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『アナと雪の女王2』の考察~自然VS人間~

 まず始めに、、、ディズニーは『アナと雪の女王2』に登場するノーサルドラという民族は、サーミ人をモデルとして作ったと発表している。サーミ人とは、スウェーデンやノルウェー・フィンランドやロシアを含むラップランド地方を居住地とする民族である。トナカイを遊牧したり、工芸品を作ったりする。彼らは自然に宿る精霊たちを敬う、精霊信仰を宗教としている。ヨイクという民族歌謡を使い、自然界とコミュニケーションを取る。(Wikipediaより)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%9F%E4%BA%BA#%E6%AD%B4%E5%8F%B2

 ディズニー映画『アナと雪の女王2』(2019)はただの姉妹喧嘩を描いた映画ではない。アナとエルサ、二人の対立関係の背後にはスケールの異なるいくつかの対立構造が複雑に絡み合っている。二人の奥にはアレンデールとノーサルドラの対立が、そしてそのまた奥には人間vs自然の構図がある。アナはアレンデール(北欧諸国)・文明・人間のシンボルとして、反対にエルサはノーサルドラ(サーミ)・自然のシンボルとして描かれる。アレンデールとノーサルドラの対立を通して「サーミと北欧諸国の対立の歴史」が描かれる。そしてアレンデールに対し怒り狂う自然を描くことで「自然を畏れ敬うことを忘れ、自然と共生することをやめた人間への警告」としての物語になっている。入り組んだ対立構造とその変化を、物語の進行と共に解説する。

【ノーサルドラ(サーミ)人である母イドゥナ】
 まずオープニングでは、サーミ族の伝統歌謡であるヨイクに似た音楽が流れる。それにより、ノーサルドラはサーミを意識して作られた民族であることを暗示している。そしてアナとエルサが幼少期に父から魔法の森の話を聞くシーンでは、彼女らの母が着ている服の形や色がサーミの民族衣装に似ている。サーミ人はサーミの旗に使用される青・赤・黄・緑で構成される衣装を着るが、彼女の母が着ている服にもその四色が入っている。また、エルサが身につけている母の形見であるスカーフも民族衣装の一種である。これらから、アナとエルサの母であるイドゥナはノーサルドラ(サーミ)出身であることが分かる。

【ノーサルドラ(サーミ)人であるクリストフ】
 トナカイのスヴェンやトロールたちと心を通わせることができるクリストフはノーサルドラ(サーミ)人であると考えられる。

【物語の伏線:人間vs自然】
 次に、オラフとアナが会話している場面で、オラフがアナに「変わらないものはない、、、怖くないの?」と問いかける。オラフはエルサの魔法で作られた雪だるまであるため、オラフは自然の象徴であり、エルサに近い立ち位置のキャラクターとして考えられる。そのオラフが変わりゆくものへの不安を吐露するシーンは、人間が自然を変えていくことに対する恐怖をほのめかしているのではないか。しかし、サーミ人であるクリストフは「いつまでも変わらないものがある」と歌う。

【錨】
 エルサが女の子に氷で錨を作ってあげる場面がある。その瞬間、それまで笑っていたエルサの顔が曇る。ここでは、両親の航海での事故を思い出していると推測できるが、アナとエルサの旅が危険なものになる、という予兆であると捉えることもできる。

【怒り狂う自然と、ノーサルドラの血を受け継ぐエルサ】
 突如アレンデールの町が災害に見舞われる。ライトや噴水は消え、アレンデールの旗は風で吹き飛び、自然が文明を破壊する。アナとエルサは、トロールからダムは平和の象徴ではなく対立の象徴であることを聞き、その真相を突き止め解決するために旅に出る。魔法の森は壁に覆われていたが、エルサだけは開くことができた。ノーサルドラ族が長い間森に閉じ込められているという描写は、北欧の国々に虐げられてきたサーミ族の暗い歴史を表していると考えられる。それを踏まえると、壁を開くエルサはノーサルドラの血を受け継ぐ人物であり、ノーサルドラ人たちが外界に出るきっかけを作る希望の星として描かれているといえる。エルサは、ノーサルドラ人から「自然と人間を結ぶ架け橋となる第五の精霊」について聞かされるが、この時点で自分が精霊だとは気づかない。
 一人で真相を突き詰める決心をしたエルサはアナとオラフを雪のボートに乗せて滑らせる。アナとオラフは川に流され、激しい滝から落ちてしまい、自然に振り回される様子が描かれる。常に楽観的で穏やかなオラフだが、エルサに対して初めて「怒り」の感情を覚える。つまりオラフも「怒り狂う自然」の一部として描かれているといえるだろう。
 木に火をつけて森を彷徨うアナは、氷の魔法を使えるエルサと対比され、ここでも姉妹の対立構造ができている。

【ダムの意味】
 アナとエルサの祖父であるアレンデールの国王は、「ダムは自然を傷つける」と主張するノーサルドラの人々に対し、「ダムは平和条約の象徴だ」と嘘をつき、彼らを陥れる。偏見に支配され、彼らの反逆を恐れた国王は、自然を守ろうとするノーサルドラ人や自然そのものを傷つけたのだ。そしてダムは水が溜まっている場所である。この映画では水は「記憶をもつ」とされるため、ダムは「権力に囚われた人間が自然を破壊した歴史」の象徴である。アナが誘導した末のアースジャイアントによるダムの破壊は「ノーサルドラがアレンデールの支配下から逃れたこと」を表す。ダムが壊れたためにアレンデールにそのツケとして津波が訪れるが、エルサが魔法で波をとめ、街を救う。「魔法は危険である」といった国王(祖父)の発言を覆す行動となった。

【魔法の森の開放】
 ノーサルドラとアレンデールが和解し森が開け、枯れていた草木は息を吹き返し鮮やかな色を取り戻し、トナカイたちが群れで走り回る。ノーサルドラ人たちの解放は、周りの国から差別し弾圧されていたサーミ人の解放を表す。

【アナとクリストフの関係】
 ノーサルドラで精霊として生きることを選んだエルサの代わりに、アナが女王としてアレンデールを治めることになる。ノーサルドラとアレンデールの確執としてのダムの破壊を呼び掛けたことも考えると、アナはアレンデールの象徴ではないか。ダムがなくなり、アレンデールでノーサルドラ人であるクリストフと結婚することは、アナはアレンデールとノーサルドラの間に平和をもたらした架け橋であると考えられる。また、クリストフが歌っていた「いつまでも変わらないもの」とは、オラフが言っていたように「愛」であることが分かる。
 
【エルサが身に纏うドレスの色の変化】
 エルサのドレスの色は次々に変化する。冒頭では薄い紫、精霊の歌を耳にするようになって一人思い悩む時にはボルドー、旅に出発する時には淡い水色のドレス、そして第五の精霊だと分かったときからは雪のように白いドレスを着ている。エルサが本来の居場所であるノーサルドラで第五の雪の精霊として生きるまでの心境の変化が色によって表現される。
 
【結論】
 これらすべてを合わせると、『アナと雪の女王2』は、アナとエルサの対立を通して「北欧諸国に虐げられてきたサーミ人の開放」を描きながら「文明のために自然を破壊する人間への警鐘を鳴らす」物語だといえる。

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