見出し画像

冬の色

1日の一番はじめの楽しみ、それは朝ベッドから出て、カーテンを開けること。今日はどんな色が広がっているだろうか。

うわ、ステキ。そう呟きながらスマホの中にまた写真が収められていく。

本当のところ、朝は得意ではない。子供の頃から朝起きることが大の苦手。そんな私が、冬の朝の魅力など語れるはずもなかった。けれど、この家に引っ越してきてから、そして在宅勤務が始まってから、生活が変わった。そして、気持ちが変わった。

寝室の窓から目に入る光景といえば、我が家のテラス、その前を流れる小川、そして奥に広がる草原。その景色に、色の変化を楽しめる季節があることを知った。

太陽が顔を出す晴天の日の出、薄い赤い色が見える日もあれば、黄色い空が見える日もある。

曇り空の日には、朝靄がかかり、白い空。

写真を比べてはじめて知った空の色の違い。

生活には色があるとやはり楽しい。今日は何色の服を着ようか、何色の食器を使おうかと自分で選べる色もあるけれど、自然が作り出す色はまた趣が違う。

夏、同じ時間帯の朝が作り出す色は、たいてい決まった同じ色。すっかり太陽は上り、木々の緑と空の青が広がる。曇っている日は灰色の空。それに加えて、テラスで元気に咲くお花たちのカラフルな色を楽しめる。それが夏の楽しみ。

冬はテラスでお花の色が楽しめない。仕方ない。そう思っていたけれど、この冬、ちょっと冬のテラスに彩りを与えてくれるかわいい子が仲間入りした。

ロビンの鉢植え。ロビンとは、日本語で言うとコマドリ。英国ではクリスマスの象徴とされており、クリスマスに関連するグッズにはロビンの姿をよく見かける。そのグッズの一つとして、ロビンをかたどった鉢植えがお店に並んでいた。そこで咲いているお花は赤いシクラメン。ロビンは直ちに私の心を鷲掴みにした。

リビングにロビンを置いて、まずは写真を撮る。そんな浮かれた私にロビンは訴える。

「私、寒い外には出たくないからね」

え、そうなの? でも、あなたはテラスに彩りを添えるとても大切な役割をするの、そう言い聞かせ、テラスに出す。冬でもテラスを見る楽しみができて、すっかり嬉しくなる。

ある寒い冬の朝のこと。雪は降っていないけれど、寒さで霜が降りていた。その美しさに目を奪われ、朝食を食べている途中だったけれど、すぐにテラスに出た。気温はマイナス2度。

緑の植物にも、うっすらと白い霜がかかる。冬でもまだお花が残っていたカンパニュラの紫のお花も、すっかり凍えてしまっただろうか。

「当たり前じゃないの! 凍えてるわよ!」

ロビンも寒さを訴えてくる。確かに、お花はかわいそう。ロビンの頭も白くなっている。ごめんね。

朝食の時間帯に、テラスに出てうっとりと写真を撮る時間が取れることも、在宅勤務ならではの特権。2年前までは、まだ薄暗い中、慌てて出勤の支度をし、いそいそと駅へ向かい、混み合った電車に乗っていた時間。


冬の色が楽しめる時間は、朝だけではない。夕方にもまた愉悦のひとときが訪れることもこれまで知らなかったこと。

ある週末の夕方、日が沈んでしまう前に近所を散歩することにした。そして、いつもどおり公園に入ると、そこには今まで目にしたこともない光景が広がっていた。

空には沈みゆく日の光。そして緑の芝生の上にかかる白い靄。いつもの公園に入ってきたつもりだったけれど、入り口を間違えてどこかおとぎの世界に迷い込んでしまったのだろうか。そんな気持ちにさせる幻想的な景色。

日が短い冬は、あっという間に暗くなってしまい、夕方の美しさに気づけずにいた。こんな景色を見ることができたことに、ただただ感謝の気持ちが沸き起こる。

自然が作る色を楽しめる喜びを書いてきたけれど、ロビンの鉢植えの赤い色は作られた色。では実物のロビンはどんな色なのか。

この小鳥、いつも川沿いをチョロチョロと飛んでおり、うちのテラスの柵にもちょこんと座ってくれることもあるのだが、写真を撮っているとわかるとすぐに逃げてしまう。そっとカーテンの隙間からレンズを向け、拡大して撮ることはできたのだが、やはりあまりロビンらしさが伝わる写真が撮れない。そう思っていた矢先、チャンスはやってきた。

公園沿いの道を歩いていると、道路の先に小鳥がいた。ロビンだ! 何かご飯を見つけたようで、一生懸命食べていた。こんな近くでロビンを見られることは滅多にない。チャンスを無駄にしないよう、そうっとスマホのカメラをセットする。そしてまずは遠くから拡大して1枚。少し近づいてもう1枚。

鉢植えのロビンの首から胸は真っ赤でしたが、実際はオレンジですね

あ、気づかれた。パタパタと羽ばたいて行ってしまったかと思われたが、近くの枝に止まってくれた。再びそっと近づいて1枚。

これでもあまりきれいな出来ではないけれど、私の中では優秀賞。自己満足に浸っていると、奥になんとネコちゃんを発見。警戒しながらこちらを見ている。大丈夫、そんな奥まで歩いていくことはできないから、どうか逃げないで。祈るようにカメラを向ける。かわいい・・・


暗くて寒いだけではなく、さまざまな色があることを知った冬。そういえば、今年は1月2日に空にかかる素晴らしい色を目にすることができた。虹がかかった空。

これからクロッカスやスイセンの芽が出てきて、彩りが加わる春がやってくる。まだまだ楽しい色探しが続けられそうだ。


本日もご訪問いただきありがとうございました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?