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人生最大のアハ体験

前回、内側を磨いたステンレスタンブラー、通称“試作品第1号”を、行きつけのバーに持って行った話をしました。

容器の内部を職人の手作業で鏡面研磨

飲み比べした水割りで何がおこってるのか?

このタンブラーで作ったウイスキーの水割りをマスターと二人で飲み比べたのですが、味わいは明らかに違う。試作品第1号の水割りは、普通のガラスのタンブラーで作ったものより格段にクリアな飲み口になっている。

一体、なにが起きているのか。これを解明しなくては。

マスターと捻り出したのは、ステアしたことで、タンブラーの中で液体に運動が生まれた。この運動に何か意味があるのでは?という仮説です。
つまり、液体が容器内側の壁面にあたることで、なにかしらの変化が生じているのでは?細かい理論はさておき、そんな仮説を立ててみました。
 
そんな話をしている目の前にあったのが、カクテルシェーカー。

バーには液体をシェイクするための専用のツール=シェーカーがあります。
「液体の運動量」によって変化が増大するのであれば、タンブラーよりもシェーカーの方が効果が高まるだろうということで、次回のテストではシェーカーで試してみようということに。

さっそく量販店に出かけて普通のシェーカーをふたつ購入。ひとつは購入したまま手をつけず、もう一つをタンブラーと同様その内側を職人に磨いてもらいました。

試作品のカクテルシェーカーで飲み比べ

磨き上がったシェーカーを持ってバーに出向き、再び飲み比べを行います。
 
まず、何で試すのか。

シェーカーの飲み比べでは、水で試すことにしました。
もし水で味わいが変化するなら他の全てのドリンクでも変化するはず、そう考えたのです。
 
結果、びっくりするほど変わりました。ただの水が、です。

言うなれば、山の上流の湧き水を飲むような。クセのない、軽やかな味わい。

これはすごいことが起きるぞ!と、マスターと二人で大興奮し、今度は砂糖抜きのギムレットを、磨いたシェーカーとそのままのシェーカーで作ってもらいました。
 
この時、自分の人生で最大のアハ体験、天地がひっくり返るような驚きを経験しました。(個人的にはDavid Bowieの「Space Oddity」を高校生の時に初めて聞いた時以来の衝撃。)

水割りや水とは次元が違うレベルで、味わいが変わったのです。

あまりの違いに、二人とも言葉が出てこない。自分達の語彙にはないことが目の前で起きているから、言葉が追いつかない。

へたな言葉で表すととたんに陳腐なものになりそうでこわい。

そんな、よくわからない心情で黙りこくったまま数分が過ぎていきました。
ただ、放心状態のまま「革命的なイノベーションが起きた瞬間なのかも」と肌に感じてしました。それはよく覚えています。

開発期間中に何杯も飲んだギムレット

隣のお客さんにもカクテルを飲んでもらう

その後、バーに常連のお客さまがいらしたので、事情を話さずに飲み比べてもらいました。

やはり「こちら(試作品第2号で作ったギムレット)のほうがおいしい」という。

ということは、何かがシェーカーの内側で起きているんです。

見つけてしまったからには、これをみてみぬふりなんてできない。

「ドリンクの味が変わるカクテルシェーカー」なんて、バーツール史上、類を見ないプロダクトですから。
 
調べてみたのですが、市場に出回っているシェーカーは、素材が違うか形状が変わっているかくらいの違いしかありませんでした。

もし、実際に味わいを変えるシェーカーを生み出すことができたら、これはエポックメイキングなプロダクトになる。

ギムレットの飲み比べで、そんな手応えと使命感を感じたのです。
 
続く

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