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5,あなたの愛は激しすぎて、私を壊してしまう:クワガタから学ぶ人生

前回までで、僕の「森の上の方」の環境には「ノコギリ クワお」「ビバお」「ビバ子」「ビバ美」「コクワ コクワお」が「カラフルゼリー」を食べて、すべてを受け入れて暮らしている。

絶世の美女「ビバ子」

コクワの「コクワお」には申し訳ないが、ノコギリクワガタ達は、男女同数にそろえてある。

野生育ちの「クワお」、ホームセンター育ちの「ビバお」がオスで、
ホームセンター箱入り娘の「ビバ子」「ビバ美」がメスである。

ビバ子はビバ美よりも、一回り大きい。
ふっくら系、ぽっちゃり系である。

同じホームセンターで買ったので、ビバおと、ビバ子、ビバ美は幼馴染の可能性がある。
クワおは、ちょっと不利かもしれない。

体躯から言っても、クワおの分は悪い。

こうなると、おそらく、ビバおが好きな方を選び、クワおがもうひとりのメスを選ぶのだろう。
そんなことを想像していた。

だが、実際は違った。

どちらも「ビバ子」を求めたのだった。

傷つけずには愛せない

はじめは、「おお、そうかそうか。ヒバ子が人気か」くらいにしか思っていなかったし、「うーむ、ビバ子、すごいじゃないか」とビバ子もまんざらでもないだろう的な思いを持っていた。

やっぱり、自然界では大きい体躯が好まれるのか。

「ビバ美もがんばれ!」というような軽い気持ちだった。

だが、様子を見ているうちに、「これはマズいぞ。常軌を逸している」と思うようになっていった。

ビバおはビバ子を常に欲し、追いかけ続ける。
クワおはビバおの隙を見て、ビバ子を襲う。

それが常に繰り返される。

日を置いてではない、数分おきにだ。

しかも、ビバ子が応じなければ、彼らは怒り、ビバ子を挟んで、ひっくり返そうとする。

まさに「傷つけずには愛せない」「不器用な愛」といったところであろうか。

これほど激しく、直接的な愛の表現があっただろうか?
加減が全然分かっていない。
優しさのかけらもない。

「自分、不器用なもので、こういう愛し方しかできないんです。」とでも、いうつもりなのだろうか?

とにかく、このままでは、彼らの愛を受け止めきれず、ビバ子が壊れてしまう。
愛が激しすぎ、強すぎるのだ。

「いいのよ、ビバ美」

一方、ビバ美は(なぜかコクワおも)、ずっと、木の穴に隠れている。

「いいのよ、ビバ美」

そう、まるで「ビバ美」を守るかのように、ビバ子は彼らの愛を一人で受け止め続けた。

時には、ビバ子も、木の穴に隠れた。

だが、囲まれるプレッシャーに耐えられぬのか、ビバ美から引き離すためか、果敢にも、ビバ子は穴から出るのだ。

こうなると、もう涙で前が見えない。

木の穴から出る「ビバ子」の背中。
その背中に呼びかける「ビバ子姉さん!無理しないで!」というビバ美の声。
「ビバ子さーん」というコクワおの声。

何か、僕らにできることはないだろうか?
そんな焦燥にかられ、僕と妻も協力することにした。

本来は彼らのやることに手を加えてはいけない気がする。
だが、このままでは見ている方もつらすぎるではないか。

というより、毎回、虫の性行為を見せられるこっちもいい気分はしない。
何か、こっちが悪趣味なことをしているような気もしてきた。

このままでは色々いけない。

ビバ子のために、ビバおと、クワおを引き離す。
なぜか、妻はその時、さらにビバおに、お仕置きの指の一撃を加える。

ビバおやクワおは不満そうだが、少しは我慢しなさい。
ビバおに至っては、威嚇してきたりもするが、当然の報いである。

だが、これができるのは、僕らが起きている時だけである。
どちらかといえば、彼らは僕らが寝ている時の方が本番だ。

2日ほど経ち、「このままでは、ビバ子はもたない」と思った僕は、ビバ子を集中治療室に入れることにした。

ビバ子、集中治療室に入る

「心と体をゆっくりと癒やして欲しい」
そんな思いから、僕らはビバ子のために、楽園を作った。

特製の専用の虫かご(ダンボール)に、専用の木、専用のゼリーを用意した。

ここで心ゆくまで、ゆっくりして欲しい。

集中治療室のビバ子は、緊張から解き放たれ、安心して眠っているように見えた。

ビバ子、逝く

集中治療室に入り、何日か経つ頃、ビバ子の動きが鈍くなってきた。

おかしい、最高の環境のはずだ。
専用の部屋、専用の木、専用のゼリー。

そして、早めに助けたはずだ。

だが、明らかに弱っていた。

一週間ほど後、ビバ子は静かに旅立った。

ついに犠牲者が出てしまった。
この王国で初である。

まさか、愛が原因で犠牲者が出るとは思わなかった。

僕は後悔と悔恨の情でいっぱいになった。

ビバ美の逆襲

責めるような眼で虫かごを振り返ってみると、何事もなかったかのように、ビバおもクワおも過ごしている。

まさに人でなしである。
正直、もう飼うのはやめようとまで怒っていたが、飼育放棄もいけない。
最後まで面倒はみよう。

だが、今、心配なのは、ビバ美である。
ビバ子なき今、次に、ターゲットになるのはビバ美だろう。

僕はビバ美のために、集中治療室はそのままにしておいた。
少しでもビバ美が激しい愛にさらされた場合、すぐに避難させるつもりだ。

だが、ビバ美は、ビバ子とは違った。

「ビバ子姉さん、見てて!」
「今までのようには行かないわよ!」
とでも言っているかのように、たくみに彼らの求愛をかわした。

彼らに発見されたことを察知したら、さっと逃げる。
木の穴に入る。
木の下に入る。

クワおとビバおに挟み撃ちにされても、途中でスルッと逃げ、クワおとビバおを鉢合わせさせ、喧嘩をさせる。
まさに孔明の罠である。

ただ、ビバ美は、ビバ子とは魅力が違うのか、あまり頻繁には求愛を受けなかった。

だが、時々、ビバ美が捕まりそうになったりすることもある。
すると、コクワおが一撃を加え、助け出すこともあった(一回だけだけど)。
コクワおはオスなのに、そっち側なのか?とも思ったが、美しい光景である。

コクワおも勘違いされて、交尾されそうになり、コクワおも覚悟を決めたようで、僕らも焦ったのだが、「あれ、違うな」と思われたのか、ここは未然に防がれた。

ビバ美も逝く

激しい愛をたくみにかわし続けたビバ美だったが、疲れてしまったのか、単なる寿命なのかは分からないが、急に動きが鈍くなり、数日以内に死んでしまった。

しばらく5名でやってきた、この王国だったが、続けざまに2名失ってしまった。

残ったのは、オスだけ3名である。

(続く)





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