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シーツをかぶった怖くない幽霊。映画「ア・ゴーストストーリー」感想


め~め~。

幽霊といえば、おどろおどろしいものであったり、見るも無残な姿だったりと、ビジュアル的に恐ろしいものが大半です。

ですが、ベン・アフレックの弟であるケイシー・アフレックが主演である「ア・ゴーストストーリー」は、幽霊表現が面白く穴の開いたシーツをかぶっているのが幽霊ということになっています。

そのアイデアも面白いですが、本作品は、補助線をひくように他の映画を知っていると、より異なる視点で見ることもできますので、感想がてら簡単な解説もしてみたいと思います。


ポルダーガイスト

さて、主人公であるC(名前がCです。特定の固有名詞をもっていないキャラクターとなっています)は、妻であるMと、仲良く暮らしていました。

とはいえ、妻のほうは、引っ越し癖があるらしく、別の家に引っ越ししたい
一方で、Cは、家が気に入っているのか、引っ越ししたがってはいません

謎のポルダーガイスト現象が発生したりしますが、どこか離れがたい雰囲気を感じ取っているのです。

しかし、事故によってCが死んでしまい、突然、幽霊になってしまう、というところから物語は動き始めます。

本作品は、幽霊になって見守るだけの男の話かと思いますが、この作品世界におけるゴーストがどういう存在なのかを示しており、普通の感覚でみると、よくわからなくなってしまうかもしれません。

一応、ネタバレメインでオススメの映画を紹介していきますので、気になる方は、本編をみてから戻ってきていただければと思います。


映像の撮り方

「ア・ゴーストストーリー」は、物語の前半はかなり冗長的なつくりとなっています。

夫婦がベッドでいちゃいちゃしてみたり、奥さんが引っ越しの準備を進めるために庭にゴミをだしてみたりと、かなり長回しをしています。

Cが死んだあと、奥さんがチョコレートパイを食べるシーンがあるのですが、これもまた長いです。

悲しみを表現するという点において、大切な誰かを失ったときの表現として、これほど映像で伝わることもないのですが、全般的に長く感じてしまう点については、我慢していただきたいところです。

だからこそ、後半になるにつれて、ゴーストとなった主人公の時間感覚がおかしくなっていくことについて、より明確にわかるようになっていきます。

また、幽霊であるという表現が、シーツをかぶること、というのは面白いのですが、この表現がチープにならないようにしているのも面白いです。

よくある幽霊表現としては、半透明になってみたり、何も気づかない一般人が主人公をすり抜けてみたりして驚く、というシーンが必ずのように入るものですが、「ア・ゴーストストーリー」では、そんな陳腐な表現は使いません

現世の人間は決してゴーストの立ち位置を邪魔しないようにしている点と、それが不自然にならないように動きを制限しているところが、洒落た演出となっているところです。


考える映画

また、本作品では、ゴーストになった主人公はまったくしゃべらなくなります。

幽霊同士で字幕で話をしたりはしますが、何を考えているのかはセリフで示されることがありません。

また、登場人物たちも基本的には、口数が少ないため、何を考えているかは想像するしかないところもまたポイントです。

「俺は悲しいっ!」

とかセリフで言わないので、正確にはわかりませんが、登場人物たちの気持ちになって深く入り込もうとしながら見なければならないので、より深く映画に入り込もうとすることになります。


ゴーストになった主人公が、ぼんやりとした頭でとにかく家に戻り、彼女をひたすら見守る。

新しい彼氏がやってきたら、むっときてモノを落としてみたりするのも仕方のないことです。実は、これがポルダーガイストの正体だった、というのはかわいくも恐ろしいですね。


