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ネタバレ厳禁。数学者はひそかに暗号を解読する。映画「ビューティフルマインド」


映画「ビューティフル・マインド」は、実在する天才数学者であるジョン・ナッシュを主人公とした映画です。

アカデミー賞も受賞し、名作であることはわかるけれど、天才数学者の人生をみてもしょうがない、思ってしまう人も中にはいるのではないでしょうか。

世の中には、ネタバレ厳禁な映画というのはいくつかありますが、実をいうと「ビューティフル・マインド」もまた、ネタバレすると、映画から受ける衝撃が大きく下がってしまう作品の一つとなっています。


もちろん、ネタバレをしたらところで、どういう所に伏線が貼られているのか、ということ気にしながら見ることができるのですが、本来の楽しみ方とはいえないところです。


ただし、内容がわからないことには、手をだしにくいところだと思いますので、関連する映画も含めて、それとなく紹介し、後半は、ネタバレしつつ解説していきたいと思います。


天才数学者の物語


映画の内容そのものに入ってく前に、ジョン・ナッシュという人物について簡単に説明していきたいと思います。

ジョン・ナッシュこと、ジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニアは、ゲーム理論とよばれる考え方において、ノーベル賞まで受賞した人物となっています。

ゲーム理論と言われてもよくわからない方もいるかと思いますが、いわゆるナッシュ均衡と呼ばれる事柄で知られており、囚人のジレンマ等に代表される、協力したほうがお得だけれど、抜け駆けするやつがいると利益を損をするような状況においては、誰も協力できない、といったジレンマを扱った内容になります。

誰しもがいいと思っていることも、ある条件が発生すると動けなくなるといった物事を扱っており、この手のゲーム理論は数多くあったりします。


「ビューティフル・マインド」では、主人公であるナッシュが、虫の動きであるとか、人々の動きだとか、様々な事柄をみて、その後の理論の構築の種となるような出来事がわかるようになっています。


ただし、本作品は、たんに天才数学者の頭の片隅を覗くことができる、という類の作品ではありません。

天才が苦しむ物語


「ビューティフルマインド」というタイトルは、文字通り美しい心なのでしょうが、この現代社会において、美しい心を維持するというのは大変難しいことでもあります。

特に、感受性が高い人間にとっては、大変生きづらい世の中といっていいでしょう。


ラッセル・クロウ演じるナッシュは、明らかに、他人と関わるのが得意ではない人物として描かれています。

能力的な高さをもっていても、相手が触れて欲しくないところを指摘してしまったり、女性との付き合いをみても、頭がいいから異性への接し方がうまい、というわけではないのがわかります。

自閉症的な傾向をもっているともいえるかと思います。

本作品は、天才の華麗なる成長物語、というものでは決してなく、統合失調症によって、辛い日々を過ごした主人公の、戦いと葛藤を描いたものとなっているのが、ポイントです。

観客である我々は、主人公の能力を知っているのですが、どうにもそれが、開花しない。

開花していく裏側には、同時に、統合失調症という病気への扉を開くことになります。


統合失調症

かつて日本では、精神分裂症といった言葉でも使われておりましたが、現在においては、統合失調症という名称になっています。

医学的なところはおいておくとして、映画をみるにあたって気にするべきところとしては、幻聴や幻覚、妄想といったところから、場合によっては希死念慮といったところまで、命に関わるような症状になる、という点は抑えておいて欲しいところです。


ナッシュが自分の正しさを証明するために、腕を切って中にある装置を取り出そうとするのですが、他人からすれば、単に自傷行為をしているようにしかみえません。

本人の中では、おかしいことをしている感覚ではないところが恐ろしいところです。

本作品は、そんな、統合失調症になっている人物視点で映画をつくっており、観客である我々も、追体験できるような仕組みになっているところは、見どころです。


また、主人公にとっては、彼がどんな形で病気を発症してしまったのか、というところが一つのポイントとなっています。


自分の力がわかっているのに、周りには理解されない

大なり小なり、人はそんな経験をするものですが、ナッシュという主人公は、その能力の高さと周りからの評価がずれていくのを、わかりやすく描いています。


天才であったはずの彼が、教授に、君はここに入れることはできない、と言われた部屋。

そこの景色は、彼の恐怖と憧れを抱かせるところでした。


ペンを置くこと


ネタバレはもう少しあとにしておくとして、前半と後半において非常に重要な場面があります。

それは、優秀な大学に所属する先生たちが、ペンをおいていくシーンです。

作中において、ペンを相手に送るというのは、最大の賛辞を意味するとされています。

ただ、授業もまともに出ず、論文も完成させることのできないナッシュにとっては、絶望的な光景にみえたはずです。

ある意味これが決定打となり、彼は、後にノーベル賞を取ることになる論文に着手することとなるのですが、偏執的な彼の気質がより強化されてしまった要因にはなったと思われるところです。


