイレ)に誘導→フレイレ視点では毎熊、吉岡、カイオへのパスコースが見えているが全員にマンマークが付いている→誰に出しても激しいプレスで奪われるorロングボールを出させてヘディングで競る、という再現性のあるプレスを披露。

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さらに飲水タイム明けにはおそらく監督の指示だろう、徳島はサイドハーフの立ち位置をさらに1列上げて3-4-3のような陣形でプレスを掛ける。3バックに対して3トップの数的同数プレスでサイドに誘導、パスの受け手にマンマーク、長崎2トップには数的優位を保って守る。徳島の完璧な立ち位置を前に長崎はプレス回避の手段を見つけられない、前述の通りこちらのプレスはハマらずボールの取りどころを設定できない、点差以上に疲弊していくことになる。

最終ラインから中盤に入れた縦パスのうち、実に9本がミスになって徳島に渡った。このパスミスも試合を難しいものにした。徳島のファーストディフェンスを突破する再現性があれば、多少は長崎の試合にできたのかもしれない。

――攻撃面については?
良いときってディフェンスラインにボランチがうまく関わりながら、相手の陣地に持っていけるシーンが多かった。今日に関しては自陣から縦パスを多く入れ過ぎて、相手に奪われて簡単に失うことが多かった。さっきみんなで話したが、もっと落ち着いて後ろでしっかりビルドアップしてハーフウェーラインを越えていければなんの問題もなかった。
(亀川諒史)

名倉を活かせない長崎のボール保持

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どうにかこうにかプレスを掻い潜れば長崎もそれなりにボールを握れる。それでもカイオは常に警戒されて自由にボールを持てる時間は少なく、縦パスを潰す意識が強い徳島を前になかなかシュートまで持っていけない。

この試合もボール保持時は3-1-5-1のようなシステムに可変、名倉は左右に流れたりボールを受けに降りたりフリーマン化する。このシステムは玉田出場時に似た立ち位置になるが、あまりシュートを打ててるイメージがなく正直良い印象がない。ともするとバイタルエリアで渋滞して自分たちでパスコースを潰すことになるくらいなら、ダブルボランチ化して3-2-5化した方がビルドアップも安定してよっぽど良い気がする。

結局前半は可能性のないシュート2本に抑えられ、攻撃もプレスも機能不全のままハーフタイムを迎える。

出鼻をくじかれた後半立ち上がり

長崎はハーフタイムに1人交代、吉岡を下げて大竹を投入。後半開始直後から大竹が高い位置を取りプレスを開始、「前から行くぞ!」という姿勢を見せる。が、後半50分に徳島のフリーキックを高木和がキャッチミスして失点。さらにその6分後にはカイオ、二見の致命的なミスから渡井のロングカウンターを喰らい失点。前半も含めてミスから3失点、試合は完全に壊れてしまった。

結果だけを見れば「高木和のミスがなければ…」「やっぱり徳重だったら…」という事になるかもしれない。しかし、より重要なのは2失点目に繋がったフリーキックを与えた場面だったと個人的には思っている。

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後半立ち上がりから腰を上げて圧力を掛けるぞ、という意気込みから大竹も加わって3トップ気味にプレスを掛ける。思惑通り徳島のビルドアップをサイドに誘導し、田向から渡井に出た縦パス、チームとしてはここがようやくできたボールの取どころになるはずだった。しかしマークについたカイオは驚くほど軽い対応で渡井は難なくターン、視界を確保して杉森にパスを出した。垣田の裏抜けが怖くてラインを上げられない4バックと最前線の間延びは大きく、西谷にドリブルするスペースを与えて結局澤田が倒してフリーキックを取られることになる。

カイオセザールという選手は非常に分かりやすい。DAZNで観ていても好調・不調がハッキリと分かる。この日のカイオは明らかに後者で、圧倒された前半にフラストレーションを溜めていたもの分かるし、走らされた分脚に力が入らなかったかもしれない。1失点目も彼が起点になったが、立ち上がりの失点は事故のようなもので、こちらが得をすることもあれば損をすることもある。2失点目は直接的には高木和のミスだが、フリーキックを与える原因になった渡井への軽い対応も見逃せるものではなかった。この時点でカイオを交代していたら3失点目は防げた可能性もあるが、これはたらればなので意味のない仮定になる。

