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第24節 ヴァンフォーレ甲府戦【雑感】

よりによって苦手のアウェイ甲府戦が初陣となってしまったカリーレ監督だが、何とか最少得点差で逃げ切り貴重な勝点3を獲得した。長崎に来てチームに合流したのが6月27日(月)でほとんど準備期間はなかったが、ピッチの上では少しだけカリーレ色を感じる事が出来た。その変化が喜びをもたらす吉兆なのか、それとも失望を呼び入れる凶兆なのか…今はまだ何も判断できないけど、一応起きていた現象だけは羅列をしておきたい。

①スタメン

スタメン

監督が代わるという事で注目されたスタメンだが顔ぶれが大きく変わることはなく、前節から奥井と植中が外れて江川とクリスティアーノが名前を連ねた。江川は群馬戦で貰ったレッドカードからの復帰であり、メンバーの入れ替わりは実質クリスティアーノ1人のみとなった。

フォーメーションは奥田をトップ下に置く4-2-3-1となり、松田長崎と比べるとクリスティアーノと澤田の左右が逆になっていた。その真意は図りかねるが、カットインして右足から放たれるクリス砲に期待しての事だったのかもしれない(もっともクリスティアーノは実質両利きのようなものだから右に置いてもカットインはするのだが)

対する甲府は第23節が終了した時点で7勝9分7敗の勝点30で13位、2021シーズンが3位だったことを考えると苦しいシーズンとなっている。第12節の東京ヴェルディ戦で2得点してから複数得点を挙げられておらず、5試合連続引き分けを挟むなど勝ち切れない試合の積み重ねが今の順位に直結しているようだ。

前節はアウェイで山口と対戦して後半ATに劇的逆転弾を喰らう形で黒星を喫しており、何としても長崎戦は勝ちたい試合となる。前節から関口と林田が抜けて石川と小林がスタメンとなった。警戒するべき選手はシャドーに入る長谷川元希、パンチ力のあるシュートでここまで6得点を挙げており、そろそろJ1から声が掛かっても不思議ではない。

②奪いきるプレスは諸刃の剣

試合はお互いにテンションの高い立ち上がりとなる。澤田が早々に迎えた決定機を決め切る事が出来ず、逆に3分には被決定機を作られる。

背中を取られ続ける長崎

松田式から解放されたことで再び守備に最低限の体力しか使わなくなったクリスティアーノ、早速ボールが入れ替わる局面で正しい位置取りをせず荒木にフリーでボールを持たれる。慌てて米田が圧力を掛けるも甲府側の立ち位置が良く石川→鳥海→三平とダイレクトパスを繋がれる。間一髪で二見がカバーに入って事なきを得たが米田、江川の背中を次々に取られてピンチを迎えた。

カリーレ監督に代わって最も分かりやすく変化したのはボールに対するアプローチのように見えた。松田式ではボールの位置に合わせてゾーンディフェンスを展開し、ボール保持者の足を止めてカバーに来た味方と囲んで奪いきる形が狙いだった。しかしカリーレ式ではとにかくボールにアタックする事を求められているようで、周りに味方がいようがいまいがボール保持者の足元にチャレンジしていく。そういえばルアンも守備では同じようなタックルをしていたし、これはブラジル流なのかもしれない。複数人数で囲んで蛸殴りにする松田式、タイマンで一撃必殺の右ストレートをかますカリーレ式、どちらにもメリット・デメリットがあるが長崎の先制点は江川がボールにチャレンジした所から始まった。

長崎の立ち位置やプレスの強度が想定と違ったためか、甲府は立ち上がりからしばらく受けに回った。その時間帯に先制点を取れたのは長崎にとって幸運な事だったが、甲府は次第に落ち着きを取り戻す。

次は鍬先の背中を取られる

先制するところまでは良かった長崎だが、この日はらしくない形で裏を取られ続ける。15:50の場面でも混戦にチャレンジした鍬先の背中を取られ、二見の守備も一歩間に合わず危うくリラに独走を許すところだったが江川がギリギリのところで並走してシュートミスを誘発した。

キリがないのでこれ以上は止めておくが、とにかく甲府戦はボールに喰いついて背中を取られる場面が多かった。確かに開始10分はボールにチャレンジするアグレッシブな展開で見る人によっては楽しかったかもしれないが、個人的にはリスクとリターンのバランスが非常に気になる所だった。完全に抜け出されなかったのは江川、二見、村松がギリギリのところでカバーできた個人戦術によるところが大きかった。

③カリーレから漂うポジショナルの予感

4-4-2⇒4-1-2-3可変システム

カリーレ長崎のデフォルトシステムは何か、といえばとりあえずはトップ下を置く4-2-3-1という事で良さそうだ。ボール非保持の時には奥田がエジガルと並んで4-4-2、もしくは相手のアンカーをマークする4-4-1-1になっていた。しかしボールを保持した時にはその形を変えており、図のように鍬先がアンカーに入る4-1-2-3の形を取っていた。例えば東京ヴェルディは両ウィングが大きく幅を取って相手SBを釘付けにする手法を取っているが、カリーレ式の場合はクリスティアーノも澤田も内側レーンに移動しており、大外レーンはサイドバックが上がる花道として開けていた。

江川のボールを運ぶドリブル

システム以外だと前半4分に江川が見せたボールを運ぶドリブルも松田式からの大きな変化だった。江川が5mだけボールを前進させることで左サイドハーフの鳥海が若干喰いつき、その背中にはスペースが出来ていた。この場面ではそのスペースは使えず米田→クリスティアーノと繋いでイチかバチか放り込みで終了となったが、もしあのスペースを感じて奥田や加藤大が入ってこれたなら…展開はがらりと変わったかもしれない。松田式でもセンターバックがボールを運ぶことを禁止していたわけではないが、その回数は少なかった。

