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【インドに初めていく人必見!!】一晩中、騙され続けて詐欺にあった話『#3謎の黄色いバリケード』

地下鉄に乗って、3時間ぶりに空港に戻って来た。時刻は午前1時前。さっきインドに到着した時と同じように、空港の出入口には人がごった返している。俺たちは安全な寝床を確保するために、空港内に入ろうとした。しかし、入れなかった。

空港に入るためには、その日出発のフライトチケットがいるらしい。つまり、用事のない奴は入るなということだ。銃を持った軍人達が空港の入り口に立ち、厳重にセキュリティチェックをしている。その様は、まさにインドの治安の悪さを物語っている。

wifiは繋げない。一度出てしまったら入ることさえできない。俺たちは本当についてない……。

仕方なしに空港周辺で寝れそうな所を探す。周りをよく見渡してみると、出口付近で寝ているインド人がかなり多い。皆、大きな荷物を枕にして、地べたに寝転がっている。他の国では中々見れない光景だ。

しばらく探索すると、空港から地下鉄に繋がる連絡通路の階段の隅に、人が来なさそうなスペースを見つけた。

「取り敢えず今夜はここで寝よう。」明日、明るくなったらもう一度ニューデリー駅に行って宿探しをすることにして地べたに座る。

季節的に、気温がちょうどいい。寒くなければ、暑くもない。盗難防止のため、バックパックを背負った状態でそのまま寝転がる。俺たちは精神的に相当疲れていたので、すぐに眠りに落ちた。


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………………………

……………

……

「ヘイ!」

……………

……………………zzzzzz

「ヘイ!!」

「え…な…何?」

「お前はここで何してる?」

眠っていたところを、誰かに起こされる。半開きの目で、寝ぼけたまま見上げると小綺麗な格好をした長身の男が目の前に仁王立ちしている。

「寝とったんよ……どしたん?」

「なぜここで寝ている?」

「宿がないけぇここで寝とるんよ。」

「もう駅が閉まるからここで寝てはダメだ。宿に行け。」

「じゃけぇ宿がないんよ!」

急に見ず知らずのインド人に起こされて、少し不機嫌な気持ちになる。それに、寝起きでほとんど頭がまわらない。彼は「自分は空港のセキュリティだ」と言う。彼はクールビズのような格好だ。半袖のカッターシャツにスラックス。足下は黒い革靴を履いている。

それから彼は、俺たちのパスポート、入国スタンプ、チケットを確認した。パスポートを返す際に、空港警備員らしく「No problem」と言った。

「場所を変えるけえ、空港の近くで寝かせてくれ」俺はダメもとで彼に懇願してみる。

「ダメだ。空港は寝る場所じゃない。」だが、頑なに拒否された。

彼のその頑固っぷりに「また、騙されるんじゃないか。」と不安になった。駅での一件から、インド人への不信感は募るばかりだ。彼が本当に空港のセキュリティかどうかが疑わしい。

「あんたは、ほんまにセキュリティなんか?証明できるもんある?」

俺がそう尋ねると、彼はもちろんだという表情をする。自信ありげに顔写真付きの空港職員IDを渡してきた。確かに本物っぽい…。だが、俺の疑いが完全に晴れたわけではなかった。俺は念押しにもう一つ質問する。

「他にあんたが職員だと証明できるもんはないん?」

「OK、あいつらに訊いてみろ」

彼はすんなり承諾すると、近くの警備兵を指さす。そして俺は兵士に彼が本当にセキュリティかどうかを尋ねる。すると兵士たちはいかにもという風に首を縦に振る。どうやら本当にこの男はセキュリティらしい。

「それで俺たちはどうすればいいん?ネットがないけぇ宿がどこにあるかもわからんし。」

「自分がタクシーを手配する。空港専属のドライバーだ。200ルピーできちんと宿まで届けてやる。」空港専属ドライバーで200ルピーというのはおそらく値段相応だろう。ぼったくる気もないように感じる。



それから約10分後、黒いプリウスがやってきた。インドではかなりの高級車のはずだ。さすが空港専属ということだけある。タクシーに乗って、俺たちはまた同じようにニューデリー駅周辺の宿街を目指すことになった。車の時計を見ると、時刻は深夜3時になっていた。

ドライバーは、気さくなやつだった。俺がニューデリー駅であったことを話すと、彼は「大変だったな」と優しく相槌を打ち、タバコを分けてくれる。インドに着いて初めて、まともなインド人と話せた気がした。