76分、秋野のスルーパスを大竹が素晴らしいトラップからシュート、唐突なゴラッソで1点を返すが後の祭りだった。畑、米田らを投入して前からの圧力を掛けてボールを握り返したようにも見えるが、3点取った徳島が店じまいしたとも言える。反撃は1点に留まりタイムアップ、長崎の無敗記録は9戦まで伸びたが、この惨敗で止まることになった。徳島はほとんどの時間で長崎をコントロール下に置いた会心の勝利となった。

炙り出しになった長崎の課題

徳島は強かった。ボールを握っても、プレスを掛けても強い。ボールが収まる垣田、ドリブルで運べる渡井、西谷、杉森。チームの心臓といえる岩尾、ビルドアップに参加してチームに数的優位をもたらす上福元。反則外国人こそいないもののタレント揃いであり、そのタレントが活きるチーム作りになっていた。変な取りこぼしがなければ昇格候補の最右翼である。

一方、長崎はヴェルディ戦の課題をそのまま残した。つまりボール保持を志向するチームへの弱さを再び露呈した形になった。3バックでビルドアップをする、選手の配置で得られる優位性を活かす、ヴェルディと徳島の特徴は大きく分類すれば似ておりJ2では特異な部類になる。攻撃に高さ、速さがある分、徳島の方が強力ではあったが、それにしてもデジャブのような試合を展開してしまった。この2戦は長崎の立ち位置と課題を炙り出すことになった。

①ボールを握った時の攻め方整理
幅を使うのか、ライン間を使うのか。フリーマンの活かし方。京都戦まで見せていた攻撃のスムーズさを取り戻す必要がある。イバルボ不在では形にならないなら、昇格戦線に残るのは難しくなる。

②前線から連動したプレス
手倉森監督がどれだけ重要性を感じているか分からないが、今のところ一番の問題点。たまたまヴェルディ・徳島と続いたので余計に感じさせられたが、プレスのハマらなさは致命傷になりかねない。

③縦に早いショートカウンター
序盤戦レビューでも指摘した通り。徳島のショートカウンターが速かったのはボールを独力で持ち運べる選手の存在が大きかった。やっぱり氣田に期待したい。

冒頭、徳島戦のコーナーキック0回というデータを紹介した。さすがに珍事すぎるのでは?もしかしてJ参入後初なのでは?と思って過去のデータを掘り起こしたら思ったより早めに見つかった。

なんと去年のホーム徳島戦でもコーナーキック0回、なんならスタッツを見る限り今節よりひどい内容だったらしい(全然覚えてない)もしかしたら手倉森監督はそもそも徳島みたいなチームが苦手なのかもしれない。昇格のためには得意を伸ばすのも大事だが、並行して苦手を潰す必要がある。次の徳島戦は9/30、2か月には再戦の機会が巡ってくる。プレスの掛け方を教えてくれた徳島くんにきっちりリベンジできるよう期待したい。とりあえずルアン先輩とイバルボ先輩に言いつけてボコボコにしてもらおう(腹いせ)

おわりに

2003年のアーセナルでもなければ負けずにリーグを終えるなど不可能なわけで、連勝も無敗もいつかは終わる。初黒星の次の試合、群馬戦はかなり重要になる。群馬は現在最下位、しかも中2日で九州まで遠征に来るという過酷な日程。一見大きなアドバンテージがあるように見えるが、油断大敵。「勝たなくてはならない」という思いに捕らわれすぎれば、足元をすくわれる可能性は十分にある。願わくば早目に先制して精神的な余裕を持ちたいところ…

――攻守にやりづらさがあったと思うが?
今季初めて、あんなに早い時間に失点して出はなをくじかれたなという印象。3失点とも自分たちのミス絡みで、相手に点を与えてしまった。修正部分に関してはそんなに難しくないのかなと感じている。(中略)今日は自分たちで立ち位置を崩してしまった。そういうところで相手に簡単にボールを与えてしまうというのが、流れを持っていかれてしまった要因だったかなと思っている。
(亀川諒史)

修正は難しくない、亀川の言葉を信じて水曜を迎えるべし。


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