4-1-2-3に可変して各レーンに選手を配置する5レーンも、センターバックがボールを持ちあがるドリブルも、どちらもポジショナルプレー※という概念を実現するための具体的な戦術として語られる。松田式でもハーフレーン(ポケット)を取ったりはしていたが、どちらかといえばボール非保持に強みのあるパッケージだった。

※ポジショナルプレーとは元々チェスで使われていた用語で「ポジションの優位性から戦術が生まれる」という概念。"ショートカウンター"とか"オーバーラップ"みたいな具体的な戦術ではなくあくまで〈概念〉なのでとても理解が難しい。かくいう私も全く理解していない。5レーンや運ぶドリブル(コンドゥクシオン)の何が良いのか詳細を知りたい方は先人たちの分かりやすい説明を探して読もう。

ちなみに松田長崎で10節頃から導入された左肩上がりの可変システムは採用されていないように見えた。と言ってもかなりの時間でボールを握られる中で、自分たちの形はほとんど見せることが出来なかった。カリーレ監督がどのような志向でボールを前進させるのかというのは次節以降のお楽しみになりそうだ。

④オーガナイズされていた甲府とカリーレの応急処置

甲府と言えば伝統的に3-4-2-1で守りが堅い印象だが、1トップの屈強外国人にロングボールを当てるいわゆる"ソリボール"ではない。2021シーズンは新井や山本を偽センターバックに見立てて小難しい可変システムを導入するなど、ボール保持に意欲的なところが特徴だ。

須貝が大外レーンを上がっていく

吉田達磨監督に代わっても可変システムは健在だったが、今はもう少しオーソドックスに右センターバック須貝を1列上げる右肩上がりの方法を採っていた。右ウィングバックの荒木が1つ内側のレーンに入ってボールを前進させていく。リラ、鳥海、長谷川は3人の関係性でフィニッシュワークを遂行する意思が強く、縦パスをフリック(軽くはたく)してシュートを打つ場面が多かった。

須貝が中に絞れば荒木へのパスコースが出来る

また時には須貝が偽サイドバックよろしくボランチの位置に絞る形も見せた。25分の場面ではまんまとクリスティアーノが釣りだされ荒木へのパスコースが開通、喰いついた米田の背中を鳥海が、江川の背中をリラが取って被決定機を作られた(ちなみにこの場面でも喰いつきすぎて背中を取られている…)

どのスペース(誰の背中)を使うのかチームで共有されているのが分かる

長崎が喰いつきすぎたのか、それとも甲府の狙いが良すぎたのか、後半に入っても長崎は守備のペースを掴めない。前線のエジガル、奥田、クリスティアーノがジョグしているのを横目にピッチを広く使われ、49分の場面ではバイタルに近いエリアでぽっかり空けたスペースに侵入されて三度被決定機を作られる。

甲府の5レーン

ものすごく簡略化すれば甲府の攻めは上図のようになる。言ってしまえば2020シーズンの手倉森長崎と似たような(そして世界的にも流行っている)3+1のビルドアップ、大外で持って陣形を広げる、空いたライン間を使うという手法だった。後半に入っていよいよ長崎の前線がボールを追えなくなると甲府はやりたい放題、中→外→中→外とテンポよくボールを繋いで長崎の守備を後手に回してシュートの雨を降らせた。

甲府のマンマーク

ボールを握る時間が欲しい長崎だったが富澤から始まるビルドアップはどこもマンマークの通行止め、イージーなボールを蹴らされて浦上に跳ね返されてダブルボランチに回収されるという無限ループ状態に陥った。

4-1-4-1に変更してスペースを潰す長崎

就任して僅か一週間のカリーレが持っていた手札は少なかったはずだが、58分にカイオを投入して鍬先をアンカーに置く4-1-4-1のブロックに変更した。ついでに走れなくなったクリスティアーノを下げてイバルボも投入。狙いは一目瞭然で、無理にボール保持者を追うのを止めてボールの受け手を潰すためにスペースを消してきた。それでも機能的で積極的な甲府の攻撃に手を焼き、4度目の被決定機を迎えたが何とか無失点で切り抜ける。甲府は大学生の三浦を左ウィングに投入したが、これが誤算だったようで一方的だった勢いが止まってしまう。

甲府が攻め疲れしたとみるやカリーレ監督は疲労困憊の加藤大を下げて植中を投入、再び4-4-2の陣形に戻して植中と澤田に最後まで圧力を掛けさせた。監督の采配が奏功して(というにはあまりにシュートを打たれたが)リードを守り切り、長崎はついにアウェイ甲府の地で初めて勝点3を奪う事に成功した。

⑤おわりに

カリーレ監督の理想を100とすれば、甲府戦の出来は10にも満たないだろう。それでも勝てたこと、そして少ない手札の中で効果的な一手を打てたことは評価するべきだと思う。ただあの強くボールホルダーに寄せて背中を取られ続ける光景、相手のプレスを前になすすべなくボールを手放す光景を見て監督がどう感じただろう。もしかしたら「やっぱりジョー(みたいなやつ)が必要だな」と思ったかもしれない。

次はホームで山形戦。またしてもボール保持が大好きなチームを相手にすることになる。準備期間はほとんどないが、甲府戦より前進した内容を期待したい。

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