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ハグをして、ハグをされたいと思った。


流れるように長いまつ毛を横目で見ながら、

この肩を、

この首に顔を埋め、

抱きしめたいと思った。



「こんな人だろう」と想像した人間とは絶妙にズレた人だった。


儚い美しさではなく、

暖かな強さを持っている人だった。


もっと近づきたいと思った時には、もう触れていて、

そんな距離感を全て「人見知りをしない」その人の所為にした。



もっと触れたいとは思うのに、

これ以上は知りたくないと思った。


この身体の温度と、分け与えられる優しさの温度に触れられれば

それでいい、と。



寄せ合う身体から伝わる温度は常に高く、

凍り付くように冷え切った自分の側に居ることに罪悪感を覚えた。


身体の芯まで、

血管まで、

そこを流れる物質まで、



冷え切っていた。


温もりが欲しかったわけではない。

こうして小さな頭で考えるたびに、

私は「別に愛されたかったわけではない」と、どこでも

同じように言い訳まがいの嘘をつくのだろうと思った。



ハグをしたいと思ったのは、ただの衝動からだった。


悲しいのは、自分の癖に

「悲しそうに見えた」とまた嘘を塗り重ねて、

抱きしめた。


自分が主体となって抱きしめているということを、

必死になって忘れないように、腕に力を込めてみた。


抱きしめられていると、思った瞬間に全てが壊れてしまいそうな気がした。


あんな時も、

こんな時も、

誰も、隙間を埋めようとはしてくれなかったではないかと、


次々に、

「愛されたかった」想いがこぼれ出てしまいそうになるのを、

必死に制御した。



この人を抱きしめている自分だけを考えた。


ハグをしたいと思う時はどんな時で、

キスをしたいと思う時はどんな時なのだろう。




それは、欲望でも本能でもなく、


ただ、人間である事を確かめたいだけなのかもしれない。









文字を書くことが生き甲斐です。此処に残す文字が誰かの居場所や希望になればいいなと思っています。心の底から応援してやりたい!と思った時にサポートしてもらえれば光栄です。from moyami.