同族INTP
「こういうの自分で撮っててさぁ、」
この後に、続く言葉を私は知っている。
私のSNSを目の前でスクロールしながら、冷たい視線を注ぐ彼が、次に口にする言葉を。
「恥ずかしくね?」
ほら、そういうと思ったよ、と私は頬が緩んだ。
「どうでしょう?」
そうやって笑いながら、真っ白なマグカップを口元へ運ぶ。
私は彼を嫌いながら、同時に隅々まで彼の心理が手に取るように分かる。
一生懸命になることで得られるものは無いと思っている人。
何をやってみても楽しさや喜びが特段増えるわけではないと思っている人。
自分の生きがいが無いからこそ、他人の生き方を笑う人。
でも、私は知っている。
「趣味も生きがいも無いアラサー男性みたいなコンテンツやってみたらいいじゃないですか」
「何喋ったらいいの?」
その渇いた瞳の奥底に眠る、
「その日思ったこと言えばいいんですよ」
「そんな毎日話すことなくない?」
生きがいを見つけたいという本音を。
「話すことないなら、俺の人生話すことなんて何もなくてって話せばいいんですよ」
そこから、話すつもりもなかったことが口から出てきた。
「アラサーでそういう"何も無い"人ってSNSには出てこないから、やってみたら共感者たくさんいそうですけどね」
「アラサーで男性って、基本的に何かを語ってるんですよ」
次から次へと。
「ライフスタイルだったり、ファッションだったり、"何も無い"にしても、無いところから有るようにするために努力してるところを見せてたり」
こんな説明、なんの役にも立たないかもしれないのに。
「とにかく、あなたみたいにやりたいことが何も無い、でも何も無くてもなんとも思ってなくて、でも時間とお金はあるからなんでもやってみるんだけど、」
でも、でも、って、
息継ぎを繰り返して、
「それでも結局何も思わないし、何も残らない。」
彼は、相変わらず白黒のフィルターでもかかってそうな目をしている。
「そういう人ってとにかく珍しいというか、いや全体的に見たら珍しく無いかもだけど、SNSではいないから、」
「何も無いことに意味がないと思って、みんな載せないだけで」
「てか、そういう斜に構えてる感じ、TikTokウケ良さそうですけどね」
そこまでいい終わり、私は何故彼と珈琲を飲んでいるのだろうと思った。
「TikTokねー」
そう、言いながら彼は、アプリをインストールし、その何も感じない眼でTikTokを開き、数回スクロールした。
よく似ている。
生きがいが無いというところではなく、そういう、なんというか、
「やってみるかー」
何でもやってみるところとか、
「てか、旅行とか行ってみたらどうですか?」
「どこに?」
「えーなんか、島とか」
「何があるの?」
「何があるっていうか、何かがあって行ったら絶対楽しくなかったって言って帰ってくると思うんで、逆に何も無さそうなところとか」
「どこの島?」
何で、何が、って質問を繰り返すところとか、
「有名じゃ無いところ行ってみたらいいんじゃないですか」
「そこで何したらいいの」
「その日決めたらいいじゃないですか」
「そしたら多分何もすることなくて、すぐ帰ってくるけど」
「はぁ…」
人に聞いておいて、ああ言えばこう言うところとか、
「てか、なんでそんな何をしても楽しいって思わないんですか?いつからですか?」
「いつからだろうね、小学生の時は楽しめてたと思うんだけど」
真正面から自分の欠損した何かを見つめているところとか、
そういうところが、よく似ているのだ。
だから私は彼を嫌いだと感じながら、珈琲を嗜むことができる。
嫌いだから、
そして、似ているから。
ー
文字を書くことが生き甲斐です。此処に残す文字が誰かの居場所や希望になればいいなと思っています。心の底から応援してやりたい!と思った時にサポートしてもらえれば光栄です。from moyami.