シアター・ムヴィオラPICK UP (1) 『わたしは、幸福(フェリシテ)』
2月といえばベルリン映画祭。そこでベルリン銀熊賞の『わたしは、幸福(フェリシテ)』をPICK UPしてご紹介します。
「貧困」「内戦」…そうした題材から離れたアフリカのグルーヴとマジカルな瞬間、そして監督アラン・ゴミスの才能を見てください。
視聴ページはこちら:https://share.mirail.video/title/5230008
↑アラン・ゴミス監督
■できれば部屋を暗くして匂いまで感じて。
『わたしは、幸福(フェリシテ)』は2017年のベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員大賞)を受賞した作品です。映画の舞台は、コンゴの首都キンシャサ。主人公はバーで歌って日々の暮らしを立てている女性で、名前はフェリシテ。キンシャサはその混沌としたエネルギーで人を夢中にさせる街です。アフリカの他の都市と比べても独特の強烈な魅力を放っています。ぜひ映画の冒頭から目と耳を凝らしてください。夜のキンシャサ。人々の声のざわめき。行ったことがなくても、その場に投げ込まれ、街の匂いが鼻をつくような感覚におそわれます。やがて聞こえてくる音楽は、コンゴを代表するバンド、カサイ・オールスターズです。そこに主人公フェリシテの声が加わって彼らのグルーヴに乗り、耳を刺激し、いつの間にか体を揺らしてくるのです。私は実際、ベルリン映画祭のマーケット試写の会場で、椅子の上ではありましたが、踊り出しそうになりました。ご自宅で見る方は、ぜひ部屋を暗くして、映画に没入して遠慮なく踊りながらご覧ください。
■「動」と「静」。ほとばしるエネルギーと静寂の詩の対比。
フェリシテとは、フランス語で“幸福”の意味。けれど、人生は彼女に優しくない。ある日、女手ひとつで育てている息子が交通事故で重傷を負ってしまう。しかし病院は、前払いしないと手術はできないと言い放つ。手術代を集めるため、フェリシテは奔走するが…という物語です。
冒頭のグルーヴに溢れたシーンから、キンシャサのリアリティを疾走と衝突を繰り返しヒリヒリと描く中盤へ、その後にさらに驚かされたのが絶望したフェリシテの内面に入り込んでいくような「静」の描写です。まるで聖なる闇と呼びたいような森、そして水の波紋さえ闇に吸い込まれるような湖。エストニア生まれの作曲家アルヴォ・ペルトの音楽が響き、映画は詩性をおびてきます。監督のアラン・ゴミスは、この映画で初めて知った監督ですが、その才能に胸を打たれました。
■日本での公開はまさに「ザ・チャレンジ」。
この映画の買い付けは、チャレンジでした。まず第一に、日本で公開されるアフリカ映画はとても少ないため、アメリカ映画やフランス映画のような日本の観客の土壌がない。さらに日本の配給会社の多くの人は、もしアフリカ映画が成功するとしても、そこにはアフリカの問題として日本人が認識している「貧困」や「紛争」という題材が必要だと言うのです。『わたしは、幸福(フェリシテ)』は、物語の背骨には「貧困」はありますが、そこにフォーカスした作品ではありませんし、「紛争」もありません。描かれるのは、フェリシテという女性が感じる深い絶望と、その底でようやく見つける愛、誇り、そして幸福です。果たして、こうしたアフリカの映画が日本で公開できるだろうか。逡巡はしましたが、チャレンジの価値がある、そう思い、ベルリンでの試写の翌日、この映画を売っているセールス会社を訪ね、まだ受賞も決まっていない段階でしたが配給を決めました。
■フェリシテを女王のように見せたかった。
ベルリン映画祭で銀熊賞はとったものの興行的には難しい映画なので、公開の際に、フェリシテの「貧困」を強調すべきか、それとも音楽の魅力を前面に打ち出すか、かなり悩みました。けれど、私の目には、フェリシテは人ならざるものによってこの地につかわされた女王のように見えていたので、そこを表現したいと思いました。フェリシテの最後に得る誇りは、この映画の誇りでもあり、アフリカの誇りにも通じているのだと感じたからです。そこで石井勇一さんに「フェリシテを愛に満ちた誇り高い女王のように見せてください」とお願いして、今のポスタービジュアルが完成しました。海外版ポスターがお好みの方もいると思いますが、私としてはフェリシテという女性をよく表していると思うのでこの日本版がとても気に入っています。興行のことを考えるとチャレンジしすぎた感がありますが、ぜひ映画とともに、このビジュアルも楽しんでください。
*石井勇一さんはOTUAというデザイン会社をやっているアートディレクター。映画の仕事も多く、『僕の名前で君を呼んで』『ムーンライト』『mid90s/』なども手がけています。
https://twitter.com/yuichishi
■映画公式サイト
物語やアラン・ゴミス監督、キャスト、音楽など詳しい情報はこちらでご覧ください。
http://www.moviola.jp/felicite/index.html
視聴ページ:https://share.mirail.video/title/5230008
公式HP:http://www.moviola.jp/felicite/
■ここ見て
◎バンドメンバーに金の無心をするフェリシテに対して、貸すか貸さないかを話し合うメンバーたちのシーン。まるで、村人たちが集まって何かを決める時、最後に村長(むらおさ)が、厳粛に決断を伝えるかのようで、さまざまな映画の記憶が蘇る。メンバーたちを演じるのは実際のカサイ・オールスターズの面々。
◎フェリシテは夜の森でオカピに出会う。オカピはコンゴ原産のとても美しい動物です。この映画にあるマジカルな瞬間をシーンのひとつ。神秘が伝わってきてゾクッとします。
■映画のサブテキストに
キンシャサについてのナショナル・ジオグラフィックの記事の抜粋です。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20130822/362208/
キンシャサを深く知る写真家の名越啓介さんとキンシャサ・ミュージックで世界的に知られるパパ・ウェンバ&ビバ・ラ・ムジカで活躍した奥村恵子さんのキンシャサレポートの連載がviceに掲載されています。
https://www.vice.com/ja/article/mb57vx/spirit-of-congo-01
■映画を気に入っていただけたら
パンフレットはBASEで取り扱っています。映画を高く評価してくださった音楽家の菊池成孔さんとアラン・ゴミス監督の対談は素晴らしい内容です。
https://moviola.base.shop/items/29693063
サントラ盤はAmazonでは品切れですが、楽天ではまだ購入できます。
https://product.rakuten.co.jp/product/-/de4017f66293d4874cd260c6f1cba03d/
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