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ブタから始まる過去巡り「PIG ピッグ」

公  開:2022年
監  督:マイケル・サルノスキ
上映時間:92分
ジャンル:ドラマ/料理
見どころ:料理をつかむところ

ブタとの生活も、いいもんだメ~

「俺の豚を返せ」

ニコラス・ケイジが愛するブタを奪還する、慟哭のリベンジスリラー!

というキャッチフレーズと共に、重々しいイメージのポスター。

これだけ見ると、映画「PIG ピッグ」がどんな映画になるかは、想像に難くないところでしょう。

ちょっと前で言えば、強盗目的で若者たちが侵入した家の老人は、元軍人で返り討ちにあってしまう「ドント・ブリーズ」であるとか、山でひっそり暮らす老人に、子供をさらわれたと女性が助けを求めたら、その老人は、めちゃくちゃ強くて、という「LOU/ルー」であるとか、弱者と思ってしまう老人が、実は物凄い人だった、というのは、定番になりつつあるところではないでしょうか。

ニコラスケイジが主演であり、高級食材であるトリュフを豚と共にさがすトリュフ・ハンターである主人公ロブが、愛する豚を強奪されたことから、取り返すために町にいく、というのが、表面だけとらえた「PIG ピッグ」のあらすじとなっておりまして、ポスターにしてもキャッチフレーズにしても、そのように見えるところです。

ですが、本作品にそれを期待すると、大きく肩透かしを食らうことになりますのでご注意願いたいと思います。

むしろ、孤独な人間の内面に切り込んでいった作品となっており、昨今のグルメブームと相まった作品となっていますので、簡単に解説をしていきたいと思います。


なお、短い作品となっているため、若干のネタバレが発生してしまうことから、その点ご注意いただければと思います。

ブタの可愛さ

本作品は、「PIG ピッグ」というタイトルでありながら、豚そのものはほとんどでてきません

主人公は確かに、トリュフ・ハンターではありますし、ブタを可愛がってはいますが、かわいい豚を沢山みられる映画ではないことは、あらかじめ断っておきたいところです。

「PIG ピッグ」は、過去に色々とあり、山奥にすっかり引きこもって生活していたニコラス・ケイジ演じるロブという男が、愛豚を奪われたことによって、自分の過去と向き合う姿を描いた作品となっており、どちらかというと、文芸作品ともいえる内容となっているのが特徴です。

冒頭でも書きました「ドント・ブリーズ」のような戦闘シーンはありませんし、暴力描写はあるにしても、ニコラス・ケイジがひたすら血を流しているだけで、お世辞にもアクション映画の要素があるとはいえません。

クリント・イーストウッド監督「クライマッチョ」のような、半分引退した老人が、やむにやまれず旅に出ながら、圧倒的な人間力で物事を解決していく、というわけでもありません。

登場するブタはとにかく可愛いのですが、ブタである必然性は、特に内容にも感じる映画です。

グルメブームの果てに

あまり意識することはないと思いますが、アメリカでは空前のグルメブームらしいです。

食というのは人間にとって必要不可欠な要素ではありますし、食と映画というのは時々重要な要素として登場してきます。

近年でいいますと、アニャ・テイラー=ジョイ主演の「ザ・メニュー」なんかも期待されつつ公開された作品でした。

料理のおいしさもそうですが、料理のコンセプトであるとか、表現したいものが云々ですとか、まぁ、かつての日本のグルメブームの時を彷彿とさせるような、食への期待と神格化が進みつつあるといえるでしょう。

「ザ・メニュー」は、そんな料理を食べる前に写真を撮ってみたり、料理そのものの味よりも、そこにあるストーリーばかり注意して、料理の本質を見誤っている人間への警鐘として、思想の偏ったシェフがでてきたりしました。

「PIG ピッグ」もまた、ニコラス・ケイジ演じるロブという男が、有名なシェフだったことが明らかになっていき、彼が抱えている問題点が明らかになっていく物語となっていきます。

グルメブームに対する皮肉であったりするところもあって、批評家からの評価がいいのかもしれないと邪推してしまったりすることろです。

92分という短い作品の中で、3つの章立てがされており、作中で食べる料理がでてくるのですが、そこまで強調する必要があるのかは謎でしたが、まぁ、おそらく、グルメブームの兼ね合いもあるのでしょう。

見えない筋書

とはいえ、本作品の面白いところは、ブタを取り返して終わるのだろう、というところがある程度見えている作品でもあります。

ですが、山奥で一人暮らす老人が一体何ものであるのか、ということが徐々に明らかになっていくあたりは、ミステリ仕立てにも感じられて、どんな展開になっていくのが読めないのは、わくわくするところです。

あっさり犯人が見つかったかと思いきや、なぜか、ホテルの地下に隠された場所で、「ファイト・クラブ」のような集まりがあり、時間内にギブアップしないで殴られれば賞金がもらえる、という謎の賭け場が行われていたりします。

血まみれになりながら、過去の知り合いに会いに行く主人公。

孤独になった老人の人生を追体験していくような内容と、どこに向かっていくのかわからないところは、魅力ともいえるでしょう。

解決は美味しんぼ

日本のバブル期においても、グルメブームというのは発生しており、その余波はいまだに続いているといって過言ではないでしょう。

「クッキングパパ」なんてものもあったりしましたが、今回の映画で思い出されるのは、やはり、漫画「美味しんぼ」でしょう。

料理や食材など、食関係の知識を駆使しながら、昔食べた料理が何だったかをあててみたり、冷え切っていた親子関係を解決してみたりと、人間の悩みの大半を料理で解決してくれるグルメ漫画です。

「PIG ピッグ」においても、実は凄腕の料理人だったというロブは、後になればなるほど料理人としての能力の高さがわかってきます。

料理は全てを解決する感じが、まさか、海外の映画で見ることができる、というのも面白いところです。

とはいえ、「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」という作品もあったりしますので、料理を扱った映画作品も、様々な見せ方があるのだということがわかるところです。

また、本作品は、物語の冒頭と最後で、明確に主人公が変わったことを示してくれています。

それを、カセットテープを最後まで聞く、という点で表現しているところは、素晴らしいです。

可愛いブタが、思ったより見れなかったりはしますが、本作品は、短く見やすい作品となっていますので、ニコラス・ケイジの名演と共にご覧いただければと思います。

以上、ブタから始まる過去巡り「PIG ピッグ」でした。


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