ネタバレ厳禁の前に

さて、ここからネタバレをしていきたいと思いますので、ご注意下さい。


冒頭でも書きました通り、世の中にはネタバレをすると、かなり衝撃が下がってしまう作品が多々あります。


有名どころでいえば、M・ナイト・シャマラン監督「シックスセンス」が代表的なところでしょうし、「ビューティフル・マインド」をみて、より複雑化した内容をみたい方に、マーティン・スコセッシ監督「シャッターアイランド」なんかも、オススメしたいところです。


「ビューティフル・マインド」についていえば、天才数学者の苦悩をみる伝記風のものと思って見つつ、そういう話だったのか、と衝撃を受けていただきたいところですが、本当に大事なところは、別にありますので、遠慮なくネタバレをしていきます。


世界を支える人


ここからは、感想を含めて書いていきます。


「ビューティフルマインド」の前半は、足踏みしていた天才数学者であるナッシュが、ようやく周囲から認められて、就職先も良いところに行きますが、どこか満たされない生活が描かれていきます。

そこで、暗号解読の仕事が彼の元にきて、物語は思わぬ方向に流れます。


天才科学者は、暗号解読によって世界を助ける話だったのかと思わされるのですが、何か怪しげな感じが漂います。


このあたりの暗号解読云々のやり取りについては、これもまた、実在の人物をモデルにつくられた「イミテーションゲーム」が面白いところです。


数学者たちが、戦争を終わらせることができる、というのは、まさに、このあたりのことがあるためです。


一見、世の中に直接的に役にたつように思えなくても、重要な仕事をしている人たちがいることがわかる作品となっています。

また、主人公であるナッシュの理論もまた、他の人たちから見れば、変人の行動にみえたでしょうが、ノーベル賞を受賞し、数多くの分野に転用されたことで、誰かの為になっていることがよくわかるようになっています。

天才は気づく


あと、統合失調症について、より深く知ることができるところもポイントです。

他人からすれば、変わった人というだけであったとしても、本人は、もっと深く辛い状況にあるかもしれないという事がわかりますし、その理解への一助になるところでもあります。


周りのサポートが非常に重要であり、主人公の妻がサポートをしたからこそ、なんとか主人公は立ち直れたともいえるところです。


「チャーリーの姪が、成長していない」


自分自身がつくりだす妄想の中にあっても、矛盾を発見し、追求していく姿もまた、面白いところです。


天才だから、全てを華麗に解決する、というわけではなく、天才であっても苦悩はするし、誰かの助けを必要としている、という非常に考えさせられる作品となっています。

また、これは、統合失調症に関わらず、全ての物事に対していえる物語でもあるところがポイントです。

ナッシュは、自分にしかみえない人たちと、適度な付き合い方を身につけます

時々、言い合いになったりはしますが、彼らは、決してナッシュを傷つけようとしてでてきるわけではなく、守るためにでてきているのです。

結果として、社会的には不適合な行動になってしまったりしますが。


現実と区別がつかない幻覚として出てくるチャーリーや姪、パーチャーといった面々ですが、これは、我々にも関係のないことではないはずです。

時には、怒りや悲しさにとらわれながら、自分自身の想像力に振り回されてしまうこともあるものですが、そんな自分自身との付き合い方を、「ビューティフルマインド」は、天才数学者の生涯を通じて教えてくれる作品となっております。

あらすじだけでみると、なかなか見る気がしない作品とは思いますが、アカデミー賞を受賞しているということも含めて、何かあるな、と思いながら作品をみていくと、思わぬ作品と出会うこともあったりするかもしれません。


以上、ネタバレ厳禁。数学者はひそかに暗号を解読する。映画「ビューティフルマインド」でした!

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