時間感覚

さて、本作品がたんなる幽霊映画ではなく、SFっぽくみせたファンタジー映画としてつくられているということに気づいて愕然とした人もいるのではないでしょうか。


気づいたら奥さんであるMは、新しい生活にむかって引っ越しをしてしまいます。

その時に、物語の冒頭で言っていた奥さんの癖というか、趣味が発動します。

「子供のころは引っ越しが多くてね。メモを書いて小さく折りたたみ、それを隠した。そうすれば、戻ったときに昔の自分に会える

何を書いていたのかはわかりませんが、主人公であるCがそれをなんとなく覚えていて、どうしても、それを知りたくて探そうとします。

しかし、メキシコ系と思われる住人が引っ越ししてきたり、パーティーピーポー達の集まる場所になってみたりと、うまくいきません。

このあたりから主人公は、時間がどんどん飛ぶようになっていきます。

ゴーストというのはそういうものかもしれないな、っていう妙な納得感があるから不思議です。

彼の中の時間はどんどん飛んでいき、気づくと、家が取り壊されてしまいます。

花柄のゴースト

「ここで人を待っている」

「誰を待っているの?」

「覚えてない」

どれだけの年月を過ごしているのかわかりませんが、幽霊という存在が、どういうものかはわかるような気がします。

家が取り壊されるとき、彼女のセリフは切ないものがあります。

「もう、来ないみたい」

そう言ってシーツだけになってしまう彼女。

ゴーストの存在がどういうものかも含めて、花柄のゴーストがいることでわかるようになっているところです。


おススメ映画


さて、ここからは、本作品を踏まえた上で、どういう映画が補助線になるかという点でオススメ映画を紹介してみたいと思います。

「ア・ゴーストストーリー」は、未来のビルから、飛び降りると、突然開拓時代にタイプスリップします

そして、再び主人公が引っ越ししてきたときに時代がすすみ、彼は、彼女が隠したノートの切れ端を見つけて成仏する、という話になっています。

言い方が適切かはわかりませんが、二週目に入ったCのゴースト先にノートをみつけてしまったからこそ、一周目のCは切れ端をみつけられないまま未来にまでいってしまったと考えられます。


このあたりの時間感覚の飛び方などについて面白さを感じ取った人は、ぜひ以下の作品をご覧いただきたいと思います。

「スローターハウス5」

こちらは、第二次世界大戦のドレスデン爆撃に居合わせた主人公が、トラルファマドール星人によって、人生のいろいろな場面にふっとばされる話となっています。

言っている意味がわかりずらいと思いますが、四次元的な感覚をもつ別の生命体に、自分の人生のいろいろな地点に飛ばされるようになった主人公となっています。

自分が80年の人生であったとすれば、10歳のときも、50歳の時も、4次元的な存在からすればそれは等価なのです。

我々人間は、時間を未来にしか進むことができませんが、4次元的な存在からすれば、過去に戻ることも可能なのです。

さて、さらに、そんな思考を、言語という点から広げていく物語もあります。

「メッセージ」

これも、謎のタコのような宇宙人が現れる物語となっています。

この宇宙人もまた4次元的な存在となっており、使っている言語が4次元的なものになっています。
主人公は、4次元的な感覚をもつ宇宙人の言語を学ぶことによって、自分自身もまた4次元的な感覚へとかわっていくことになり、未来で知ったことをつかって、今に転用したりすることができるようになります。

「ア・ゴーストストーリー」はどちらかというと、「スローターハウス5」寄りで、起こったことはかえられず、ただ見ていることしかできないところが特徴といえるでしょう。

ちなみに、ちょっと趣旨が異なりますが、人生のあらゆる可能性をさぐった男の物語としては、ジャコ・ヴァン・ドルマル監督の最高傑作「ミスターノーバディ」がオススメです。


「ア・ゴーストストーリー」は、映像の撮り方が面白い作品となっており、シーツをかぶった幽霊が、どんどんかわいく見えてくるから不思議です。

はじめは真っ白だったシーツは、すこしずつ汚れていきます。

真っ黒な瞳が愛らしく見えてくるあたりで、主人公は、猫のようにカリカリと柱をひっかいて、彼女が残したメモ書きを見つけるのです。

SFとして考えるとちょっと矛盾するような点もありますが、そういう男の人生の死後も含めた物語と思えば、ファンタジー映画としてジャンル分けされるのもわかる映画となっております。

予算が、10万ドルという破格の安さで作られている映画ではありますが、決してチープさは感じない映画となっています。


以上、シーツをかぶった怖くない幽霊。映画「ア・ゴーストストーリー」感想でした!


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