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天国サーバーから戻った男

「無事施術が完了し、貴方の魂はサーバ4638に保管されました。ご気分はいかがですか。」
施術の成功を喜ぶ家族の声がカーテン越しに聞こえ私は目を覚ます。

家族や職員はベッドに横たわる私の肉体には目もくれず、反対側に設置されたモニターに映る「私」に向けて話しかけている。「私」は生前のように家族と楽しそうに笑いあっている。私はこっちだ。気づいてくれ。声は出ない。
職員達が事務的に私の身体を運び出す。やめろ、私はまだ生きている!

肉体を安楽死させ、魂データのみをサーバーに保管する「魂転移」技術が開発されて5年。多くの魂がデータ化され保管され、墓には墓石ではなく黒曜石のサーバー群が並ぶ光景も珍しくなくなった。モニターや機械の器があれば生きている人はいつでも故人に会える。死が人々を分かつ苦しみは過去のものになる、そう思われていた。


その夜、人々は変な噂を耳にした。
魂転移後の死体が目覚め、逃走したと。
【続く】

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