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フシギバナ(エッセイ)


宝石のように大事にしていたものがあった。それはあるお菓子についてきたポケモンのおもちゃで、フシギバナという背中に大きな花のついたカメみたいなポケモンを銅で象ったものだった。親指のつめくらいの大きさで、とくにきらきら光ったりするわけではないし、フシギバナもそこまで人気の高いポケモンではないのだけど、その重みがすきだった。手のひらにのせると軽く、指先でつまむと重い。その感覚がいとおしくて、学習机の右の小さなひきだし、そのなかにある円いくぼみに、ゼムクリップやホチキスの芯といっしょにしまっていた。

中学生になったときにはもう入っていなかったのだけれど、きっと私はどこかで捨ててしまったのだろうと思う。捨てると決断したのは小学校のころの自分のはずだが、中学生の自分は、それをいつ、なぜ、どのように捨てたのかはまるで覚えていないのだった。

だれかにあげたのだろうか。それとも、交換をせびられて渡したのだったか。いまでは思い出すイメージは実際の着色されたフシギバナの姿そのものになってしまった。

ただ、重みだけはしっかりと覚えている。指先でつまんだときのあのなんともいえない、ちょうどいい重さ。手を離すと、すとんとクリップやホチキスの芯のなかに落ちて、金属らしい音をたてる。


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