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海外ではどのように入管に反対しているのか?

この記事は5/22日に行われたオンラインイベント、「海外の入管反対運動から学ぶ」の報告です。海外では入管の権力に対してどのように抵抗し、外国人への実質的平等を獲得しているのでしょうか。以下、いくつかの事例を紹介していきます。


1. グラズゴー 〜 住民による直接行動


当日の流れ:
・午前9時30分、二人の男性が入管職員によって住居から連れ出され、入管の収容施設へと移送されるところを発見(これはRaidと呼ばれている)

・これに気づいた地元住民がSNSで移送を阻止するように呼びかける:


・普段からRaidsに敏感で直接行動を行っている団体(No evictions Network やAnti Raids Network など)がその情報をさらにSNSで拡散

・大勢の住民・若者が駆けつけ、車の前後で座り込みを始める。同時に近所のカフェやスーパーから住民が物資を持ってきて、座り込んでいる人たちをサポートする。昼の時間にはすでに500人ほどが集まっていたという。

・開始から八時間後の5:30、弁護士も介入し、二人の男性は釈放され、近隣のモスクで法的なサポートを受けた。


 以上が当日の出来事だが、このような抵抗は自然発生的に起きた訳ではなかった。そこでは当然、普段からグラズゴー内で活動している団体、活動家が重要な役割を果たした。以下、見ていく。

活動家・オルガナイザーの役割

 まず、当日のRaidが行われる前からUnity Centreの活動家は車が内務省建物を出た時点からずっと追跡していた。(この団体はグラスゴーで普段からRaidがどこで行われるかをチェックしている)事前にRaidが行われるという情報をキャッチすることができたことで、すぐに他の団体の活動家とも連携し、どうやって止めるかの計画を立て始めた。

 また、この前日、ちょうど数人の地元住民・活動家が他地域の強制送還に普段から反対している活動家によってRaidに反対するための手法を伝授されていた。
→警察が座り込んでいる人たちを排除しようとした時にどうすればいいかなど、この時のトレーニングは現場で直接役に立ったという。

 さらに、No Evictions Network の活動家の一人は自ら入管の移送車の下敷きになり、車が動けないようにした。

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 その他にも、自分たちの権利やraidを見かけたらどうすればいいかを周知するビラが現場では配られていた。 

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【団体紹介】No Evictions Network (強制退去に反対するネットワーク)→難民申請が却下された人たちを住居から強制退去させる政策に反対して2018年に結成。普段はグラズゴー内で移民、難民・難民申請者が住居から強制退去されないように直接行動、情報周知活動等を行う。

【参考】
https://gal-dem.com/stop-the-home-office-deporting-people-glasgow-kenmure-street/?fbclid=IwAR2V0BTPWbNcCgY3ZMJX9WLkxIuzbyNQtq6t_sFPkShb49cLNj1wzQuvVHo
https://tribunemag.co.uk/2021/05/how-glasgow-beat-the-home-office




2. Stanstead 15 〜 直接行動による非正規滞在者(中には難民申請者も)の強制送還の阻止


 2017年3月、ロンドンのスタンスデッド空港から難民申請が却下された者などを乗せた政府のチャーター便がナイジェリア、ガーナ、シエラレオネに強制送還するところだった。

 これに対してStop Deportationの活動家15人がチャーター便の離陸を阻止するためにスタンステッド空港の滑走路に潜入し、飛行機の前で座り込むことで強制送還を阻止した。

 活動家たちは綿密に計画を立て、当日は飛行機の搭乗時間に合わせ、空港のフェンスに1mほどの小さな穴をあけ、滑走路に侵入した。侵入した後は飛行機の隣に座り込み、輪になって簡単に動けないようにした。同時に、No one is illegalという標語が書かれたポールをたて、SNSでもアピールを行った。

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 その後、この15人は飛行機を止めたことで刑事訴追されるものの、裁判を通してこの問題を社会問題化することに成功し、多くの人が強制送還に対して問題意識を持つためのきっかけとなった。

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 また、このアクションによって、強制送還されるはずだった人のうち11人が滞在許可を得ることになった。そのうちの数人は強制送還された場合、確実に迫害にあっただろうと言われている。

【参考】https://www.theguardian.com/uk-news/2017/mar/28/stansted-runway-closed-after-anti-deportation-protesters-block-flight


3. 医療従事者と入管との闘い

 このように、活動家、住民による直接行動だけではなく、労働、特に医療の分野でも入管への抵抗が進んでいる。

 英政府は2012以来、「敵対的環境」政策の導入によって、社会のあらゆる領域で非正規滞在者に対する監視・管理を強化してきた。その一環として、NHS(国民保険サービス)でも短期滞在者、非正規滞在者がNHSサービスを受ける際に追加料金が課された(NHSは本来無償)。これによってNHSの医療従事者には患者のパスポートチェックと非正規滞在者について入手した情報を内務省に伝える義務が課された。

 しかし、これによって非正規滞在者の多くが医療を受けれなくなった。医療を受けた場合、内務省に情報が流され、強制送還される恐れが出てくるからだ。結果的に多くの人が医療を受けられず、苦しんでいるという。
また、パスポートチェックの導入はレイシャルプロファイリング(肌の色や見た目、アクセントの有無をもとに外国人がどうか判断すること)にもつながっている。というのも、全ての人にパスポートチェックがされない以上、その対象は見た目や肌の色、アクセントなどをもとに絞られているからだ。

 このような措置に対して、NHSの医療従事者は反発し、医療関係者の組合員を中心にDocs not Cops (訳:警察ではなく医者を. 医者に警察のような役割をさせるのはおかしい、という意味を含んでいる)が結成された。
レイシャルプロファイリングを促進することになるパスポートチェックや非正規滞在者についての情報提供を拒否するように呼びかけ、さまざまなキャンペーンを行っている。現在、パンデミックによってますます医療従事者による入管への抵抗が重要になってきている。

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【参考】
http://www.docsnotcops.co.uk/about/
https://www.theguardian.com/commentisfree/2017/apr/07/passport-checks-patients-nhs-principles-health-tourists



fin.

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