「私がちゃんと宿まで送ってやるから。リラックスしてくれ。」彼はそう言って俺たちを安心させてくれる。

そして約20分後、車は空港から中心部まで繋がる高速道路を降りて、ニューデリー駅周辺までやってきた。そこで、問題は起きた。宿街に入るため、少し細い道を通っていると、目の前に、車の通行を遮る黄色いバリケードが設置されている。

「は?なんなん?これ?」

「この辺りは夜中、とても危険だからバリケードがしてあるんだ。宿街には入れないかもしれない。他の道も試してみよう。」

彼はUターンをして、別の道へ向かう。しかし、別の道から宿街に入ろうとしても、同じようにバリケードで道が塞がれていた。

また別の道…

そしてまた別の道…

東西南北。全ての宿街への道が塞がれている。確かな証拠として、目に映るバリケード。疑う余地は微塵もない。念のため、彼のナビを確認した。道は合っている。やはりバリケードを越えなければならないのは、間違いないようだ。

ただ、どのバリケードも警察や軍人が見張っているわけではない。ただ忽然と車の進行を防いでいる。車は無理だが、歩いて行けば問題なく通れそうだ。

「こっから歩いていくわ。ありがとう。降ろしてや。」

「ダメだ。何を言ってるんだ。ここはとても危険なんだ。それに第一、私は君たちを最後まで送るという仕事を任されている。私は君たちを宿まで送り届けなければならない。200ルピー以上は要求しない。これが私の仕事だ。わかってくれ。」彼は、俺を諭すように丁寧に説明してくれる。かなり筋が通っているように思えた。

もし、外国人が大きなバックパックを背負って、深夜に治安の悪い地域を歩と。かなり目立つ。トラブルに巻き込まれるリスクが高い。俺たちは彼の説得に応じることにした。

「じゃあ、あんたが知っとる宿でいいけえ、連れてってくれ。高級な所じゃなかったらどこでもええよ。」

「あまりわからないんだ。私ではわからないからツーリストオフィスに行こう。彼らなら詳しい。」

「ツーリストオフィスは嫌じゃ。オフィスよりも俺たちはインターネットが欲しい。wifiがあるところに連れてってくれ。」

「 インドにフリーwifiはあまりない。オフィスに行けばwifiがあるかもしれない。もし値段が気に食わないなら、君たちが納得する金額のオフィスが見つかるまで付き合う。俺は200ルピー以上は要求しない。」

「ちょっと考えさせてや…」

頭が混乱してきた。また、ツーリストオフィスだ

「わかった。ゆっくり考えてくれ。」

車は路肩に駐車する。

「どうしてインド人はこうもツーリストオフィスを紹介してくるんじゃろう?」不思議でならない。この男からは、俺たちを騙そうという気が感じられない。それにインドに着いてからというもの、会うインド人がみんな「Dangerous(デンジャラス) 」と口にする。それほどまでにインドは危険な状態なのだろうか……

俺はその時、あるニュースを思い出した。

そういえば日本を出発する数日前。インドが隣国のパキスタンと、軍事的な緊張状態にあると報じられていた。そこそこ大きなニュースとして取り上げられていた。

そして、空港に着いた時の妙な賑わい。多くのインド人たちが祈るように、外から出口を見つめる。ある人は泣きながら、空港から出てきた家族を抱きしめる。「本当に無事でよかった」そう言っているように思えるほどだった。

”軍事的な緊張状態という報道は、さっきのバリケードと空港の状況を説明できる。そして、外国人に安全な旅行をさせるためにツアーが必要になる”こう考えると、彼の意見に信憑性があるように思えてくる。何より、俺たちはドライバーを信用していた。

「いや、危険ならどうしてバリケードに警備がおらんのんじゃろう?」しかし、あのバリケードが頭の中で妙に突っかかる。

「ああああああだめじゃ」。考えれば考えるほどわけがわからなくなってきた。日本を出発してから、ろくに寝ていない。今は冷静な判断を下せる自信がない…。

判断力の低下と情報不足のせいで、”現状”のインドのスタンダードが理解できていない。今、俺たちに必要なのは睡眠インターネット。せめて、どちらか一つだけでも欲しい。睡眠をとることができたら、今より冷静に判断できる。ネットがあれば、正しい情報がわかる。

「もうオフィスでもなんでもいいから休ませてくれ。頭が回らん。」俺は自暴自棄にドライバーににそう告げた。

「わかった。まずは近いオフィスに向かおう。」

「おっけい…」力なく返事をする。

真夜中の静寂の中。黒い車体は、欺瞞に満ちたニューデリーの街を再び走り始めた。


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▽次の話▽

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